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SOIL&“PIMP”SESSIONS社長が語る、日本初開催フェス“LOVE SUPREME”の魅力

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
SOIL&“PIMP”SESSIONS

今観たい、聴いておきたいアーティストが勢揃い。ジャズ、ソウル、ファンクを横断する新世代ジャズフェスティバル

写真提供/LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022実行委員会
写真提供/LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL JAPAN 2022実行委員会

イギリス発ヨーロッパ最大規模の野外ジャズフェスティバル「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」が、5月14日(土)・15日(日)に埼玉県・秩父ミューズパークで日本初開催される。本場同様にジャズ、ソウル、ファンクを横断する、洗練された音楽を楽しむことができる新世代ジャズフェスティバルとして、その開催が待たれていた。しかし2020年、東京・豊洲、2021年埼玉・秩父で開催予定だったがいずれも中止に。いよいよ今年、満を持しての開催となる。

出演アーティストは、

<5月14日>

DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、Chris Coleman、古川昌義、馬場智章/セルジオ・メンデス/SIRUP/Ovall(ゲスト:SIRUP、さかいゆう、佐藤竹善(Sing Like Talking))/aTak …and more

<5月15日>

ロバート・グラスパー/SOIL&“PIMP”SESSIONS(ゲスト:SKY-HI、Awich、長塚健斗(WONK))/Nulbarich/Vaundy/WONK/Answer to Remember(ゲスト:KID FRESINO、ermhoi、Jua、黒田卓也)... and more

というラインナップだ。今聴きたい、聴いておきたい、観たい、観ておきたいアーティストがレジェンドから若手まで、世代も音楽のジャンルも超えて顔を揃え、ひたすら“いい音楽“を響かせてくれそうだ。

そんな中で今回の出演者の多くと、自身が2019年から音楽顧問を務める、福井県で開催されている野外フェス「ONE PARK FESTIVAL」で共演しているSOIL&”PIMP”SESSIONS(以下ソイル)のアジテーター「社長」に、このフェスの魅力、コロナ禍で変化したフェス、ライヴの楽しみ方などをインタビューした。

「本国の『LOVE SUPREME』は憧れていたフェスのひとつだったので、それを日本で開催すると聞いた時、まず最初に思ったのが、本国がそうであるようにボーダーレスに新世代、レジェンドアーティスト、DJを含めてブッキングできるのだろうかという、小さな不安と大きな楽しみがありました。でも蓋を開けてみれば見事なラインナップで、ここに我々の名前が入っていることが嬉しいです」。

SOIL&“PIMP”SESSIONSはSKY-HI、Awich、長塚健斗(WONK)と必見コラボ。「3組のゲスト達は、それぞれが違うフィールドにいるけど、同じ血が流れているのでは、という気がしています」

SOIL&“PIMP”SESSIONS、SKY-HI、Awich、長塚健斗(WONK)
SOIL&“PIMP”SESSIONS、SKY-HI、Awich、長塚健斗(WONK)

ソイルはこれまで「グラストンベリー・フェスティバル」「モントルー・ジャズ・フェスティバル」など海外の大型フェスに出演し、爆音ジャズとも称される“DEATH JAZZ”で、ジャズは決して堅苦しいものではないということを、日本を含め世界中のファンに伝えてきた。そして多くのアーティストからリスペクトされているソイルは、これまでも椎名林檎、RHYMESTER、MIYAVI、一青窈、三浦大知、野田洋次郎(RADWIMPS)など、様々なアーティストをフィーチャリングボーカルとして迎え、常に刺激を求め、与え、新しい音楽を追求してきた。「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」でもSKY-HI、Awich、長塚健斗(WONK)とのコラボが発表されている。それぞれのアーティストについて、そしてどんなステージになりそうなのか教えてもらった。

