「日本のパラリンピックと五輪の一本化、20年前にできた」
パラリンピックはスポーツの祭典
パラリンピックを主催する国際パラリンピック委員会(IPC)のフィリップ・クレイバン会長(英国)が14日、ロンドン市内で筆者の単独インタビューに応じた。
クレイバン会長は「日本政府が五輪は文部科学省(スポーツ)、パラリンピックは厚生労働省(福祉)に分かれていたのを文科省に一本化したのは素晴らしいが、20年前にできた。パラリンピックは障害者福祉ではなく、スポーツの祭典だ」と話した。
昨年のロンドン五輪・パラリンピックでは、英民放チャンネル4が英BBC放送以外では初めてパラリンピックの放映権を獲得、専用チャンネルまで設けて計400時間放送した。
「パラリンピック大国」の中国も1日5時間にわたってパラリンピックを放送。ドイツやフランスの主要チャンネルも夜の枠を使って放送し、衛星放送チャンネルのスカイ・イタリアも計500時間をあてた。
ロシアと並んで放送時間が少なかったNHK
これに対して、日本放送協会(NHK)はロシアと並んで放送時間が少ない例として英誌エコノミストに紹介されてしまった。
クレイバン会長はしかし、「東京パラリンピックについてはまったく心配していない。東京開催が決定し、複数のテレビ局が放映権を獲得するために互いに競い合うようになる」と指摘した。
クレイバン会長によると、パラリンピックが世界で放送された時間は2004年アテネが535時間、08年北京が1381時間、12年ロンドンが2514時間と倍々ゲームで増えている。
視聴者はアテネが18億6千万人、北京が24億8200万人、ロンドンが34億500万人。今やパラリンピックは入場券の販売数で五輪、サッカーのワールドカップに次ぐ国際スポーツイベントなのだ。
「東京パラリンピックではパラリンピアンの活躍を生で観戦することで日本全体が前向きな経験を共有でき、テレビ放送を通じパラリンピックや障害者スポーツに対する考え方が変わるだろう」
クレイバン会長は、日本障害者スポーツ協会会長で日本パラリンピック委員会委員長の鳥原光憲氏の名前を挙げ、「障害者スポーツのビジョンを実現する2030年までのアクションプランを定めたことは大きい。20年に東京パラリンピックを開催することで弾みが着く」と指摘した。
ピストリウスの教訓
ロンドン・パラリンピックのパートナーやサポーター企業には韓国メーカーのサムソンや、米ファストフードチェーンのマクドナルド、米清涼飲料水メーカーのコカ・コーラなど世界のトップ企業26社が名を連ねた。
英スーパーチェーンのセインズベリーはパラリンピックだけのパートナーで、「ロンドン・パラリンピック大使」としてサッカーの元イングランド代表チーム主将デビット・ベッカム選手を起用するほどの力の入れようだった。
両足が義足のオスカー・ピストリウス選手(南アフリカ)は五輪とパラリンピックに出場し、世界中の注目を集めた。しかし、今年2月、自宅で恋人を射殺したとして逮捕された。
ピストリウス選手について、クレイバン会長は「この事件に五輪やパラリンピックが影響したわけではない。パラリンピックの発展とも関係がない。パラリンピック・スポーツの外で起きたことだ」と強調。
「かつてはピストリウス選手だけがパラリンピックのスターだったが、ロンドン・パラリンピックでたくさんのスターが誕生した。状況は一変した」
英国の女性水泳選手エリー・シモンズさん、車イスの男性ランナー、デービッド・ウィア氏の英国での知名度はピストリウス選手のそれを上回る。ロンドン・パラリンピックでパラリンピアンの認知度は飛躍的に向上した。
来年にソチ冬季五輪を開催するロシアのプーチン大統領は今年6月、18歳未満の青少年に同性愛をPRすることを禁ずる同性愛宣伝禁止法を成立させたが、クレイバン会長は、選手、コーチ、メディア、観客への影響はないとの考えを強調した。
素晴らしかった佐藤真海さんのプレゼン
クレイバン会長は、20年東京五輪・パラリンピック開催を決めたブエノスアイレスでのプレゼンテーションについて、「7月、スイス・ローザンヌでのプレゼンテーションを見て、東京にはもっと感情を込めるようにアドバイスした」と打ち明けた。
「日本人は感情を表に出すのが得意ではない。しかし、(宮城県気仙沼市出身で)パラリンピック陸上女子走り幅跳びの佐藤真海選手のプレゼンテーションは感動的で、国際オリンピック委員会(IOC)委員の気持ちを一気に引き寄せた」
クレイバン会長は「東京は大差で勝ったのでプレゼンテーションが決め手になったとは言えないが、ダメ押しになったのは間違いない。佐藤選手をはじめ東京は良い仕事をした」と称賛した。
ワン・ワールド ワン・ドリーム
「私たちはディスエーブル(障害者)という言葉でくくられるのではなく、みんなと同じように1つの社会を構成している。ディスエーブルではなく、みんなと同じ人間。ワン・ワールド、ワン・ドリーム、ワン・ピープルをスローガンにしている」とクレイバン会長。
パラリンピック発祥の地、ストーク・マンデビル病院(英国)の精神について、「『車イスに乗っているんだって、だから、それがどうしたんだ』ということだ。さあ、外に出て、スポーツを楽しもうという精神だ」と笑顔で話した。
これまでパラリンピックへの関心があまり高くなかった米国でも、3大ネットワークの1つ、NBCとNBCSNがソチ冬季パラリンピック、16年リオ・パラリンピックを合わせて計116時間の放送枠を設けた。ブラジル世論の75%はパラリンピックに好感を持っているという。
パラリンピックはどこまで五輪に近づき、同時に独自のブランドを構築していけるか。その試金石として2020年東京パラリンピックへの期待は高まっている。
(おわり)