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人気低迷を嘆く日本の男子ゴルフツアーが実は今、世界から「モテモテ」だというウソのような本当の話

舩越園子ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授
日本人選手が多数出場したシンガポール・オープンも今年で終了。変化は目まぐるしい(写真:Haruhiko Otsuka/アフロ)

 日本の男子ゴルフツアー(JGTO)といえば、巷から聞こえてくる声は「女子ゴルフと比べて人気がない」「試合数がちっとも増えない」「ギャラリーが少なくて閑散している」等々、低迷ぶりを嘆く声ばかりだ。最近では、ツアーの消滅を危ぶむ声さえ上がっている。

 だが、そんな日本ツアーが実は今、世界のゴルフ界からは「モテモテ」で、あっちからもこっちからも「ラブコールを受けている」とは、ウソのようで本当の話だ。

 日本ツアーは、どちらかを選べる贅沢な立場にある――。低迷久しい日本ツアーが、そんな「いい状態」に至った経緯をご理解いただくために、まずはアジアツアーの現状をみなさんに知っていただきたい。

【アジアツアーの孤立化】

 2019年シーズンまでのアジアツアーは、年間25試合前後を誇っていた。そのうちの多くは欧州のDPワールドツアーや南アのサンシャインツアーとの共催大会。全米オープンや全英オープンといったメジャー大会も、出場資格等においてアジアツアーと何かしらのリンクが保たれていたため、メジャー大会もアジアツアーの大会として日程に組み込まれていた。要は、それだけ密な関係が築かれていたということになる。

 しかし、サウジアラビアのオイルマネーをバックに付けたグレッグ・ノーマンが、そんなアジアツアーに目を付け、まず200ミリオン、次に100ミリオン、その後、さらに100ミリオン、総額400ミリオン(4億ドル=約492億円)を投入し、今季からアジアツアーの中に年間10試合からなる「インターナショナル・シリーズ」を創設。そうやってノーマンはアジアツアーを実質的に傘下に収めた。

 すると、アジアツアーに対する世界の風向きは、それまでの順風から、激しいアゲンストへと一変した。

 ノーマン率いるサウジ勢力を激しく牽制しているPGAツアー(米ツアー)は、DPワールドツアー(欧州ツアー)と戦略的提携を結んで、次々に対抗策を打ち出している。そして、いわば一心同体の米欧両ツアーは、ノーマンの傘下に入ったアジアツアーに背を向けるかのように、従来の共催大会をすべて引き上げてしまったのだ。

 かくして、アジアツアーが謳歌してきた米欧ゴルフ界との蜜月は、あっさり終わってしまい、今、アジアツアーは世界において孤立化しつつある。いや、「孤立化させられている」と言うべきなのかもしれない。

 米欧両ツアー関係者に電話をかけても「応答してもらえない」「会話してもらえない」というアジアツアー関係者の嘆き声が聞こえてくる。

 コロナ禍の中、オーガスタ・ナショナルは世界各国のツアーに支援金を贈ったそうだが、ノーマン傘下に入ったアジアツアーに対しては「すでに支払った支援金の返金を求めた」なんて話まで、水面下では飛び交っている。

【アジアからのラブコール】

 そんな中、なかなか意思表示をしない日本ツアーは、態度を曖昧にしていたことが功を奏した格好になり、アジアツアーと米欧両ツアーの双方からラブコールを受ける有利な立場を結果的に「いただいてしまった」のだ。

 米欧、南アなどから従来の共催大会をすべて引き上げられてしまった現在のアジアツアーにおいて、依然として共催大会を擁しているのは日本と韓国だけだ。

 当然、アジアツアーは日本に「去らないでね」「一緒にやろうね」と熱視線を送ってくる。そのラブコールを受け入れ、日本ツアーがアジアツアーと組み、アジアとの共催大会をさらに増やすなどして関係を強化すれば、ノーマンがすでにアジアに投じた総額400ミリオンの恩恵を日本も享受することができる。

 ノーマンがアジアツアーに今季から新設し、向こう10年間の開催を約束しているインターナショナル・シリーズ10試合の中には、アジアツアーと日本ツアーとの共催大会が2つ、アジア、日本、韓国の3ツアーによる共催大会が1つ含まれており、日本はアジアツアーと手を組めば、金銭的にも、戦う場の確保においても、間違いなく大きな恩恵にあずかることができるのだ。

 ノーマン自身は、アジアツアーとは別に、「リブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズ」なる新たなワールドツアーを今年6月からスタートさせる予定で、ロンドンで開催される初戦には48名の出場枠に対して世界各国から70名超(別情報では200名超)がエントリーする予想外の"盛況"を迎えている。