「SKY-HIはクレバーなアーティスト。“異質”なところが本当にカッコイイ。一年越しの、色々な思いを経てのコラボになる」

「実はSKY-HI君とは、去年ステージ用の曲を作ってリハもやっていて、あとは当日を待つだけという状態で、中止になりました。もちろんすごく残念でしたけど、心のどこかであのタイミングだとそういう選択肢も出てくるだろうなと思っていたので、悔しいことには変わりないけど、仕方ないという感覚もあって。一年経つとモードも変わるので、また新たに曲を作りました。今熟成させているところです。彼は、誤解を恐れずに言えば“異質”ですよね。元々日本を代表するグループのメンバーでありながら、自身はラップで育っていて、彼自身の音楽活動の方向性がグループの時と全く違うのに、でもどこかで共通項も感じたりして、すごくクレバーなアーティストだと思います。その異質がカッコいい。そんな中で彼がラジオとかでソイルの曲をかけてくれたりして、知ってくれているのがすごく嬉しかったし、そういう色々な思いを経てのコラボレーションなんです」。

「Awichはステージのセンターに立つために生まれてきた人」

「Awichは既に何度もステージを共にしていますし、彼女のライヴのバックバンドも実はソイルのメンバーが務めています。なのでオンステージでの呼吸はバッチリなのですが、彼女がすごいのは、毎回その予想を上回ってくるパフォーマンスを見せてくれることです。歌唱の技術はもちろん、表現者としてどんどん成長していっている。ステージのセンターに立つために生まれてきた人だと思います。常に刺激を与えてくれる存在です」。

「長塚健斗(WONK)は、その歌心に惚れました」

「長塚君は、先日参加させていただいたオリジナルラブのトリビュートアルバムで初めて歌ってもらいました。これまでも自分が音楽顧問を務めているフェス『ONEPARK FESTIVAL』に出演してもらったり、プライベートでも仲良くしてもらっているので、気心の知れた仲間という感じ。向こうはめんどくさい先輩って思ってるかもしれないけど(笑)。一緒にレコーディングしてみて、改めて彼の歌心に惚れました」。

「そんな3名のゲスト達は、それぞれが違うフィールドにいるんだけど、同じ血が流れているのでは、という気がしています。僕自身もどんなステージになるのか楽しみです」。

「DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、Chris Coleman、古川昌義、馬場智章のセッションは予測不能で、絶対に観たい」

セルジオ・メンデスやロバート・グラスパーというヘッドライナーはもちろんだが、社長が「絶対観たい」という「DREAMS COME TRUE featuring 上原ひろみ、Chris Coleman、古川昌義、馬場智章」のセッションも、このフェスならではだ。今回は吉田美和のソロアルバム『beauty and harmony』シリーズからの選曲になる。中村正人(DREAMS COMES TRUE)は「2022年『LOVE SUPREME』に昨年のリベンジを叶えるべく参加決定。転んでもただでは起き上がらないドリカムは、吉田美和の盟友、上原ひろみをはじめとする『こんなメンバーありえない!』というすっごいアーティストたちと絡みまくります。しかもドリカム楽曲ではなく、吉田美和ソロ楽曲でセトリを組み立てるというわけがわからない大胆不敵なプラン。いったい俺は何をすればいいんだ?そっか。ベース弾けばいいじゃない。ってことで、乞うご期待!!!」とコメントを寄せている。

「吉田美和さんのソロ楽曲に限定して、まさ(中村正人)さんはベーシストとして参加しているので、これは絶対面白いじゃないですか。完全に生で演奏するとおっしゃっていたので、本当に楽しみです。吉田さんと上原さんのコラボ、想像できないけどめちゃくちゃ観たいですね。大御所はもちろんですが、今の日本のジャズシーンを引っ張っている、若手アーティストの演奏にも注目して欲しいです。その実力を存分に味わってください」。

「Vaundyは特別なものを持っているアーティスト。本当に楽しみ」

社長が、去年から今回の出演アーティストの中で特に注目している存在として名前を挙げているのが、Vaundyだ。

「去年は、Vaundyにやっと会えるという感じだったのを思い出しました。曲はもちろん、ステージ上の立ち振る舞いというか、ステージのフロントに立つべきオーラがあるんです。あの年齢で、ステージでとても大きく見える、なんとも言えない特別なものを持っているとしか思えません。今年ようやく会えます。本当に楽しみです」。

