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大人のアトピー性皮膚炎治療に革命?光線療法と全身療法の最新エビデンス

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

【大人のアトピー性皮膚炎、治療の選択肢は?】

みなさんは、大人になってからもアトピー性皮膚炎に悩まされている方が意外と多いことをご存知でしょうか?アトピー性皮膚炎は、子供の病気というイメージが強いかもしれませんが、実は成人になってから発症する人も少なくありません。

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の異常やアレルギー反応によって引き起こされる慢性の炎症性皮膚疾患です。かゆみや腫れ、皮膚の乾燥などの症状が特徴的で、時に日常生活にも大きな支障をきたします。睡眠障害やストレス、仕事や学業への影響など、QOL(生活の質)の低下も深刻な問題です。

多くの場合、保湿剤や外用ステロイド剤などの塗り薬でコントロールできますが、重症や広範囲に広がるアトピー性皮膚炎、QOLが著しく低下している場合、塗り薬だけでは十分な効果が得られないこともあります。そんな時、光線療法や全身療法(内服薬や注射薬による治療)の出番です。

ただし、これらの治療法は効果だけでなく副作用のリスクもあるため、皮膚科専門医による適切な評価と管理が不可欠です。安易な自己判断は避け、信頼できる医師とよく相談しながら治療方針を決めていくことが大切です。

【光線療法と全身療法の位置づけは?】

米国皮膚科学会(AAD)が2014年に発表したガイドラインが、このたび改訂されました。新ガイドラインでは、成人アトピー性皮膚炎に対する光線療法と全身療法についての最新のエビデンスに基づいた推奨が示されています。

光線療法には、UVB(ナローバンドUVBなど)、UVA1、PUVA(ソラレン+UVA)などの種類があります。紫外線による抗炎症作用を利用した治療法で、外用薬だけでは効果不十分な場合に適用されます。週2~3回のペースで数カ月間、皮膚科や専門クリニックに通院する必要があります。

一方、全身療法には、生物学的製剤(デュピルマブ、トラロキヌマブ等)、JAK阻害薬(アブロシチニブ、バリシチニブ、ウパダシチニブ)、その他の免疫抑制薬(シクロスポリンなど)が含まれます。内服薬や注射薬によって全身の免疫反応を調整し、炎症を鎮めるのが目的です。

ガイドラインでは、生物学的製剤とJAK阻害薬については強い推奨が、光線療法や一部の免疫抑制薬については条件付きの推奨が示されました。一方で、ステロイドの内服については副作用の観点から使用が推奨されていません。

これらの治療法の選択は、アトピー性皮膚炎の重症度やQOLへの影響、各治療法の効果と安全性、アクセスのしやすさなどを総合的に考慮し、医師と患者のシェアード・ディシジョン・メイキング(SDM:共同意思決定)のもとで慎重に行うべきでしょう。

特に生物学的製剤やJAK阻害薬は新しい治療選択肢として期待されていますが、長期的な安全性についてはまだ十分なデータがありません。定期的なモニタリングと細心の注意が求められます。

【エビデンスの現状と今後の課題】

新ガイドラインの推奨は、最新の科学的根拠に基づいていますが、いくつかの課題も明らかになりました。

光線療法については、より質の高いランダム化比較試験によるエビデンスの蓄積が求められます。現状では、治療効果や至適な治療スケジュールについてのコンセンサスが得られていません。

シクロスポリンなどの従来の免疫抑制薬については、大規模な臨床試験が不足しています。使用法や効果、副作用については専門家の間でもばらつきがあるのが現状です。

新しい生物学的製剤やJAK阻害薬についても、長期的な有効性と安全性を検証するための市販後調査が欠かせません。特に、感染症や悪性腫瘍などの重大な有害事象については、綿密なモニタリングと迅速な情報共有が必要です。

また、これらの全身療法の多くは高額な治療であり、経済的な負担も無視できません。適応となる患者さんが安心して治療を受けられるよう、医療保険制度の整備や支援体制の拡充が望まれます。

【皮膚科専門医との信頼関係が何より大切】

アトピー性皮膚炎は、一人ひとり症状や経過が異なる多様な疾患です。塗り薬や内服薬の使い方、ステロイドへの不安など、治療に関する様々な悩みを抱えている方も多いことでしょう。

光線療法や全身療法の適応になるのはどんな場合なのか、期待される効果と起こりうる副作用は何か、自分に合った治療法はどれか――。そんな疑問や不安を一人で抱え込まずに、皮膚科専門医に相談してみましょう。

主治医との信頼関係を築き、専門的な知識と経験に基づくアドバイスを受けながら、納得のいく治療方針を一緒に決めていくことが何より大切だと思います。

参考文献:

Davis DMR, et al. Guidelines of care for the management of atopic dermatitis in adults with phototherapy and systemic therapies. J Am Acad Dermatol. 2024:90(2). https://doi.org/10.1016/j.jaad.2023.08.102.

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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