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「歌う楽しさ伝えたい」 日本版ペンタトニックス、Love Harmony's Inc.始動

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
「歌うことの楽しさ、みんなでハモったりパートを変えて歌うことの楽しさを伝えたい」

ソニー・ミュージックエンタテインメントが注力する、地域密着型の劇団・グループが話題

レコード会社大手ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)の、新人開発部門であるSDグループが、2015年から注力しているのが、全国各地での劇団の育成と、その活動を通じてタレント・俳優の育成だ。現在は北海道の「NORD(ノール)」、宮城の「ぜんりょくボーイズ」、東京の「劇団番町ボーイズ☆」、愛知の「劇団ヘラクレスの掟」、そして福岡の「10神ACTOR(テンジンアクター)」が、それぞれの地区で活躍している。

そんなグループの中から、歌に定評があるメンバーを選抜、そこに次代の歌姫と注目されている草ケ谷遥海が加わり、ボーカルグループ・Love Harmony's Inc. (以下LHI)が結成され、12月から活動をスタートさせた。女性1名、男性7名という構成で、さながら日本版ペンタトニックスといったところだろうか。このグループの結成のいきさつ、なぜ今ボーカルグループなのか、その狙いをSME・SDグループ/TDMルーム チーフプロデューサー有田俊介に話を聞かせてもらった。

各地の劇団・グループから歌に定評があるメンバーを選抜。注目のシンガー・草ケ谷遥海と、ヒューマンビートボクサー・RyoTracksも加わり、日本版ペンタトニックスを目指す

左から山田健登、三岳慎之助、島太星、草ケ谷遥海、安大智、坂田隆一郎、木原瑠生、RyoTracks
左から山田健登、三岳慎之助、島太星、草ケ谷遥海、安大智、坂田隆一郎、木原瑠生、RyoTracks

まずはメンバー紹介から。紅一点、草ケ谷遥海は、今年1月3日にオンエアされた『第5回全日本歌唱力選手権 歌唱王』(日テレ系)で、惜しくも優勝を逃したが、決勝で「Listen」(ビヨンセ)を歌った草ケ谷は、その圧巻の歌声で視聴者をくぎ付けにした。ネット上でも「TVの前で号泣した」「鳥肌立った」「点数とかどーでもいいくらい感動した」と絶賛の声が飛び交い、大きな話題となった。そして3月には、日テレ系の人気番組『行列のできる法律相談所』の“気になる人大集合スペシャル第23弾!”に出演。その歌は共演者を驚かせた。さらに彼女は今夏、イギリスのオーディション番組『X FACTOR』にも挑戦。その歌で、会場のウェンブリーアリーナの観客を総立ちにさせ、審査員を驚かせた。来年、さらなるステップアップが期待できる、次代の歌姫である。

北海道の「NORD」に所属している島太星は、今年2月アメリカ・ニューヨークの音楽の殿堂『アポロシアター・アマチュアナイト』に出演。サム・スミスの「Stay With Me」を披露。1,500人の観客から大きな拍手を浴びた逸材だ。『劇団番町ボーイズ☆/銀河団』からは木原瑠生(るい)、そして「10神ACTOR」からは三岳慎之助、坂田隆一郎、山田健登が選抜された。坂田と山田はサカタケントというユニットを組み、今夏、草ケ谷との2マンライヴを福岡、大阪、東京で行っている。「10神ACTOR」内グループ「赤坂BOY」からは、最年少16歳の安大智(やす・だいち)が参加する。安は、「カラオケバトル」(テレビ東京系)にも出演、さらに今年草ケ谷も出場した『第5回全日本歌唱力選手権 歌唱王』(日テレ系)の本戦大会に出場するなど、話題になっている。そしてヒューマンビートボクサー・RyoTracksという顔ぶれだ。

「地域密着型で頑張っている劇団・グループを横断する企画がやりたかった」

「地域密着型で、それぞれの劇団、グループが頑張っているので、そこを横断する企画をやりたいというのが始まりです。これまでもそれぞれの公演や舞台に参加し、交流を図ってきましたが、歌の上手いメンバーも多いので、レコード会社としてはやはり歌をやりたいと思いました。それで2017年から人選も含めて、本格的にプロジェクトが動きはじめ、僕が、洋楽のセクションに在籍していた時、ペンタトニックスにたずさわっていた時期もあったということもあり、まずはコンセプトを“日本版ペンタトニックス”というところに、落とし込みました。SMEのボーカルグループというと、今Little Glee Monsterの活躍が目覚ましいこともあるし、時代は回る、流行は巡るともいいますが、歌ものグループが、また世の中的に受け入れられる傾向なのかなと思いました。そんな時、SDで育成中の草ケ谷がどんどん注目を集めるようになって、彼女が参加してくれると、まさにペンタトニックスのようなグループが作れると思いました。でもボイスパーカッションができる人だけが見当たらなくて、別途オーディションをして、RyoTracksさんに参加していただきました」(有田氏)。

