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全豪オープン8日目メルボルン現地リポート:控えめなトップ5の新参者・錦織圭が見せた圧倒的なプレー

内田暁フリーランスライター

※こちらの記事は、テニス専門誌『スマッシュ』facebookの転載です。連日、全豪オープンの現地レポートを掲載しています

錦織圭(5) 63 63 63 D・フェレール(9)

3回戦勝利後の会見で、錦織圭が残した「今のランキングは、少し居心地が悪い」との言葉は、各国のジャーナリストたちの耳に、多少の違和感を残したようです。

「ケイは、まだ自分が世界のトップ5に属している確信がない」

今朝の新聞にはそんな記事が掲載され、「5位のランキングにはプレッシャーを感じる」「居心地が悪い」という本人のコメントも紹介されていました。

世界の5位に駆け上がった“ライジング・サン”の控え目な言葉や態度を耳目にし、それらをあるいは自信の無さと受け止めた人たちにすれば、今日のコート上の錦織のプレーは、衝撃的に映ったのではないでしょうか。

驚異的なフットワークと鉄壁の守備力を誇るフェレール相手に、その壁を打ち砕くかのようなストロークを幾度も叩き込む。特にボールの跳ね際を叩きダウンザラインに打ち込むバックのストロークは、まるで拳銃で放ったかのように、人びとの予測を上回るスピードと弾道でコートに刺さります。

第1セットは、相手のダブルフォールトに乗じて第3ゲームをブレークすると、以降はリードを守りつつ5-3から再びブレークし38分で奪取。

第2セットは逆に最初のゲームでブレークを許すも、直後のゲームではフォアのウイナーを2連続で叩きこみブレークバック。このあたりから錦織の攻めはますます仕掛けが早くなり、ドロップショットやボレーなどバリエーションも増えていきます。フェレールも幾度かブレークチャンスを迎えるも、その都度、常時190キロを超える錦織のサービスに反撃の機を潰されます。

第2セットの第8ゲーム。ファーストサービスでフォールトを犯した時、フェレールは内に募らせた苛立ちに耐えきれなくなったように「アー!」と大きな声を上げました。恐らくはこの時が、辛うじて均衡状態にあった試合バランスが崩れ、精神戦において錦織がフェレールを組み伏せた瞬間です。このゲームをブレークし第2セットを奪った錦織は、以降は一度もブレークポイントを与えることなく、フィニッシュラインを駆け抜けました。これまでフェレールに6勝していた錦織ですが、ストレート勝利は初のことです。

試合後のオンコートインタビューでは、ジム・クーリエが、圧巻の勝利を収めたベスト8進出者に問いかけます。

「5位は居心地が悪いと言っていたけれど、それはなぜ?」

大会第5シードは答えます。

「僕はトップ5の新参者。この位置に馴れるには、もう少し時間が必要なんだと思う」

試合後の会見でも、錦織の「居心地が悪い」発言に対して異国の記者から向けられる質問の数々。

「では、何位くらいが心地よいランキング?」

そんなダイレクトな質問には、苦笑いを浮かべながら「15位から20位くらいかな」とも答えました。

それでも会見が日本語に切り替わった後、2年前のこの大会でのベスト8と今回の差異を問われると、彼は涼しい表情でサラリと言います。

「あの時とはランキングも実力も違うので、自然と当たり前のように感じられるし、成長している証拠だと思います」

先述した、試合直後のオンコートインタビューに話を戻します。幾つかの質疑応答を交わした後、最後にクーリエは錦織に、こう声を掛けました。

「トップ5の居心地にも、きっとすぐに慣れるさ。君は長く、この場所にいるだろうからね」

元世界1位が送るエールが、誰の胸にもストンと落ちる。そんな大会8日目の、“オーストラリア・デー”の夕刻でした。

フリーランスライター

編集プロダクション勤務を経て、2004年にフリーランスのライターに。ロサンゼルス在住時代に、テニスや総合格闘技、アメリカンフットボール等の取材を開始。2008年に帰国後はテニスを中心に取材し、テニス専門誌『スマッシュ』や、『スポーツナビ』『スポルティーバ』等のネット媒体に寄稿。その他、科学情報の取材/執筆も行う。近著に、錦織圭の幼少期から2015年全米OPまでの足跡をつづった『錦織圭 リターンゲーム:世界に挑む9387日の軌跡』(学研プラス)や、アスリートのパフォーマンスを神経科学(脳科学)の見地から分析する『勝てる脳、負ける脳 一流アスリートの脳内で起きていること』(集英社)がある。

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