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米リアリティ番組、水原一平容疑者から金を受け取った男に突っ込む

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト
水原の送金先だったライアン(ジェニファー・ペドランティのインスタグラムより)

 違法賭博で多額の借金を作った水原一平容疑者が金を送るよう指定された人物は、警察の発表で「アソシエイト1」とされていた。それが人気リアリティ番組「Real Housewives of Orange County」の“ライアン”だとわかったのは、第17シーズンの放映が終わり、第18シーズンも撮り終えた今年5月のことだ。

 彼が初登場した第17シーズンを見ていた視聴者からは、驚きの声と同時に、「あの人ならなんとなく納得」との声も聞かれた。ハウスワイフ仲間も、以前から何か気づいていたのだろうか。7月に放映開始した第18シーズンもかなり進んだ今、ついにその部分に焦点が当たった。

“ライアン”の本名は、ライアン・ボヤジアン。やはり第17シーズンに新レギュラーとして加わったハウスワイフ、“ジェン”ことジェニファー・ペドランティの恋人だ。タイトル通り、女性たちが中心のこの番組で男たちはあくまで添え物で、出番は少ない。ライアンについては、プールのある広々とした美しい家に住み、ゴールデンリトリーバーを飼っていて、優雅な生活をしているということくらいしかわからなかった。ただ、既婚女性に手を出すプレイボーイとの悪名も高く(ジェンも、ライアンとつきあい始めた時、夫と別居中ではあったものの離婚はしていなかった)、ハウスワイフ仲間たちからは良く思われておらず、ジェンがライアンをかばうという状況がたびたび展開していた。

 第18シーズンも、最初のほうでは、あくまでジェンの優しい恋人として出てくる。夫と具体的に離婚交渉が進まない中、もらいたいと思っている元配偶者サポートをもらえず、ジェンはお金に困っている。家賃を払えなくなり、車も手放さなくてはならないというジェンに、ライアンは、自分の家での同棲を提案し(ジェンの5人の子供も一緒に)、「僕は新しい車を買うから、今の僕の車を君が使えばいい」とオファーする。ファッションに強いこだわりを持つ彼は、どんな服を買っても(下着でも!)必ずお直しをする話も出るなど、金回りは明らかに良い。

違法賭博で多額の借金を抱えた水原一平容疑者は、送金先として、胴元マシュー・ボウヤーからライアン・ボヤジアンを指定された
違法賭博で多額の借金を抱えた水原一平容疑者は、送金先として、胴元マシュー・ボウヤーからライアン・ボヤジアンを指定された写真:ロイター/アフロ

 果たして、その金はどこから来ているのか。

 先月末に放映された第12話で、ようやくそこに触れられた。このシーズンで初登場したハウスワイフ“ケイティ”が、ライアンは何を仕事にしているのかと、ジェンに聞いたのである。ジェンの答は、なんと「今は何もしていないの。長いこと住宅ローンの仕事をしていて、その後不動産開発にたずさわっていたけど、今はオフィスもないし、ぶらぶらしている」。

 同じ回の後半にも、その話題が出る。ホームパーティに行った先で、ライアンが男性たちから同じ質問をされるのだ。ライアンの返答は、「不動産開発と住宅ローン。フリップ(中古不動産を買い、修繕して高く売ること)もする。今、7つの家を手がけているところ」。オフィスはどこなのかと聞かれる前に、先手を打ってリモートワークだとも言っている。いかにももっともらしい。

 しかし、いざディナーが始まり、酔いも回ってくると、ジェン、ライアンとこじれているハウスワイフ、“タマラ”ことタマラ・ジャッジが、ライアンを攻撃し始め、挙句に「ところでFBIの件はどうなっているのよ?」とみんなの前で聞いたのである。タマラの夫は妻にストップをかけたが、その場にいたみんなは驚きを隠せなかった。

 FBIがライアンの捜査をしていること、それが違法賭博に関係していることを、タマラは半年前から知っていたという。ほかのハウスワイフも、ライアンがしょっちゅうラスベガスに行くことには気づいていた。「私たちは真のライアンについて知らない。でも、ジェンはすべて知っているわ」とタマラが言って、その回は終わる。

捜査されているのは友人だとライアンは言い訳

 現地時間今月3日に放映された第13話は、まさにその続きから始まった。タマラ夫妻が帰ってしまった後、ライアンは、「僕の友達がちょうどそういうことを経験しているところなんだよね」と言い、隣で不安そうな顔をしているジェンに「たぶん、(タマラは)マットのことを言ったんだよ」と言う。続けて、そこにいるみんなに向け、「マットはプロのギャンブラーで、胴元としてのビジネスもしているんだ。僕がマットとよくラスベガスに行くのは事実」と説明する。彼の言う“マット”は、紛れもなく水原容疑者の胴元であるマシュー・ボウヤーだ。

ジェンは今もライアンを支えている(ジェニファー・ペドランティのインスタグラムより)
ジェンは今もライアンを支えている(ジェニファー・ペドランティのインスタグラムより)

 このホームパーティが具体的にいつだったのかはわからないものの、第18シーズンの撮影は水原容疑者が大谷選手から金を盗んでいたと発覚するより前に終わっているので、この時、ハウスワイフたちがこのFBIの捜査がスポーツ界のスーパースターにかかわるものだったと夢にも思っていなかったのはたしか。事件が明るみに出た後、一度終わっていた撮影は再開されており、その後についてもきっとこれから出てくるだろうと期待される。そのせいか、もう放映が始まっているこのシーズンが全部で何話あるのかは発表されていない。

 水原容疑者が初めてロサンゼルスの裁判所に出廷した今年4月、まだ事件への関与が表沙汰になっていなかったライアンは、大きなダイヤの指輪をジェンに贈って正式なプロポーズをしている。高額な指輪を買うお金は、どこから来たのか。追加で撮影された部分では、そのあたりも突っ込まれるか。事件の報道の後、タマラは、「私は『マフィアのハウスワイフたち』に出演したつもりはない。最悪」と、メディアに対してライアンを批判した。彼女はそのノリのまま、番組内でも彼を追及するのだろうか。

 ライアンは、捜査に協力する代わりに罪には問われないことになっている。ジェンは、そんな彼を支え続けている。そんな中、今月に予定されていた水原容疑者の量刑言い渡しは、12月に延期された。映画化の企画も進んでいるが、この件はまだまだ進行中。この番組の今後の展開にも、目が離せない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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