「コロナ禍で、音楽の在り方や売り方、どうやってそれをお客さんと共有し、カルチャーとして育てていくか、考えさせられた」

ようやく開催にこぎつけた、という表現が正しいだろう。この2年余り、フェスも次々と中止になったり、多くのアーティストがライヴの延期や中止、開催できたとしても動員制限という状況で、その活動の基盤に大きなダメージを負った。もちろんソイルもそうだ。自身の“これから”を考える瞬間が何度もあったという。

「これは他のアーティストにも、そういう思いに至った人がいると思いますが、音楽だけやっていたら生きていけないなって思いました。音楽は自分の人生、生活の一部だからずっと続けてはいくと思うけど、これをきっかけに、音楽の在り方や売り方、どうやってそれをお客さんと共有していくかとか、それをカルチャーと捉えて、どういうカルチャーとして育てていくかというところに立ちかえるきっかけにはなったし、答えは全然出ていませんが、面白いことが生まれていくと思っています」。

「ライヴでお客さんを盛り上げるのって、声を出してもらったり、手をあげてもらうことだけが全てではない。それは少しずつ感覚としては掴めてきている」

ソイルではアジテーターとしてお客さんを煽り、盛り上げるポジションの社長は、それができない今のライヴとどう向き合っているのだろうか。

「どういう状況であれ、ライヴができることが一番の喜びです。お客さんが多い少ないは、通常時であってもあまり関係ないことで、声を出しちゃいけないというなら、そのルールの中で何を新しく作り出せるんだろうという楽しみもあるし。ステージ上でお客さんの前で最大限のパフォーマンスをするという軸は全く変わらないわけで、多分変わったのはお客さんの方だと思います。僕はアジテーターという、お客さんを煽って声を出してもらい、踊ってもらうという役割で、今やってはいけないことをやってもらうポジションなので、そこが多分前と大きく違うところです。でもお客さんを盛り上げるのって、必ずしも声を出させることとか、手をあげてもらうことが全てではないので、それは少しずつ感覚としては掴めてきているところです。自分としても新しいライヴのやり方を学んでるところです。最近とあるアーティストのライヴを観に行った時に、もちろん声出しは禁止だけど、『音楽を聴いて興奮したら声出ちゃうよね、漏れ出てしまうものは仕方ないと思う、でも周りの人への愛を持って、声は出さないようにね』という感じでファンに伝えていて。ある程度許容するということも、それすらも言いづらい状況だけど、ルールを守るのは大前提で、その中である程度お客さんに寄り添うやり方かつ、ちゃんとガイドラインの中に収まっているという、ギリギリのやり方がある気がしています」。

「お客さんに、ライヴに行く習慣がなくなっても平気だって思われるのが一番怖い」

一方で、ライヴに行くという習慣から2年間離れてしまったことで、それが習慣ではなくなってしまったユーザーをどう呼び戻すか、ということも問題だと社長は教えてくれた。

「ライヴに行く習慣がなくなっても平気だって思われるのが怖いですよね。色々とリセットされた感があります。クラブなんかまさにそうで、自分たちもそうでしたが、憧れの大人、先輩の背中を見て遊び方やお酒の飲み方、音楽の楽しみ方を学びました。でも、今若い人はライヴにもクラブにも興味がなかったり、お酒を飲まない人も多いので、そういう目に見えない文化やマナーの伝承ができない時代になって、でもそれを下の世代に引き継いでいく作業は止めたくないです」。

色々な思いを抱きながらこの「LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL」のステージに臨む、ソイルを始めとする各アーティスト。“新しいスタンダード”が醸成されているライヴシーンの中で、このフェスはどんな風を吹かせてくれるのだろうか。

『LOVE SUPREME JAZZ FESTIVAL』オフィシャルサイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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