 その48名の枠は、あらかじめ「PGAツアーから3名」「欧州ツアーから3名」などと細かく規定されているのだが、驚くなかれ、日本ツアーにだけは6名もの最大枠が用意されている。

 ノーマンからもラブコールを送られている日本は、まさに「モテモテ」状態だ。

【どちらを選ぶ!?】

 一方、米欧両ツアーは日本ツアーがアジアツアーと手を組むことを阻止する動きを見せ始めている。

 ある日本ツアー関係者は「『これ以上、アジアツアーとの共催大会を増やさないでくれ』という米欧側からの暗黙のプレッシャーを感じている」と、重苦しい現状を明かしてくれた。

 日本ツアーをアジアツアーから遠ざける目的で、今後、米欧ツアーが日本ツアーとの共催大会を「新設しよう」「増やそう」などと、一層熱いラブコールを送ってくることも予想され、そうなれば、もちそんそれはそれで、試合数減少に苦悩している日本にとっては、うれしい限りだ。

 それと同時に、アジアツアーを世界においてさらに孤立化させるための米欧側の動きは「今後、さらに活発化しそうな気配だ」とアジアツアー関係者は嘆いている。

 現状では、アジアツアーでも世界ランキングのポイントを稼ぐことができるため、その意味ではアジアツアーからメジャー4大会出場への道が開けている。

 だが、将来的にその道が米欧勢力によって閉ざされる可能性は「あるかもしれない」と考えておくべきだろう。日本とアジアの両ツアーを掛け持ちで戦いながらメジャー大会出場といった世界デビューやグローバルな活躍を目指している選手たちは、あらかじめ、その点に留意しておく必要がある。

 すでに、欧州ゴルフの総本山であるR&Aは、これまでアジアツアーの賞金王に授けていた全英オープン出場資格を今年から取りやめることを発表した。

 欧州の下部ツアーは、ノーマンの「リブ・ゴルフ・インビテーショナル・シリーズ」からオファーされた3つの出場枠を「受け取れない」と突き返し、そうやって米欧側への忠誠心を示した。

 そして、マスターズを主催するオーガスタ・ナショナルは、毎年、メジャー・チャンピオンたちを来賓としてマスターズに招き入れているのだが、全英オープン2勝のノーマンには、今年、招待状が届かなかったそうだ。

 そんなふうに世界のゴルフ界は、今、大きく二分され始めており、日本は立場を決め切れない状態で、その境界線上をさまよっているがゆえに、両サイドから「こっちへおいで」と強く手招きされている。

 日本がアジアツアーを選べば、ノーマン側から投入されたビッグマネーによって向こう10年はおそらく安泰になる。だが、アジアツアーとともに世界から孤立させられる可能性は、あらかじめ覚悟しなければならない。

 逆に、日本が米欧勢力を選べば、米欧ツアーとの関係はこれまで以上に深まるだろう。だが、長年、ご近所づきあいをしてきたアジアツアーとの「お別れ」を迫られることを覚悟しなければならない。

 どの選択肢を選んだとしても、その先に確固たる保証はない。だが、世界のどのツアーにも未来の確固たる保証など、あるはずがない。

 PGAツアーのジェイ・モナハン会長は、戦々恐々としている今の心境を「毎朝、目覚めると、僕のランチを誰かが奪い取ろうとしていると感じる」と表現していた。世界一のPGAツアーの会長でさえ、不安で胸が潰されそうな日々を過ごしている。

 そんな常在戦場の世界のゴルフ界において、方々からラブコールを送られ、「どっちにしようか」と選べる立場にある日本は、今、世界で最も贅沢な立場にあるプロゴルフツアーと言うことができる。

 その贅沢が、世界のゴルフ界の情勢変化によって結果的に授けられている受動的な贅沢であることが少々淋しく感じられる。

 望むらくは、我が日本の男子ゴルフツアー自体が、贅沢な立場や環境を自ら作り出せる能動的で積極的なツアーに変身していただきたいと願っている。

ゴルフジャーナリスト/武蔵丘短期大学・客員教授

東京都出身。早稲田大学政経学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て1989年に独立。1993年渡米後、25年間、在米ゴルフジャーナリストとして米ツアー選手と直に接しながら米国ゴルフの魅力を発信。選手のヒューマンな一面を独特の表現で綴る“舩越節”には根強いファンが多い。2019年からは日本が拠点。ゴルフジャーナリストとして多数の連載を持ち、執筆を続ける一方で、テレビ、ラジオ、講演、武蔵丘短期大学客員教授など活動範囲を広げている。ラジオ番組「舩越園子のゴルフコラム」四国放送、栃木放送、新潟放送、長崎放送などでネット中。GTPA(日本ゴルフトーナメント振興協会)理事。著書訳書多数。

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