南北関係改善における、韓国政府と国民の「微妙な」距離感
北朝鮮代表団の帰国から2日が経ったが、韓国内では未だ朝鮮半島の今後をめぐる甲論乙駁が収まる気配を見せていない。そうした中、国民とのコミュニケーションが今後の課題として浮上している。
統一部の自己評価を検証
今回の北朝鮮代表団との接触に対する韓国政府の自己評価は、11日夜に統一部が発表した説明資料で明確にされている。統一部(統一省)は南北関係を主管する。
資料では、「意味と評価」の項は5つから構成されている。
3つの「意味」
▼南北関係復元の流れを強化する契機に
−分断以降はじめて、北朝鮮の憲法上の国家首班と、北朝鮮の最高指導者の直系家族が韓国を訪問。南北関係改善のための北朝鮮の意志が非常に強かった。
▼朝鮮半島の問題解決のための、南北の主導的な役割が明確
−朝鮮半島問題の当事者として、南北が主導的な役割を果たすべきという点に対し、国際社会からの広範囲の支持を獲得
▼平昌冬季五輪の開催成功にも寄与
−南北の和解と全世界の和合を誇示する平和の祝典にとして開催できるようになった。南北同時入場、単一チームなどで平昌五輪に対する国際社会の耳目を集中させた。
注目したいのは、一つ目の部分だ。正確には「南北関係の改善のための北朝鮮の意志が非常に強必要な場合、前例のない果敢な措置を取れるという点を見せてくれた」という内容になる。
このように書くということは、韓国側が南北首脳級会談の中である種の手応えを感じたことを、如実に表わしていると見てよい。
筆者が根拠について13日、統一部に問い合わせたところ「どんな言及があったのか確認できない」という返事だったが、最高指導者の妹・金与正(キム・ヨジョン)特使の存在感は特別だったことは疑いようがない。
次いで、今後の課題としては以下の2点を挙げた。
2つの課題
▼朝鮮半島の平和に対する機会と挑戦の可能性が併存する状況で、主導的で積極的なイニシアティブの確保が必要
−端緒を作ることには成功したが、北朝鮮の核問題についての立場の違いが明確で、非核化においては可視的な進展がなかった。双方の立場を理解しながら追加の措置が必要
▼平昌五輪への北朝鮮の参加に対し、多くの国民が歓迎しているが、国内外での批判と憂慮の視点も多くあることが事実
−短期間で多様な日程を消化しなければならない状況で、国民と疎通、共感する努力が足りなかった。
「国民と疎通、共感」という部分をおろそかにする場合に生まれる世論の反感の怖さを、韓国政府は五輪開幕前の女子アイスホッケー南北単一チーム結成の際にイヤというほど味わっている。
そして今後、この部分こそが南北関係改善を推進する上で最も重要になってくる。これについては後述する。
今後の推進課題
韓国政府はさらに、今後、南北関係をどのように進めていくのかの方向性も明かしている。以下の4つにまとめられる。
▼南北対話の連続性を維持しながら、南北関係の正常化を推進
−南北首脳会談の要件を作り、会談を実現するために南北が協力。離散家族再会問題の解決など人道的な事案、南北間の軍事的緊張緩和などの懸案に対し、優先的に協議
▼南北関係の進展と朝鮮半島非核化の好循環構図の形成
−状況によっては、南北関係の進展を通じ、米朝対話をけん引するなどの弾力的な相互けん引関係を目指す。
−非核化課程で、一定の進展があるなど、要件が作られるならば、南北関係の本格的な進展が可能。
▼国民との疎通を強化し、国民と共に行う北朝鮮政策を推進
−国民の多様な憂慮と指摘を謙虚に取り入れ、国民が共感と支持を遅れる北朝鮮政策を推進。今後、南北関係の推進関係を国民と国会に説明し、意見を求め、積極的に国民と疎通
▼南北が主導しながらも、関連国と協力しながら国際社会の支持を確保
−確固とした朝鮮半島の非核化という立場を土台に、北朝鮮制裁の国際協調も忠実に移行しながら、平和的解決の立場も堅持。
−平和と繁栄というビジョンを関連国と共有しながら、協力を強め、北朝鮮の核問題を根源的に解決し、朝鮮半島の構造的な平和を定着させるために努力
米国、日本などの周辺国が懸念する「核問題」の扱いだが、韓国側も問題を認識していると見てよい。そもそも、文在寅大統領は昨年5月の就任以降、事あるごとに「北朝鮮の非核化が目標」で、そのために「最大限の圧迫と対話」を行うと明言してきた。
国民との意思疎通は何よりも大切
様々な課題がある中、筆者が最も注目しているのは「いかに共感を得ながら南北関係改善を進めることができるか」という点だ。
過去の記事で繰り返し述べてきたように、青瓦台(韓国大統領府)や統一部では、これまで、北朝鮮との水面下の交渉内容を一切明らかにしてこなかった。
もちろん、機密事項もあるだろう。だがこれにより、南北関係の進展は全て「サプライズ」として受け止められてきた。
「五輪参加」のように感動的に受け入れられる場合もあるが、前述したような女子アイスホッケー単一チーム結成時のように、否定的に作用する場合もある。
特に最近になっては、南北関係を取り仕切る統一部への不満が高まる傾向がある点が気がかりだ。
現政府では青瓦台(大統領府)の力が特に強いとされるが、こと南北関係政策においては統一部の力が強いという声を少なからず耳にする。
統一部への疑問も
過去の李明博、朴槿恵という保守政権下でもサッカーを中心とした南北のスポーツ交流を続け、平昌五輪への北朝鮮参加にも寄与したとされる南北体育協会の金慶星(キム・ギョンソン)理事長も政府への不満を隠さない。
13日、筆者の電話インタビューに対し、「政府は南北対話を行う中で、地方自治体や民間団体を排除している。こうした事情は過去の李明博・朴槿恵政権に強く見られた傾向だが、文政権になっても改められていない」と指摘した。
筆者が「政府はそれでも、そうした態勢を改める姿勢を見せているようだ」としたが、重ねて疑問を呈した。
「政府が市民団体などとの疎通を深めるというのはあくまでも外向けの建前で、実際は意図的に排除していると見てよい。現に、平昌五輪は江原道で行われているが、こと南北関係について江原道は関わることができず、統一部だけで事が進んでいる」と現状を明かした。
北朝鮮との関係をめぐる議論は、そうでなくとも韓国社会で最も対立を呼びやすく、敏感なものとなっている。韓国政府は今後こうした指摘を取り入れ、土台をしっかりさせる必要がある。肝心の足下が揺らいでは、南北関係改善は難しいものとなる。