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開幕ロースター入りを目指すベテラン左腕たち スコット・カズミアとアンソニー・ゴースそれぞれの復活物語

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
オープン戦で好投を続けるアンソニー・ゴース投手(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

【開幕ロースター入りを目指す2人の左腕】

 MLBのスプリングトレーニングは、ここまで大きな混乱もなく順調に進んでいる。

 オープン戦も入場制限されながら連日ファンを集客する中で、新型コロナウイルス陽性反応者が拡大する様子は見られない。このまま予定通りシーズン開幕を迎えられそうな状況だ。

 今シーズンは9人の日本人選手がスプリングトレーニングに参加しているが、現時点で開幕ロースター入りが決まっていないのは、招待選手としてジャイアンツのキャンプに参加している山口俊投手のみ。残り選手はオープン戦での成績にかかわらず、開幕ロースター入りはほぼ確実だと見ていい。

 逆に言えば山口投手の場合は、オープン戦での成績が彼の人生を大きく左右することになる。すべての試合が首脳陣へのアピールの場となるわけだ。

 そんな山口投手と同じ立場でスプリングトレーニングに参加している2人のベテラン左腕投手がいるのをご存じだろうか。野手から投手に転向しMLB昇格を目指すアンソニー・ゴース投手と、2度目のMLB復帰を目指すスコット・カズミア投手だ。

【2017年に投手転向したムネリンの元同僚】

 ゴース選手は、彼が2017年に投手転向した当時から本欄でも紹介している。彼はブルージェイズ時代に川﨑宗則選手の同僚で、俊足強肩で知られた外野手として活躍していた。

 その後2014年オフにタイガースにトレードされ、2015年は自身最多の140試合に出場していたが、2016年は打撃不振もあり30試合の出場に止まると、2017年のスプリングトレーニングで自ら投手転向を宣言。それ以降は投手としてMLB昇格を目指している。

 残念ながらここまでMLB昇格できていないが、タイガースから、レンジャーズ→アストロズ→レンジャーズ→クリーブランドを渡り歩き、現在は招待選手として開幕ロースター入りを目指している。

【ここまで4試合登板で防御率ゼロ】

 投手に転向して以降のゴース選手はその強肩を生かし、100マイル前後の球速を誇る豪腕投手との評価を受けていた。しかし投手としての経験不足は明らかで、制球力や変化球に課題があった。

 投手転向3年目を迎えた昨シーズンは、クリーブランドの予備ロースター入りしたものの、マイナーリーグが中止になったため実戦経験を積むことができなかった。そのためオフにドミニカのウィンターリーグに参戦。確実に進化を遂げ、スプリングトレーニングに挑んでいる。

 ここまでオープン戦4試合に登板し防御率はゼロを続けている。テリー・フランコナ監督によれば、今年のゴース投手は100マイル前後の速球が健在で、カーブに加えスライダー習得に成功。もう1つの課題だった制球力も安定しており、ここまで無四球を続けている。

 現在のクリーブランドは左の中継ぎ投手に不安を抱えており、現在のような投球を続けていけば、開幕ロースター入りの可能性は大だ。

【かつてレイズの大黒柱だった速球左腕】

 カズミア投手に関しては、すでにブランクを経てのMLB復帰を1度経験している。

 彼は2008年にレイズがワールドシリーズ初出場を果たした際に先発3本柱の一角をなすなど、長年レイズの大黒柱を担ってきた。だが2009年シーズン途中でエンジェルスにトレードされて以降は成績が下降し、2011年シーズン途中で解雇されていた。

 2012年は独立リーグに回り、投球フォームを見直す時間を得た後、2013年に招待選手としてクリーブランドのスプリングトレーニングに参加。オープン戦で成績を残し、見事にMLB復帰を果たしている。その後アスレチックス、アストロズに在籍し、2015年オフにはドジャースと3年契約を結ぶまでの復活劇を成し遂げていた。

 だが2017年に臀部の負傷でシーズンを棒に振ると、そのオフにブレーブスにトレードされ、2018年のスプリングトレーニング中に2度目の解雇を経験している。

オープン戦初登板を終えオンライン会見に応じるスコット・カズミア投手(筆者撮影)
オープン戦初登板を終えオンライン会見に応じるスコット・カズミア投手(筆者撮影)

【5年ぶり2度目のMLB復帰を目指す】

 カズミア投手にとって、今回は2度目のMLB復帰を目指すことになるわけだが、前回よりもブランク期間は長く、年齢も37歳に達している。

 それでも昨シーズンはテキサス州で2ヶ月間実施されていた独立リーグに参戦。マイナーリーグの中止で多くのプロ選手が参加する中5試合に登板し、まずまず投球ができたことで、再びMLB復帰を目指す気持ちが芽生えたという。

 オープン戦初登板となった3月2日のロッキーズ戦では、1イニングを投げ2安打されながらも2三振を奪い、無失点に抑えている。球速も92マイル前後を計測しており、本人も勇気づけられたようだ。

 「最初の登板で恥をかきたくなかった。とにかくボールを投げることだけ考えた。最初はかなり緊張していたけど、徐々に考えすぎないようになり心地良くなっていき、打者を攻めることができた。2人の打者からは本当に気分良く投げられた」

 まだ1試合に登板しただけなので、開幕ロースター入りは微妙なところだが、もし達成すれば5年ぶりのMLB復帰となる。

 ゴース投手とカズミア投手。山口投手同様に、彼らのオープン戦での投球にも注目して欲しい。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

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