Yahoo!ニュース

家から逃げた飼い犬が路上で3歳女児をガブリ!飼い主の法的責任はどうなる?

前田恒彦元特捜部主任検事
(写真:PantherMedia/イメージマート)

 大分県で祖母らと住宅地の路上を歩いていた3歳の女児が、体長約1メートルの犬に顔や首などをかまれ、大けがをした。近くの家から逃げた飼い犬であり、約1時間半後に飼い主のもとに戻り、捕獲されたという。

普段の飼育や管理状態が重要

 飼い犬が暴れて他人の物を壊したり、別の飼い犬にかみついても、飼い主には器物損壊罪や動物傷害罪は成立しない。それらの犯罪は故意が必要であり、過失があっても処罰できない決まりだからだ。

 しかし、相手が人間だと話は別だ。女児は病院に緊急搬送され、命に別状はなかった。それでも飼い主は、過失傷害罪に問われる可能性がある。最高刑は罰金30万円だ。飼い主の不注意の程度によっては、重過失傷害罪による立件も考えられる。こちらは最高刑が懲役5年、罰金でも100万円以下と重い。

 犬による咬傷事件は年間約4千件も発生しており、その約9割が通行人ら他人に対するものだという。周囲の注意を無視して放し飼いを続けたとか、過去にも人を襲ったことがあるようなケースだと、飼い主が重過失傷害罪で逮捕、起訴され、有罪となった例も多い。

 そこで、今回の事件も、犬が逃げた原因、すなわち飼い主が自宅でこの犬をどのような状態で飼育し、管理していたのかが重要となる。大分県を含め、条例で飼い主に飼い犬の常時係留を厳しく義務付けている自治体まであるほどだ。

 柵や檻など囲いの中で飼うとか、固定された物に鎖などで確実につないでおくとか、散歩の際もリードなどで自由に動き回らないようにするといったものだ。

高額な損害賠償責任も

 この事件の場合、家に鎖でつないでいた首輪の留め金が破損し、外れていたという。過去にも逃げ出したことがあるとか、普段は庭の中を行ったり来たりしているといった話もある。

 そうすると、犬の係留が不十分だった可能性が高い。現在、警察がその点について捜査を進めているところだ。すでに大分県も立ち入り調査を実施し、飼い主に対して行政指導を行っている。

 このほか、飼い主は治療費や慰謝料など、民事上の損害賠償責任も負わなければならない。相手が重傷だったり、大きな傷あとが残るようなケースだと、必然的に賠償金も高額となる。もし保険に加入していなければ、飼い主の金銭的な負担も大きい。

 普段はおとなしい飼い犬でも、急に興奮し、他人にけがをさせることもありうる。こうした事態を避け、愛犬を守るためにも、普段からその飼育や管理を徹底しておく必要があるだろう。(了)

元特捜部主任検事

1996年の検事任官後、約15年間の現職中、大阪・東京地検特捜部に合計約9年間在籍。ハンナン事件や福島県知事事件、朝鮮総聯ビル詐欺事件、防衛汚職事件、陸山会事件などで主要な被疑者の取調べを担当したほか、西村眞悟弁護士法違反事件、NOVA積立金横領事件、小室哲哉詐欺事件、厚労省虚偽証明書事件などで主任検事を務める。刑事司法に関する解説や主張を独自の視点で発信中。

元特捜部主任検事の被疑者ノート

税込1,100円/月初月無料投稿頻度:月3回程度(不定期)

15年間の現職中、特捜部に所属すること9年。重要供述を引き出す「割り屋」として数々の著名事件で関係者の取調べを担当し、捜査を取りまとめる主任検事を務めた。のみならず、逆に自ら取調べを受け、訴追され、服役し、証人として証言するといった特異な経験もした。証拠改ざん事件による電撃逮捕から5年。当時連日記載していた日誌に基づき、捜査や刑事裁判、拘置所や刑務所の裏の裏を独自の視点でリアルに示す。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

前田恒彦の最近の記事