高額賞品のクレーンゲームはそれだけで完全にアウト 「風俗営業」であるゲームセンターに対する法規制
数万円の賞品で誘いつつも、絶対取れないように設定したクレーンゲーム機を使い、客から料金をだまし取っていたとされるゲームセンター。大阪府警が詐欺容疑で運営会社社長らを逮捕し、全国初の強制捜査に発展した。この機会に、ゲームセンターに対する法規制について触れてみたい。
ゲームセンターは「風俗営業」
年末年始、家族でゲームセンターに行き、アーケードゲームやクレーンゲーム、コインゲーム、対戦型ゲーム、ピンボール、デジタルダーツなどに興じようかと考えている人も多いだろう。
しかし、そうしたゲームセンターが風営法、すなわち「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」で規制されている「風俗営業」の一つだということはご存じだろうか。
もともとは規制の対象外だったが、非行少年のたまり場となっていることが問題視されたほか、ゲーム機賭博事件が次々と検挙され、暴力団関係者の関与も見られたこともあり、1985年施行の法改正で網がかけられることとなった。
ゲーム機賭博事件で取り沙汰されたポーカーゲーム機ではなく、例えば昔流行したインベーダーゲームなどであっても、点数や順位の予想結果などによってゲームセンター側が客に金品を与えるといったやり方で、賭博を行うことが可能だからだ。
そのため、風営法やその施行規則に基づく次のような例外的な場合を除き、ゲームセンターを営業するためには、あらかじめ公安委員会の許可を得ておかなければならないとされている。
(1) 規制対象外のゲーム機しか置いていない
プリクラ、キッズ向けカードゲーム、占い機、モグラ叩き、運転シミュレーション、パンチ力測定機、投球スピード測定機などの専門店
(2) 独立した単独の店舗となっていない
スーパーやショッピングセンターの一角など、3方向を囲まれておらず、他業種と一体化
(3) ゲーム機の接地面積が営業面積の10%以下
旅館やホテル、遊園地、ボウリング場のゲームコーナーなど、全体のごく一部にゲーム機が置いてあるにすぎない場合
これらに当たらないにもかかわらず、アーケードゲームやクレーンゲーム、コインゲームなどを設置して無許可のまま営業を行っていれば、最高で懲役だと2年、罰金だと200万円の刑罰が待っている。両方が科せられることもあり得る。
賞品の提供は禁止
その上、こうした営業許可を得ているか否かにかかわらず、ゲームセンターの営業を行うに際しては、客引きの禁止や18歳未満の入店可能時間など、風営法に基づく様々な規制を受ける。
中でも特に重要な規制が、遊技の結果に応じて賞品を提供してはならないという点だ。賞品には、現金や商品券、物品などのほか、店舗の割引券や飲食引換券、ポイント付与なども含まれる。
もしこれが行われれば、「射幸心」、すなわち思いがけない利益や幸運を望む人の心をそそることとなり、より厳格な規制や別の営業許可を要する「ぱちんこ屋」の性質に近づく上、賭博の要素も出てくるからだ。
「ぱちんこ屋」は18歳未満の入店が禁じられているが、ゲームセンターは風営法や都道府県条例で時間帯の制限こそあれ、18歳未満でも入店できる。前者は子どもが立ち入るべきではない大人の遊び場、後者は子どもでも安心して出入り可能な、射幸心がそそられることのない比較的安全な場所、というのが風営法の位置づけだといえる。
ゲームセンターがこの規制に違反し、遊技の結果に応じて客に何らかの賞品を提供すれば、経営者らに最高で懲役だと6か月、罰金だと100万円の刑罰が待っている。両方が科せられることもあり得る。
上限の設定あり
そうすると、現にゲームセンターに置かれているクレーンゲームは一体どうなるのか、という疑問が生じるだろう。この点については、なお違法だという基本原則に変わりはないものの、警察庁が次のように風営法等の解釈運用基準の中で一定の場合には取り締まりを行わないというスタンスを明確に示すことで、グレーゾーンとされている。
「遊技の結果が物品により表示される遊技の用に供するクレーン式遊技機等の遊技設備により客に遊技をさせる営業を営む者は、その営業に関し、クレーンで釣り上げるなどした物品で小売価格がおおむね800円以下のものを提供する場合については…『遊技の結果に応じて賞品を提供』することには当たらないものとして取り扱うこととする」
