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子供にいっさい財産を遺さなかったフィリップ・シーモア・ホフマン。“甘やかさない”姿勢に賛成?反対?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

死後半年近くたつ今、フィリップ・シーモア・ホフマンが、再び話題を提供している。彼が、3人の子供たちに財産をいっさい遺さなかったことが明らかになったためだ。

ホフマンの遺産は3500万ドル。そのすべてを、彼は、長年のパートナーで、彼の3人の子供の母親であるマリアン・オドネルに遺した。生前、彼の会計士は何度か子供たちのための基金を作るよう提案したが、ホフマンはその都度拒否したという。子供たちを甘やかせたくない、オドネルがきちんと子供たちの面倒を見てくれるはずと考えるホフマンは、ふたりめと3人めがまだ生まれる前に作られた遺書で、全財産をオドネルに渡すよう指示したとのことだ。

スティングも、先月、インタビューで同じ姿勢を表明している。「自分たちが死んだ時、お金はほとんど残っていないよ。僕らが死ぬまでに使ってしまうから」と6人の子供たちに宣言しているというスティングは、「彼らには自分で働いてもらいたい。ずっとそう言い続けてきたので、お金をせびられることはめったにないし、それを誇りに思っている」とコメントした。

巨額の資産のせいで子供たちをダメ人間にしてしまいたくないと考える成功者は、ほかにもいる。ジャッキー・チェンは、「頭が良いなら息子は自分で成功するはずだし、そうでないなら自分の遺産を無駄にするだけ」と、遺産はほとんど息子に譲らないと宣言。52億ドルを所有するとされるジョージ・ルーカスも、ほとんどをチャリティに寄付するとし、子供たちに渡る遺産はとても少ないと常々伝えているらしい。テッド・ターナー、ウォーレン・バフェットも“甘やかさない”主義だ。

何もないところから成功を築き上げてきただけに、わが子が苦労もせずに湯水のようにお金を使うのを見たくはないという気持ちは、十分納得できる。が、一方では、自分がなりふりかまわず働く間、子供たちとの時間を犠牲にしてきたのだから、子供たちもその資産を築く上で苦労したのだという意見もあり、論議は深まるばかりだ。

790億ドルを所有するとされるビル・ゲイツは、「子供たちがやりたいことをやれるようにしてあげつつ、何もしないでも生きていけるようにはしない、その上手なバランスを保とうとしている」と語っている。裕福な人たちの多くが求めるところは、おそらく、そこなのかもしれない。とは言え、所詮は、家の中の問題。他人がとやかく言うことではないのだ。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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