ペンタトニックスは2011年に結成、グラミー賞3度受賞している世界的なアカペラグループだ。4月には最新ヒット曲ばかりをカバーしたアルバム『PTX プレゼンツ:トップ・ポップ VOL.I』を世界同時リリースし、11月には通算3作目のクリスマス・アルバム『クリスマス・イズ・ヒア!』を発売している。

「LHIは全員がリードボーカルをとれるのが強み」

「草ケ谷の歌がこのグループを引っ張ってくれると思いますが、そこがペンタトニックスと違うところです。ペンタトニックスはメインボーカルの男性2人が引っ張る曲が多くて、そこに紅一点カースティン・マルドナードの声が乗ってきます。LHIの強みは、全員がリードボーカルとしてできるというところです。誰もがフロントマンという構図を作りたいと思っています」(同氏)

まずはその歌のうまさ、表現力の高さを味わってもらうために、名曲のカバーからスタートする。「浪漫飛行」(米米CLUB)、「残酷な天使のテーゼ」(高橋洋子)、「雑草」(HIKAKIN&SEIKIN)などがラインナップされ、どれも原曲のアプローチとは違うが、ビートボックスが炸裂し、8人の個性、様々な表情の声が重なり、ボーカルグループならではの厚み、豊潤さを感じさせてくれ、新鮮だ。

「まずは名曲のカバーからスタート。数ある名曲を、違うアプローチの仕方で表現してみたかった」

「世の中に出ている数々の名曲を、違うアプローチの仕方で表現してみたかった。それが歌い継ぐということにもつながるし、名曲の名曲たるゆえんを、幅広い世代に伝えたいと思いました。もちろんオリジナルもどんどん出していきたいと思っています。全員所属が違うので、全員が顔を揃えるのがなかなか難しいのですが、先日「残酷~」と「浪漫飛行」のミュージックビデオを撮影しました。その時に初めて全員集合しました(笑)。当たり前ですが、個性もバラバラで、でもすぐに仲良くなって、それぞれのグループとは違うまた新しい仲間ができたような感覚だと思います。でもやっぱり歌うと迫力があるし、それぞれが輝いているし、シーンの中で面白い存在になってくれると思います」。

「LHIで得たものを、それぞれのグループに還元してほしい」

地方密着で活躍しているグループから選抜され、歌に特化した、歌好きが集まっているのがLHIだが、有田氏はここで得たもの、感じたものをそれぞれがグループに持ち帰って昇華させ、各地のグループを全国区にするために力になって欲しいと期待する。

「例えば島くんは北海道での活動がメインですけど、彼の存在が北海道以外の場所にも届いて欲しい、10神ACTORも、福岡、九州だけではなく、全国の皆さんに知って欲しいというところが、本音です。LHIが花開いて、メンバーがそれぞれのグループに戻った時にここで得たものを還元し、大きな力になって欲しいです」(同氏)。

先行きが不安な世の中で、一瞬でもその不安な気持ちや嫌なことを忘れさせてくれ、心に寄り添い、勇気を与えてくれるのが音楽であり、歌だと思う。ボーカルグループの歌は、人の声が幾層にも重なり、強く、優しい。もちろん聴くだけではなく、歌うことでも心は潤う。

「歌うことが楽しいな、みんなでハモったり、パートを変えて歌うのって楽しいなという部分が伝わって欲しいです。なので、歌のパートは常に変わっていて、そういう絵作りも心がけていますし、何より本人たちがレコーディングの時も撮影の時も、とにかく楽しんで歌っていたので、そこが伝わると嬉しいです」(同氏)。

「スタートは8人だが、決して固定ではない。ゆくゆくは各地すべてのメンバーにも参加してほしい」

LHIは8人でスタートするが、有田氏はメンバーの数は固定しないという。

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「今はこの8人の声、歌がフィットしていると思いますが、このメンバーでフィックスとは思っていなくて、ゆくゆくは各地すべてのメンバーにも参加してほしいですし、そこはフレキシブルに考えています」(同氏)。

LHIは、その圧倒的な歌で人々を感動させ、自分達が歌を伝えることを通して得た感動を、それぞれの場所に持ちかえり、それぞれの表現方法で、さらに人々に感動を与える。そしてまた歌う――次代を担う、強い“表現者”が生まれることを期待したい。

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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