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声に恋した盲目の女性の切ないラブロマンス。きっかけは多くの障がい者との出会いから

水上賢治映画ライター
「エフラートゥン」より

 埼玉県川口市のSKIPシティで毎年開催される<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>が本日7月13日(土)に開幕を迎える。

 白石和彌監督、中野量太監督、上田慎一郎監督ら名だたる映画監督を輩出している同映画祭は、いまでは若手映画作家の登竜門として広く知られる映画祭へと成長している。

 とりわけメイン・プログラムの国際コンペティション部門は、海外の新鋭映画作家によるハイクオリティかつバラエティ豊かな作品が集結。コロナ禍もすっかり明け、今年も海外からの多数のゲストが来場を予定している。

 そこで、昨年の<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023>のときに行った4作品の海外映画人たちへのインタビューを届ける。

 三作品目は、トルコから届いた切ないラブロマンス「エフラートゥン」。父の仕事を引き継ぎ時計修理工の盲目女性・エフラートゥンと、彼女に興味をもった写真が趣味の男性との恋模様がアニメーションやクラシカルな映像を交えながら描き出される。

 手掛けたジュネイト・カラクシュ監督は、2013年の短編映画『Sûret』が国内外の著名な短編映画祭で数々の賞を受賞し、今回が初長編作となる新鋭だ。

 来日したトルコの新鋭監督と、彼の妻で本作において重要なパートとなるアニメーションやVFXなどを担当したヤームル・カールタル・カラクシュ氏に話を訊く。全四回/第一回

「エフラートゥン」のジュネイト・カラクシュ監督(左)とヤームル・カールタル・カラクシュ氏  筆者撮影
「エフラートゥン」のジュネイト・カラクシュ監督(左)とヤームル・カールタル・カラクシュ氏  筆者撮影

プライベートにおいても仕事においても最高のパートナーです

 まず作品の内容に入る前に、先ほど触れたように二人は夫婦で仕事上のパートナーでもある。作品における役割分担はどのような形だったのだろうか?

ジュネイト「なかなか線引きが難しいかもしれません。

 クレジットにおいてわたしは監督、脚本、彼女は編集、VFXアドバイザー、アニメーションということになります。

 ただ、やりとりとしてはかなりお互いに往来することになります。

 ひとつ言えるのは、僕も彼女も勤勉でよく頑張って仕事をします。

 作品作りにおいては、お互い妥協することはありません。とことん最善の形になることを目指します。

 ときに意見がぶつかることもありますけど、そこはお互いに信頼していますし、理解もしているのであとあとなにか問題が残ることはありません。

 簡単に言うと、最高のパートナーということだと思います」

ヤームル・カールタル「そういうことになります(笑)。

 少し補足すると、今回の物語のおおよその構想を練ったのはわたしとジュネイトになります。

 そこからプロジェクトが始まって、それぞれの持ち場を担当することになったということです。

 立場は違うんですけど、二人でともに作っている感覚があります」

 どれぐらい一緒に活動しているのだろうか?

ジュネイト「4~5年ぐらいですね。

 二人で一緒に作っている感覚とさきほど彼女から話が出ましたけど、彼女が作ったドキュメンタリー作品を僕がプロデュースしたこともあるんですよ。

 だから、ほんとうに良きパートナーです」

「エフラートゥン」より
「エフラートゥン」より

自分の中に視覚障がい者についての映画を作りたいという気持ちがありました

 では、本題の作品について聞く。

 今回の作品はジュネイト監督にとって初長編。なにか考えていることはあったのだろうか?

ジュネイト「正直なことを言うと、コロナ禍のブランクが入ってしまったので、当初のことをあまり覚えていないんです。

 ただ、アイデアについては随分と前からあったものでした。

 まず、自分の中に視覚障がい者についての映画を作りたいという気持ちがあったんです。

 これはかなり以前からのことで、視覚障がい者の方はどんなふうに恋をするのか、どういうことで相手に好意を抱くのか、そこから出発して、視覚障がい者の方はどんなふうに世界を認識しているのか、どのようにして空間を認識するのか。

 つまりエコーロケーション=反響定位(動物が音や超音波を発し、その反響によってそのモノとの距離や方向などを知ること)について表現してみたい気持ちがありました。

 主人公の盲目の女性、エフラートゥンは、かつて黄色の傘を自分に貸してくれた男性の声に恋をしている。その声をずっと覚えていて、秘かに思い続けている。

 つまりその声に恋をした。でも、彼自身のことはまったく知らない。でも、声をきけばわかる。

 そんな彼女が、同じ声をきいたときにその男性をどのように求めて、彼とどんなふうにコミュニケーションを図っていくのか描くことで、いろいろと視覚障がい者の世界が映し出せることができるのではないかと考えました」

 なにか視覚障がい者に興味をもつきっかけはなにかあったのだろうか?

ジュネイト「自分の叔父が視覚障がいではないんですけど、聴覚障がい者でした。そのことがまずあったと思います。

 自分にとって身近にそういう人がいて、近くで見ていた。

 それから、ある障がい者団体の芸術ディレクターをしていたことがあったんです。その関係で、いまも障がいを抱える知人がたくさんいて。その中には視覚障がい者の方もいます。

 なので、映画作家の自分ができることとして、視覚障がい者の方々の世界を知ってもらうような作品を作りたい、それが視覚障がいのある人たち、ひいてはすべての障がい者へのいいプレゼントになればという気持ちもありました」

(※第二回に続く)

「エフラートゥン」ポスタービジュアル
「エフラートゥン」ポスタービジュアル

「エフラートゥン」

監督:ジュネイト・カラクシュ

出演: イレム・ヘルヴァジュオウル、ケレム・バーシン、ナザン・ダイパー、

エルマン・オカイ、メリサ・アクマン、ユルディズ・クルトゥル、

セミハ・ベゼク、ローザ・チェリック

「エフラトゥーン」に関する写真はすべて(C)Karakuş Film

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>ポスタービジュアル  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024
<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>ポスタービジュアル  提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>

会期:《スクリーン上映》2024年7月13日(土)~7月21日(日)

《オンライン配信》2024年7月20日(土)10:00~7月24日(水)23:00

会場: SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ映像ホール、

多目的ホールほか(埼玉県川口市)

詳細は公式サイト : www.skipcity-dcf.jp

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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