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舛添騒動の自爆の連鎖に学ぶべき、炎上を消火するためのただ一つの鉄則

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
舛添さんを見送った都議会にも火の手が迫っているようです。(写真:ロイター/アフロ)

舛添元都知事の騒動が本人による辞職表明によって一段落してから早くも一週間が経過していますが、舛添騒動の余波は都議会のオリンピック視察にも延焼を続けているようです。

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舛添氏の辞職表明後、ネット上では50億円もかかる都知事選挙をやり直すことの無駄さを嘆く声が多く聞かれましたが、結局都議会にも高額海外出張問題があったわけで、舛添氏が退職に追い込まれるきっかけとなった高額な海外出張費問題は、舛添氏一人の問題では無く都議会全体の問題であったことが明確になろうとしている印象です。

結局のところ、舛添氏が疑惑の詳細については語らずに辞職してしまったので、全ての真相は闇の中になってしまっているわけですが、今回の舛添騒動は騒動の根本的な疑惑については認めていないものの関係者が辞職に追い込まれるという意味でオリンピックエンブレム騒動と重なるところが多くあります。

参考:五輪エンブレム騒動に私たちが学ぶべき炎上対応4つの基本

結論から言うと、個人的には今回の舛添辞任騒動は、舛添氏の自爆が生んだ結果という印象を強く受けています。

今回の辞任騒動を時系列で振り返ってみましょう。

■第一段階:2016年3月~4月 高額出張費問題

■第二段階:2016年5月10日 文春砲炸裂

■第三段階:2016年6月6日 第三者調査結果発表

■最終段階:2016年6月15日 辞職願提出

順番に解説します。

■第一段階 種火:2016年3月~4月 高額出張費問題

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参考:【舛添知事定例会見録】「トップが二流のビジネスホテルに泊まりますか?」「恥ずかしいでしょう」

この問題が話題になった当初、まだ舛添バッシングはそれほど大きいわけではありませんでした。

実際に都議会の出張費が問題になっているように、石原都知事時代も高額出張はあったようですし、この問題は都議会、もしくは日本の政治家全体の意識の問題と言えるかもしれません。しかもこの段階ではあくまで「無駄遣い」の話であって「不正」の話ではありませんでした。

そういう意味では、この段階での舛添氏の対応次第では、その後の騒動は起きずに終わった可能性も十分あると思っています。

実際、この段階では舛添氏を擁護する発言も少なからず見られました。

この段階で例えば「これまでの東京都の慣例に従って宿泊先等を選択していたが、今回のご批判を受けて規程等を含めて見直しをしたい。ファーストクラスやスイートルームなどの無駄遣いはやめる」と真摯に発言していれば、話は全く違ってボヤで消し止めれた可能性は高いと考えられます。

(最終的には6月にファーストクラスやスイートルームは今後使用しないと謝罪しますが、遅すぎました。)

しかし、舛添氏はこの批判を自分一人に対する個人攻撃と受け止めて、攻撃的な反論をするという過ちを起こします。

象徴的なのが冒頭の記事にもあったこういった発言でしょう

「トップが二流のビジネスホテルに泊まりますか?恥ずかしいでしょう?」

「あのね、政治家というのはトップリーダーです。先々のことを、大きなグランドデザインを描く作業があるんです」

こうした発言は、明らかに自爆です。

当然、取材したメディアやそれを聞いた人々の間に、少なからぬ怒りや不満を溜め込むことになります。

これが、後の騒動拡大へのエネルギーになったのは間違いありません。

■第二段階 炎上:2016年5月10日 文春砲炸裂

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参考:舛添都知事に政治資金規正法違反の重大疑惑!

舛添騒動が明確に「事件」になったのは、週刊文春によるスクープでした。

このスクープは、文春編集部がリサーチした結果発覚したようですが、きっかけは内部告発だったらしいというのが一つ注目したいポイントです。

あくまで想像ですが、舛添都知事の度重なる攻撃的な反論が、この内部告発の引き金になっている可能性が高いわけです。

これにより、世間の注目は一気に舛添氏の公私混同問題に集まることになります。

特に深刻な指摘だったのが、正月の会議費の支出が家族旅行であった可能性が高く、政治資金規正法違反である虚偽記載の可能性があると報じられた点でしょう。

ここに至り明確に舛添騒動は「無駄遣い」の議論から「不正」の議論に転換し、明確に燃え始めるわけです。 

最終的に振り返ると舛添氏にとってこのスクープが致命傷になったことになりますが、ただ、実際にはこの段階では舛添氏には消火のオプションはまだありました。

この段階で、明確に自らの非を認め、無駄遣いやセコい判断があったことをお詫びして、給与を返上し無報酬ででも都知事を続けて恩返しをしたい旨、誠意を込めて謝罪できていれば、辞職は免れることができた可能性はあるはずです。

