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集団免疫論を信じるな「暗黒の11月」欧州は危険な冬を乗り越えられるか フランスは再び都市封鎖

木村正人在英国際ジャーナリスト
テレビ演説で都市封鎖の再実施を表明するマクロン仏大統領(写真:ロイター/アフロ)

仏大統領「第2波でさらに40万人が死亡する恐れ」

[ロンドン発]新型コロナウイルス第2波の急激な拡大を受け、フランスのエマニュエル・マクロン大統領は28日、テレビ演説し「第1波より致命的になる恐れが大きい」として30日から11月末まで全土でロックダウン(都市封鎖)を再び実施すると表明しました。学校と託児所は閉鎖しません。

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マクロン大統領は「すべてのフランス国民を守ることは私の責任だ。何もしなければ第2波でさらに40万人のフランス人が死亡し、すべての病院が生命の選別を迫られることになる」と述べ、免疫を持つ人が壁になって感染症の流行を防ぐという集団免疫の考え方を拒否しました。

都市封鎖の内容は次の通りです。

・出勤、登校、医療、介護、生活必需品の買い物、1日1時間の運動以外は外出禁止

・外出時には外出申請書や身分証明書の提示を求められる

・地域間の旅行は禁止

・バー、レストラン、重要度の低いビジネスは閉鎖

・可能な限りリモートワークを行う

・高等教育はオンライン授業

・国境はほぼ閉鎖

中小企業は月1万ユーロ(約123万円)を補償され、従業員や家賃を支払えない人も支援を受けられます。

フランスでは10月17日から最低4週間の衛生緊急事態宣言が全土に発動されています。パリを含む9都市圏で夜間の外出が禁止され、レストランや劇場、映画館が閉鎖されました。外出申請書や身分証明書の携帯が義務付けられ、違反者には135ユーロ(約1万6700円)の罰金が科せられます。

ドイツも「緩やかなロックダウン」

ドイツのアンゲラ・メルケル首相も28日、集中治療室の患者がこの10日間で倍増したとして「症例の75%は追跡不能になった。私たちは非常に深刻な状況にある。緊急事態を回避するため、行動しなければならない」と述べ、11月2日から全国に「緩やかなロックダウン」を導入すると発表しました。

2週間後にメルケル首相と各州政府の首相が状況を協議して対応を見直します。独国際放送ドイチェ・ヴェレ(DW)によると「緩やかなロックダウン」の内容は次の通りです。

・お持ち帰りサービスを除いてレストランとバーは休業

・大規模イベントはキャンセル

・緊急不可欠な場合を除いて旅行の自粛要請

・観光目的でのホテル宿泊の禁止

・可能な人は在宅勤務。雇用主は在宅勤務への移行を促進

・公の場での集まりは2世帯計10人まで

・劇場や映画館など娯楽施設は閉鎖

・スイミングプール、ジム、サウナなど公共レクリエーションセンターは閉鎖

・スポーツイベントでの混雑禁止

・国境は閉じない

メルケル首相は「影響を受けた企業やクラブには補償を行う」として従業員50人までの企業や自営業者について収入の75%を補償すると表明しました。報道によると合計100億ユーロ(約1兆2千億円)が充てられるそうです。アーティストや舞台係、従業員10人未満の中小・零細は緊急融資を受けられます。

DWによるとドイツでは政府の制限が必要と考える人は43%にとどまり、個人の対応に任せるべきだと答えた人は54%にのぼっています。極右グループを中心に陰謀論が広がり、政府の介入に対する反発からか、独保健省ロベルト・コッホ研究所は放火未遂やサイバー攻撃に見舞われる事件が起きました。

イギリスでは毎日9万6000人が感染と推定

英インペリアル・カレッジ・ロンドンでは9月18日~10月5日と10月16~25日に行った大規模PCR検査の結果を比較した結果、新規感染者数は9日で倍増し、現時点では毎日9万6000人が感染しているとみられることが分かりました。78人に1人がPCR検査で陽性になりました。

ロンドンの再生産数(感染者1人がうつす2次感染者数の平均値)は2.86と推定されています。英BBC放送は何もせずにこのままのペースで感染が広がっていけばイギリスでは11月末までに1日当たり100万人を超える感染爆発が起きる恐れがあると警鐘を鳴らしています。

プログラムディレクターのポール・エリオット教授は「有病率が全国的に増加している。入院が増え、人命が失われることが分かっている。これまで以上に協力してウイルスの拡散を抑制し、医療サービスが圧倒されるのを回避する必要がある」と指摘しています。

インペリアル・カレッジ・ロンドンでは27日、新型コロナウイルスに感染後に回復しても、抗体が3カ月で急減するとの研究結果を発表したばかり。6月20日から9月28日までイングランドの36万5104人を対象に調査をしたところ抗体を持つ人の割合は約6%から4.4%に減りました(26.5%減)。

ロンドンで抗体を持つ人は全国平均の約2倍。18~24歳では抗体を持つ人の割合は7.9%から6.7%に減り(14.9%減)、75歳以上では3.3%から2%に減少(39%減)していました。

インペリアル・カレッジ・ロンドンのヘレン・ワード教授は「検査で検出可能な抗体を持つ人々の割合が時間とともに減少している。新型コロナウイルスに再感染するリスクが残るかどうかはまだ分からない。感染リスクを減らすため、全員が引き続きガイダンスに従うことが不可欠だ」と呼びかけています。

英医療従事者へのワクチン接種を準備

これに対してエディンバラ大学のエレノア・ライリー教授(免疫学・感染症)は「これが新型コロナウイルスの免疫が持続しないことを意味すると考えるのは時期尚早だろう。この研究では抗体濃度、抗体の機能、T細胞免疫などの側面が調べられていない」と指摘。

その上で「ワクチンには持続的な免疫反応を誘発する免疫刺激剤(アジュバント)が含まれており、ワクチンの複数回投与により、大多数のワクチン接種者で高濃度の抗体(時間の経過とともにゆっくりとしか低下しない)が確実に達成される」と述べています。

英国民医療サービス(NHS)では12月前半にもコロナ患者の診断や治療に当たる医療従事者を優先してワクチン接種を始める見通しで、NHSのスタッフに「インフルエンザのワクチン接種後28日が経過しないとコロナワクチンを接種できないので、今のうちにインフルエンザのワクチンを接種しておくよう」促しています。

使用されるのは英オックスフォード大学と英製薬大手アストラゼネカが開発中のワクチンで、弱毒化したアデノウイルスベクターに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質遺伝子をエンコードした組換えウイルスワクチン(ChAdOx1 nCoV-19)とみられています。

感染が拡大するマンチェスターではコロナ患者を収容するナイチンゲール臨時病院が再開されます。

欧州は果たして「暗黒の11月」を乗り越えることができるのでしょうか。

(おわり)

参考:新型コロナワクチン 12月前半にも英医療従事者に接種 中国との開発競争いよいよ最終コーナーに

在英国際ジャーナリスト

在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。masakimu50@gmail.com

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