すなわち、警察は、賞品の小売価格がおおむね800円以下のものか否かでラインを引こうとしているわけだ。あくまで警察による独自の行政解釈であり、裁判所の判断を経てはいないが、少なくともそれを超えなければ取り締まりを行わないと明言している以上、現実には800円までであれば刑事事件とされることなどない。
例外の背景
こうした例外が設けられた背景は、次のようなものだった。すなわち、ゲームセンターに風営法の網がかけられた当時、既に10円程度のゲーム代で30円程度の菓子類や記念メダルなどを提供する子ども向けのゲーム機が多数存在していた。
小学生ころ、10円玉をバネで弾いて左右に動かしつつ最下部から上部に進めていき、穴に落ちないようにゴールまで到達できたら賞品としてガムが得られるゲームに興じた経験がある人も多いだろう。
これらは、点数などに応じて客がいくつかの賞品の中からほしいものを自由に選択、交換できるわけではなく、特定の物品を獲得する行為そのものを楽しむにすぎない。そこで、警察庁も、この程度の金額、内容であれば、粗品のレベルであり、「子どもの遊び」の範疇を出ず、いちいち目くじらを立てる必要などないのではないかと考え、放置していた。
そうした中、物価水準などを考慮し、顧客拡大を目指す業界団体が警察庁に陳情を行い、提供方法などを含めた厳格な自主規制を導入することで、1986年には上限を200円まで、1990年には500円まで、1997年には800円までに引き上げることを容認された。
もちろん、クレーンゲームのように客が遊技によって直接獲得できた賞品に限られ、カプセルに入れたランダムの番号札を客に獲得させ、その札と賞品を交換するといったやり方は賭博となり得ることから、厳禁された。こうした流れがあったので、警察庁は、2001年に風営法の解釈運用基準を定めた際、業界団体による自主規制の内容を明文の形で追認したというわけだ。
ここで重要なのは、800円以下か否かを判断する基準として、明確に「小売価格」を挙げているという点だ。たとえ仕入価格や原価が800円以下であったとしても、小売価格がこれを超える賞品であればアウトだ。
クレーンゲーム専用として開発された「プライズ」と呼ばれる非売品も多いが、風営法の趣旨からすると、本来は市場で売り買いされるとすれば幾らくらいの小売価格となるのか、といった観点からその是非が判断されるべき話だ。
健全化を目指す業界団体
それから16年が過ぎたが、その後、この800円という金額は現在まで引き上げられていない。さすがにこれを超えるようなものであれば、ますます「ぱちんこ屋」の性質に近づき、射幸心をそそり、賭博の温床にもなるからだ。
高額な賞品であれば、店側も利益を上げるためにプレイ代を高くし、獲得率をかなり低めに設定するから、熱くなった客が賞品を得るまでに投入する総額も必然的に高額化する。
賞品のニンテンドースイッチやプレイステーション、ゲームソフト欲しさに、子どもが小遣いやお年玉を使い果たした挙句、親の財布から金を盗んだり、より幼い子どもから金を巻き上げてまでクレーンゲームなどに興じるようなことになれば、悲劇だ。風営法が本来予定しているゲームセンターのあり方にも反する。
健全化を目指している業界団体も、次のようにガイドラインの中で「800円ルール」などの厳守を強く求めている。
違法状態が野放し
とは言え、一部のゲームセンターで提示されているクレーンゲームの賞品は、誰の目から見ても明らかに小売価格が800円を大きく超えている。先ほど挙げたゲーム機やゲームソフトのほか、音楽プレーヤーや小型テレビなどだ。
表看板は営業許可を要しないプリクラ専門店などを装いつつ、中に入るとそうしたクレーンゲームが多数設置されているといった無許可営業のゲームセンターに目立つ。営業許可を得ていても、業界団体に加盟しておらず、ライバル店との競争や客集めのため、そうした「禁じ手」に出る店もあるようだ。
先ほども述べたように、賞品提供を禁ずる風営法の罰則規定は、営業許可を得ているか否かとは無関係に、あらゆるゲームセンターに適用されるものだ。
現状は、クレーンゲームで破産者が出たとか、殺傷沙汰となったといった話もなく、同業他社のタレコミなどで度が過ぎている店を把握したら注意や警告に及ぶものの、予算と人員が限られている警察がいちいち刑事事件として取り上げていないだけだ。単に違法状態が野放しとなっているにすぎない。
無許可営業を含め、風営法の賞品提供罪で立件され、経営者らが逮捕されるか否かは、警察の出方次第だ。オーナーや店長の指示を受けて接客しているだけのアルバイト店員でも、「被疑者」として取り扱われる可能性があるから注意を要する。
締め付けのきついクレーンゲームは詐欺?