(最終的には辞任直前に給与全額返納し無報酬でも続けたいと謝罪しますが、遅すぎました。)

実際、この段階では自民党もまだ擁護する姿勢を見せていましたし、早期に騒動が収束すれば、人々があまりにセコい金額の報道に飽きてくれた可能性もあるわけです。

逆に、自分の任期中に東京都における政治資金活用の抜け穴の対策をする、とか宣言することで批判の流れや矛先を変えることもできたかもしれません。

ただ、舛添氏はここでも毎日のように小さな自爆を繰り返します。

疑惑について薄い謝罪はしたものの、正面から受け答えせず、第三者調査を繰り返したわけです。

疑惑の解明の結論延期というのは、疑惑のままの状態で日々報道が過熱するだけで全く良い結果をもたらしません。

結局第三者調査の結果発表まで、さらなる負のエネルギーを溜め込む結果となります。

■第三段階 大炎上:2016年6月6日 第三者調査結果発表

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参考:舛添氏が頼る「第三者の目」ダメ出し 専門家「信用できん」その理由

最終的に舛添氏にとどめを刺したのは、第三者調査の結果発表だったというのが個人的な印象です。

ただでも疑惑に対する人々の不信の目が最大限に大きくなっているところで、とても第三者とは思えない生ぬるい調査結果と、担当の弁護士によるぶっきらぼうな記者対応が、さらなるメディアや視聴者の不信感を増幅する結果になりました。

そもそも第三者調査の座組を設定したのが舛添氏サイドだったことを考えると、第三者調査自体が舛添氏の壮大な自爆だったと言えます。

この第三者調査のあまりにお粗末な結果が、その後の「調査結果に納得していない人は98%」という調査結果につながり、これが舛添氏を辞任させなければならないというメディアの正義感の発動につながっていくわけです。

参考:舛添都知事会見でスポニチアンケート「納得しない」98・6%

もうこうなるとメディアによる集中攻撃が毎日のように続くわけで、舛添氏が何をやっても全て無駄です。

この後、舛添氏はずるずると続投のために給料半額を打診したり、判断を延期してもらうための涙の訴えをしたり、給与全額返納を宣言したり、とあの手この手を尽くしますが、もはや舛添氏は辞任すべきと心を決めたメディアと視聴者には全く届きません。

さらには参院選への悪影響も明確になってしまい、自民党にも愛想をつかれてしまう結果になるわけです。

結果、舛添さんは当初の大方の専門家の予想を裏切って早期の辞職に追い込まれることになります。

これだけの負のエネルギーが連鎖すれば、それは都議会とか周辺の人にも延焼して当然と言えるでしょう。

炎上を消火するための鉄則

一連の流れを見て頂ければ、舛添氏がそれぞれの段階で全て対応を間違い自爆して騒動を拡大してしまっているのが良く分かると思います。

「炎上」とは良く言ったもので、こうした炎上の消火の際の鉄則はただ一つ

「燃えている炎よりも大きなパワーで消火にあたる」です。

舛添氏は種火の段階ではわざわざ自ら火に油を注ぎ、発火の段階では少量の水はかけた程度で後は時間稼ぎをしながら炎が燃え広がるのにまかせてしまいました。

そして最終的には自ら炎の中に「形ばかりの第三者調査」という燃料をさらに投下して、火の手を最大限に大きくしてしまったわけです。

大炎上になってから急に必死になって消火にあたっても、もはや時すでに遅し、です。

ここまで大規模な炎上をしなければ、おそらくは舛添氏の当初の思惑通り、少なくとも参院選後やリオ五輪後までは都知事の座に居座ることができたはずで、そこまで続けていられれば世間も追及に飽きていた可能性もなくはないですから、舛添氏は自ら自爆して辞職の引き金を引いてしまったのは実に皮肉な結果と言えます。

ちなみに、そもそも炎上しかけたところをうまく消火して乗り切った事例なんかあるのか?という声が聞こえてきそうなので、続いてその話を書こうかと思ったんですが。

すでにえらく長文になってしまったので今日のところはこの辺で。

とにもかくにも東京都民は50億円という高い授業料を支払う羽目になってしまったわけですが、少なくとも98%もの人を敵に回すようなお粗末な金銭感覚の都知事が自ら辞職してくれて良かったと振り返れるように、次こそは素敵な都知事が選ばれることを祈るばかりです。

(私は神奈川県民なので蚊帳の外なんですが・・・)

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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