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エリック・クラプトン主催コンサートの映画『クロスロード・ギター・フェスティヴァル2019』が公開

山崎智之音楽ライター
Eric Clapton / courtesy IAC MUSIC JAPAN

映画『クロスロード・ギター・フェスティヴァル2019』が2023年5月26日(金)〜6月8日(木)の2週間限定でロードショー公開中だ。

2004年に開始した“クロスロード・ギター・フェスティヴァル”。エリック・クラプトンが運営するアンティグアのドラッグ・リハビリ施設“クロスロード・センター”の運営費を捻出するベネフィット・コンサートであり、世界のトップ・ギタリスト達がステージでその腕前を披露してきた。2019年のイベントは第5回を記念するもので、映画はコンサート映像上映シリーズ“Screen The Live”の第1弾として上映される。

2019年9月20・21日、テキサス州ダラスの“アメリカン・エアラインズ・センター”で開催、主催者でありキュレーターであるエリックを筆頭にトップ・ギタリスト達が総登場したイベントを2時間に凝縮。ベテランから若手までが次々とステージに上がる。多くのアーティストが1曲というダイジェスト版ではあるものの、そのぶん密度が濃いパフォーマンスで楽しませてくれる。

『クロスロード・ギター・フェスティヴァル2019』ポスター
『クロスロード・ギター・フェスティヴァル2019』ポスター

<夢のコラボレーションの数々が実現>

映画のトップと最後を飾るのが御大エリックだ。2023年4月の日本公演でも冴えわたるギターとヴォーカルを聴かせてくれた彼だが、この日もアコースティックで「ワンダフル・トゥナイト」「レイ・ダウン・サリー」をプレイ。コンサート中盤にもピーター・フランプトンと「ホワイル・マイ・ギター・ジェントリー・ウィープス」を共演、ラストはジョン・メイヤーとドイル・ブラムホールIIを従えたエレクトリック・セットで「バッジ」「いとしのレイラ」そしてプリンスのカヴァー「パープル・レイン」で締め括る。仲間たちと集うチャリティ・イベントの和気藹々とした空気の中にもギター・プレイに緊張感が漂うのは、主催者兼ヘッドライナーとしての強い意思と覚悟によるものだろうか。

もうひとつのハイライトは、やはりジェフ・ベックのステージだろう。エリックの旧友であり、2007年の第2回からレギュラー出演してきたが、2023年1月10日に亡くなってしまったため、これが最後の“クロスロード”フェス出演となる。『ブロウ・バイ・ブロウ』期の1970年代のインスト名曲の数々をあえて排除した異色のセット・リストで臨んだが、ここでは前半プレイされた「スペース・フォー・ザ・パパ」「キャロライン、ノー」の2曲を見ることが出来る。鋭く斬り込むギターは生命感に満ちあふれており、そのありし日の凄味に唸らされる。

Jeff Beck / courtesy of IAC MUSIC JAPAN
Jeff Beck / courtesy of IAC MUSIC JAPAN

ギター・ミュージックの最前線で活躍するテデスキ・トラックス・バンドもまた“クロスロード”フェスの常連だ。デレク・トラックスとスーザン・テデスキのおしどり夫婦によるギターはオーティス・レディングの「ザッツ・ハウ・ストロング・アワ・ラヴ・イズ」とB.B.キングの「ハウ・ブルー・キャン・ユー・ゲット?」のスタンダード2曲に新しい命を吹き込んでおり、2023年10月の来日公演への期待が高まる演奏で魅せてくれる。

大物ギタリスト達が集結するイベントゆえ、夢のコラボレーションの数々が実現するのも楽しい。シェリル・クロウ&ボニー・レイット、ジミー・ヴォーン&ボニー・レイット、バディ・ガイ&ジョニー・ラング、ヴィンス・ギル&アルバート・リーらがお互いの個性を潰しあうのでなく、高めあいながら共演する姿は美しくすらある。

ジョン・メイヤー、ゲイリー・クラーク・ジュニア、マーカス・キングらはもはや“若手”ではなく独自のアイデンティティを持ったアーティストであり、さらに次世代のギター・ミュージックを担うトム・ミッシュ、ジェイムズ・ベイもキャラの立ったプレイで、ギターという楽器の持つ無限の可能性を提示するものだ。

John Mayer / courtesy of IAC MUSIC JAPAN
John Mayer / courtesy of IAC MUSIC JAPAN

<エリック・クラプトンの影響と貢献>

『クロスロード・ギター・フェスティヴァル2019』で改めて実感させられるのは、エリック・クラプトンのギター・ミュージック界への影響と貢献である。ギター・ゴッドとまで呼ばれるギタリストともなるとしばしばエゴの問題があり、他のギタリストと音楽的コミュニケーションを取れない“お山の大将”であることが少なくない。エリックは1960年代からロンドンの地下鉄駅に“CLAPTON IS GOD”と落書きされるほどの初代ギター・ゴッドでありながら、プレイヤー、コラボレーター、コーディネーターとしてギターの可能性を広げ、交流を図り、魅力を引き出し、新たな才能を育んできた。彼は自らのバンドにおいてもアルバート・リー、アンディ・フェアウェザー・ロウ、デレク・トラックスらにリードの一部を委ねてきたし、デレク・アンド・ザ・ドミノズではデュエイン・オールマンと共演。1981年の“シークレット・ポリスマンズ・コンサート”でのジェフ・ベック、1983年の“ARMSコンサート”でのジェフとジミー・ペイジとの共演は歴史に残るイベントとなっているし、B.B.キングとのコラボレーション作『ライディング・ウィズ・ザ・キング』(2000)は全米チャート3位、グラミー賞も受賞した。

2023年5月22・23日にロンドンのロイヤル・アルバート・ホールで開催されたジェフ・ベックへのトリビュート・コンサートもエリックが自ら声をかけて、テデスキ・トラックス・バンド、ジョン・マクラフリン、ビリー・ギボンズ、ロッド・スチュワート&ロニー・ウッド、ゲイリー・クラーク・ジュニア、カーク・ハメットらが出演している。

2023年9月23・24日、ロサンゼルスのクリプト・ドットコム・アリーナでは“クロスロード・ギター・フェスティヴァル2023”が行われる。既に2019年版に出演した多くのアーティストが参加表明、さらにサンタナ、ZZトップ、ロジャー・マッギン、ジョー・ボナマッサ、クリストーン“キングフィッシュ”イングラムらも加わることになる。ギター・ミュージックの過去と現在、そして未来を網羅するイベントとなった“クロスロード・ギター・フェスティヴァル”。まずは日本の映画館で、2019年のライヴ・スペクタクルをスクリーンで体験しておきたい。

【作品情報】

『クロスロード・ギター・フェスティヴァル2019』

2023年5/26(金)~6/8(木) 2週間限定上映

テアトルシネマグループ、アップリンク 5館独占上映

東京

ヒューマントラストシネマ渋谷

アップリンク吉祥寺

大阪

シネ・リーブル梅田

神戸

シネ・リーブル神戸

京都

アップリンク京都

原題:ERIC CLAPTON CROSSROADS GUITAR FESTIVAL 2019

上映時間:120分

サウンド:5.1ch

フォーマット:HD

監督:マーティン・アトキンス

公式サイト

https://interart.co.jp/business/entertainment_stl.html

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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