では、獲得率が低く設定され、期待どおりに賞品が得られないということで、詐欺罪に問うことはできないだろうか。残念ながら、基本的には無理だ。ゲームセンター側も、仕入や店員の人件費、機械のランニングコスト、光熱費などもあり、安定経営のため、獲得率を下げるのはむしろ当然といえる。
平均原価率も、例えば安いチョコレート菓子は70%、人気キャラクターのフィギュアは30%、大型のぬいぐるみは5%、高額賞品は0.1%に設定するといったやり方で、25~35%程度をキープしていることだろう。
このように、そもそもクレーンゲームは確実に賞品が得られるという結果が間違いなく保証されているものではなく、期待値の大小こそあれ、客もこれを分かった上でプレイしているわけだから、「だまされている」とは言い難いわけだ。
また、あくまでクレーンゲームは、客がタイミングをはかってボタンを押し、アームを上下左右に操作することを楽しむもの、というのが建前であり、賞品などは副次的なものにとどまらなければならない。
もし賞品獲得が前面に押し出されてしまうと、風営法が賞品提供を一律に禁じた上で警察庁の「800円ルール」の下で例外的な取扱いが認められている趣旨にも反する結果となる。
今回の事案の特殊性
では、なぜ大阪府警は今回の事案を詐欺罪ととらえた上で、ゲームセンター運営会社の社長や店員らを逮捕するに至ったのか。現在も鋭意捜査中だが、おおむね次のような事件だったからだ。
・店員が客にバレないように密かに機械の設定を変え、プレイの見本を見せる際は必ず成功するように細工する一方、客がプレイする際は絶対に成功できないように細工していた。
・例えば、上下左右に移動するカッターを止め、景品がつるされたひもを切り、下に落とすというクレーンゲームでは、たとえ客が狙った位置で止めたとしても、絶対にずれるように細工されていた。
・店員は、失敗した客に「絶対に取れる」「誰でも簡単に取れる」「今、やめるともったいない」「次に取れたら、おまけをあげる」などと言い、ゲームを続行するようにあおっていた。
・プレイ代は1回500円から1万円、賞品は数万円のゲーム機や電動自転車、フィギュアなど高額のものだった。
・逮捕容疑は1回2千円のプレイ代で客4人から総額47万円余りをだまし取ったというものだった。
・2015年以降、警察には36人から総額約600万円の被害相談が寄せられており、10万円以上を突っ込んだ客も多かった。
・店員は、所持金を使い果たした客に対し、ATMなどで預金を引き出すようにうながしていた。
・社長の指示の下、大阪や京都のゲームセンター5店全てで店員らが組織的な詐欺に及んでいたと目される。
要するに、あまりにも度が過ぎた悪質な事案である上、不確実な賞品の獲得があたかも確実であるかのように告げ、露骨な設定の操作にまで及んでおり、店側の一連の行為が詐欺と評価できるからだ。
年末年始はゲームセンターにとって書き入れ時であり、その直前に社長らを逮捕し、初摘発の事案として広く報道させることで、同様の行為に及んでいる他店に対する警告の効果を狙ったものともいえよう。
同業他社のクレーンゲームでも同じような細工が施されているのではないかと疑いの目で見られることになるし、業界団体も自主的な抜き打ち検査などを行い、さらなる健全化を進める必要に迫られることとなるからだ。
やや特殊な事案ではあるが、これまでこの店や同業他社の店に行き、高額賞品に釣られて同様の被害を受けた人がいれば、泣き寝入りせず、最寄りの警察に相談をしておいた方がよい。
風営法の賞品提供罪に当たることは明らかだし、他の客からも数多くの被害届が出ているかもしれず、それが積み重なれば、今回の事案のように強制捜査に至る可能性も高いからだ。
ただ、いずれにせよ、どのクレーンゲームも店側が勝つようにうまく設定されている。あまり熱くなりすぎず、ほどほどでとどめておくのが賢明だろう。(了)
【追記】
警察庁は、2022年3月1日付で「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律等の解釈運用基準について」という通達を出し、景品の上限価格をこれまでの「おおむね800円以下」から「おおむね1000円以下」に引き上げた。1997年以来の改正であり、業界団体もこれに沿った形でガイドラインを変更する方針だ。
ただし、新たな通達でも1000円以下か否かを判断する基準はあくまで「小売価格」とされている。たとえ仕入価格や原価が1000円以下でも、小売価格がこれを超える賞品であればアウトだという点に変わりはない。