ヤマハの至宝であり財産 「VMAX」が惜しまれつつも生産終了
ヤマハが「VMAX」の生産を今年8月で終了することを発表した。
2017年の生産予定台数は120台ということで、早期完売の気配から巷では騒然となっているようだが、正直とても寂しい思いがする。同じ心情のファンも多いことだろう。
ゼロヨン10秒台! 米国生まれのドラッグマシン
ケタ外れの巨大さと大地をかきむしる暴力的なパワー、未だ経験したことがない怒涛の加速で、すべてを置き去りにする究極の瞬間移動マシン。
VMAXにはどこか近寄り難い神秘的な存在感があり、それを乗りこなすライダーにはアウトロー的なイメージがあった。
初代VMAXが登場したのは1985年、北米向け輸出モデルとしてデビューした。コンセプトは「ストリートドラッガー」。
ヤマハモーターUSAの発案によって開発された初代VMAXは、当時アメリカの象徴だった「大排気量V8エンジン」を搭載した、アメリカンマッスルカーの迫力をモーターサイクルで表現したものだ。
累計10万台を超すロングセラーモデル
最新の水冷V型4気筒DOHC4バルブ1198ccエンジンには、高回転域でキャブレターを連結して1気筒当たりツインキャブでパワーを引き出す、「Vブーストシステム」などのハイメカを搭載。当時世界最強を誇った145psのパワーにより265kgの巨体をゼロヨン10秒台で加速させた。
それまでのステレオタイプのアメリカン・クルーザーの常識を覆す独自性と強烈な個性、圧倒的な動力性能によってVMAXは北米でも熱狂的に受け入れられた。
その熱量は世界に飛び火し、累計10万台を超すロングセラーモデルとなったことは周知のとおりだ。
R1の技術が移植されたメガクルーザーとして新生
初代が生産終了した翌年の2008年に誕生した新型VMAXは、排気量を1679ccまで拡大した新設計V4ユニットに、“21世紀のVブースト”と銘打ったYCC-T(ヤマハ電子制御スロットル)とYCC-I(ヤマハ電子制御インテーク)を搭載し、海外モデルで200psの最高出力と17kgf-mの最大トルクを発揮。
新たにアルミ鍛造ピストンや破断分割(FS)式浸炭コンロッド、排気デバイスEXUP、スリッパ―クラッチなどスーパースポーツ「YZF-R1」開発で培われた技術が投入された。
エクステリアも現代的かつグレード感溢れるスペック
車体面では初代のスチールフレームに代わり、エンジンを剛体として利用するアルミダイヤモンドフレームを採用することで、怒濤のエネルギーを受け止める軽量・高剛性な車体を実現。
エンジン小型化による前輪分布荷重の最適化に加え、φ52mmの超大径酸化チタンコーティング正立フロントフォークやリンク式モノクロスサスペンションを導入するなど足回りを強化。
前後ウエーブディスクにラジアルマウント式6ポッドモノブロックキャリパー&ラジアルポンプ型ブレーキマスターシリンダー、リニア制御ABSなど超ド級サイズに見合ったストッピングパワーが与えられている。
また、チタン製マフラーにマルチファンクションディスプレイやLEDテールライト、マグネシウム製パーツが多用されるなどエクステリアも現代的かつグレード感溢れるスペックで仕上げられている。
ちなみに新型VMAXの車格はホイールベース1700mm、車重310kgに達するなど初代を大幅に上回るスケール感を持ったメガクルーザーとして蘇った。
ヤマハのモノ創りの精神を表す“至宝であり財産”
空前のビッグヒットとなった初代VMAXの「後継モデル」の開発には、ヤマハの開発陣も相当な心血を注いだことだろう。
ヤマハの公式サイトではVMAXへの想いをこのように綴っている。
人生を豊かにするものとは……
「人生を豊かにするものであれ」
これは正にモーターサイクルの存在意義を世に問いかけた名言と思う。
必然性のない巨大さや人間の手に余るほどのパワーなど、エコや効率で考えたらVMAXはまったくナンセンスな乗り物である。だが、それだけに非日常的な興奮とロマンを感じるし、求めてやまない情熱を注ぐことができる。
モーターサイクルとは本来そういう趣味性の高いインディビジュアルな乗り物だと言えよう。その姿を極端に分かりやすいカタチで描いて見せたのがVMAXだった。
最近はVMAXのようなマシンが生きづらい世の中になっているのは確かだろう。
でも、我々は心のどこかで求め続けている。次のVMAXを!