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台湾の高校生、ナチス軍服パレード:SNSで拡散し世界中から非難

佐藤仁学術研究員・著述家

ナチスの軍服衣装を着て、ユダヤ人の怒りを買ったという事件は日本ではアイドルグループ欅坂46を思い出す人が多いだろうが、今度は台湾でも同じような問題が起こった。ただ、台湾の場合は日本のアイドルグループと違って、素人の高校生だ。

台湾北部の新竹市にある光復高校(Kuang Fu High School)の開学62周年を祝う記念祭で、男女の学生らがナチスの軍服に見立てた衣装を着て、ナチスの象徴だった「かぎ十字」の旗や横断幕を掲げて、さらに段ボールで戦車を作り、生徒らもナチス式の敬礼をしていた。日本の欅坂46の場合は「たしかに、ナチスに似ていると言われれば、似ている」という感じだったが、台湾の高校生は明らかにナチスの模倣だ。

欅坂46の場合は、テレビという電波に乗って商業目的で展開されていたことやハロウィンという時期から注目度も高く、アメリカのユダヤ系団体「サイモン・ウィーゼンタール・センター(SWC)」を激怒させてしまった。だがソニーミュージックやプロデューサーの秋元氏の迅速な謝罪で沈静化した。

今回の台湾の高校生のナチス衣装に対しても、台北にあるイスラエル経済文化弁事務所は「ホロコーストから70年しか経っていないのに、このような非常識な行動を高校生がすることは言語道断であり、当局を含めてあらゆるレベルから二度とこのようなことがないようにホロコーストの教育を徹底していくように要求する」と怒りの声明を発表し、非難した。今回の台湾の高校でも同校の校長先生らが謝罪、校長先生は責任を取って辞任することを発表している。

SNSで一般人のコスチュームもあっという間に拡散

台湾の高校生は、アイドルグループ欅坂46と違って一般人だ。たしかに今回は「学校の記念祭」ということで、教育機関である学校で教員もいる中でのパレードだから問題としては大きいが、10代の高校生がハロウィンなどでナチスの格好をしていても昔なら学校の先生に厳重注意されて終わりで、イスラエル政府やユダヤ組織から指摘されるような問題にならなかっただろう。今回の高校での記念祭でナチス軍服になったのも「学校の制服を簡単に活用できるから、生徒たちの投票で決まった」と報じられていた。

今回の台湾の高校生のナチス衣装でのパレードも、ここまで拡散したのは高校生らがその様子を写真や動画でSNSに拡散していたからだそう。たしかに大量に画像や動画がアップされている。学校の記念祭という行事でのパレードだから、生徒らの表情も明るく、楽しそうだ。ナチスの格好をしてパレードの際には「ヒトラーが登場します。ヒトラーに敬礼!命令に背くと戦車につぶされるか、ガス室だ」と述べられてたと報じられている。ホロコーストの犠牲者らが見たら、憤慨するかもしれないシーンも多い。

イスラエル経済文化弁事務所の怒りと非難もFacebookページで表明されている。600万人以上のユダヤ人が殺害されたホロコーストの象徴であるナチスの軍服はユダヤ人らにとっては今でも脅威と憎悪のシンボルだし、ドイツなどでこのような格好をしたら逮捕される。イスラエルだけでなく欧米にいるユダヤ人らはホロコーストには敏感で「二度とホロコーストを繰り返させない」という強い信念から、このような問題には反ユダヤ主義やネオナチがないであろう日本や台湾であっても、強い怒りと非難を表明する。

ネット上で大量に拡散してしまった台湾の高校生の画像
ネット上で大量に拡散してしまった台湾の高校生の画像
明らかにナチス軍服を模倣
明らかにナチス軍服を模倣

その写真、動画はSNSにアップして大丈夫か?

CNNなど海外のメディアは今回の台湾の高校生のナチの衣装問題について、アジア諸国ではナチスの衣装に対しての意識が少ないのでこのような問題が起きると報じている。事例として欅坂46や韓国のアイドルグループ、インドネシアの歌手らがナチスの軍服に似た衣装を着て問題になったことを上げていた。さらに台湾のセブンイレブンでは2011年にヒトラーを模したキーホルダーも販売されていたり、1990年代には「ナチスバー」というバーもあったそうだ。日本でも1980年代の漫画「キン肉マン」には「ブロッケンJr」という明らかにナチスを模倣したキャラクターがいたし、2000年代初期のHysteric Blueというバンドの「グロウアップ」という曲のプロモーションビデオもナチスを彷彿させる。現在では完全にアウトだろう(検索すれば今でもそれらの画像や動画はすぐに見つかる)。

誰もがスマホを所有するようになって、写真を撮影してその場ですぐにSNSにアップできるようになり、それらが問題になるのは世界共通だ。一度ネットにアップされた画像や動画はあっというまに拡散され、誰の目に止まるかわからない。日本でも「バカッター」と呼ばれることもある。だがナチスの軍服など、日本人にとってはクールと思って着た衣装が、世界規模で大きな問題になることも忘れてはいけない。

ナチス軍服を着た台湾の高校生らの記念祭の動画も多い。

台湾のニュース(英語)

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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