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ロッテの「CSよりタイトル」重視の涌井起用は、そもそもタイトルへの歪んだ倫理観に問題あり

豊浦彰太郎Baseball Writer
(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

個人タイトルは、チームのCSでの勝利よりも優先されるべきものか?すでにCS進出を決めていたロッテが、エース涌井秀章を最多勝タイトルのために今季最終戦に起用。137球も投げさせたことで、結局ファイナルステージでは涌井の登板前に3連敗で敗退した。このことを、元西武監督で殿堂入りの元名投手東尾修氏が問題視している。

本件を時系列に整理するとこうなる。

ロッテは、10月4日の日本ハム戦での勝利で3位を確定させ、2年ぶり4度目のクライマックスシリーズ進出を決めた。

ところが、伊東勤監督は10月6日の今季最終戦となる楽天戦に涌井を中4日で先発させた。この試合で涌井は137球を投げ15勝目。日本ハムの大谷翔平に並び、6年ぶり3度目のタイトルを手にした。CS優先でこの登板は見送る、もしくは少ないタマ数での調整登板とする手もあった(このあたりで投げさせないと、CSまで逆に間隔が空きすぎるからだ)。

しかし、6日のタイトル優先の登板により、10月10日に開幕したファーストステージ第1戦は中3日となるため間に合わず。結局、中5日となる第3戦に先発し、7回途中まで143球を投げた。

結果的に3戦で終了したファイナルステージでは、早くても中4日の17日の第4戦までは温存せざるを得なかったため、登板機会がなかった。

そもそも、優先すべきはチームの日本シリーズ進出か個人タイトルか、という議論が出てくること自体がおかしいと思う。野球は個人競技ではないからだ。本件に関し、東尾氏が問題提起したのは伊東監督の戦略・戦術だが、それ以前にタイトルに対する(ぼくに言わせれば)歪んだ倫理観に目を向けるべきだと思う。

本来、個人記録やタイトルはチームの勝利のために「ガチンコ」勝負をした結果として得られてこそ価値がある、とぼくは考えているのだが、実はまったく逆の事例が少なくない。

昨季終盤、最終的にパ・リーグ首位打者となった糸井嘉男が所属するオリックスが、逆転首位打者の可能性がある楽天の銀次を直接対決では5打席歩かせた。

ちょっと遡ると、98年のパ・リーグの盗塁王争いのような惨事もあった。当時西武の松井稼頭央とロッテの小坂誠が試合展開を全く無視した盗塁を仕掛けたと思えば、チームメイトは相手選手の盗塁妨害のため意図的な牽制悪投やボークでサポート?した(ちなみに牽制悪投でも走者は進塁しようとしなかった)。

このような、見ていて野球への愛情が冷めてしまうような行為は、歴史を紐解くと枚挙にいとまがない。今回のロッテの涌井起用はここに例として挙げたものほどいびつではないが、「タイトルはチームの利益を最優先した上での真剣勝負の結果として得られてこそ」という考えには基づいていないことは間違いない。

また、倫理と言えば、本件には他にも残念な点があった。それは、伊東監督が最終戦での涌井起用の判断について(少なくともメディア報道によると)、「本人がどうしても、と言うのでそうした」とコメントしたことだ。そもそも、先発投手決定の最終判断は監督の責任だ。涌井が志願したとしても「君はポストシーズンでフル回転してもらわねばならないから」と却下する権利を伊東監督は有していたはずだ。最終戦での涌井起用は紛れもなく伊東監督の決断であり、そうせざるをえなかったかのようにメディアに語るべきではないと思う。

Baseball Writer

福岡県出身で、少年時代は太平洋クラブ~クラウンライターのファン。1971年のオリオールズ来日以来のMLBマニアで、本業の合間を縫って北米48球場を訪れた。北京、台北、台中、シドニーでもメジャーを観戦。近年は渡米時に球場跡地や野球博物館巡りにも精を出す。『SLUGGER』『J SPORTS』『まぐまぐ』のポータルサイト『mine』でも執筆中で、03-08年はスカパー!で、16年からはDAZNでMLB中継の解説を担当。著書に『ビジネスマンの視点で見たMLBとNPB』(彩流社)

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