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発達障害はいつ誰が気づく?〜早期発見と早期支援は両輪で〜

竹内弓乃特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/公認心理師
子育てにおけるちょっとした違和感が気付きに(写真:ペイレスイメージズ/アフロイメージマート)

 「発達障害」という言葉、もう多くの読者の方が聞いたことがあるのではないでしょうか。

 今年も、NHKの発達障害特集が番組表を賑わせ、大人向けから子供向けまで、発達障害への理解を促進するための発信が様々な切り口からなされました。

 【特集】発達障害って何だろう

各方面からの啓発活動により、「発達障害」という言葉をよく耳にするようになり、先天的な脳の機能の違いから、本人の努力とは関係なく読み書きやコミュニケーションなどに困難がある人たちがいる、という理解が少しずつ広がってきているように思います。

 発達障害は、なるべく早い段階で適切な支援が得られるように、まずは「早期発見」が重要であると言われます。平成16年に施行された発達障害者支援法においても、発達障害の早期発見への留意が必要である旨定められています。一人ひとりの特性に合った育ちのサポートが得られない場合、周囲から求められることと特性のミスマッチに本人が生きづらさを感じたり、学べるはずのものも学べないまま歳を重ねてしまうことにもなるからです。

発達障害への「気付き」

 では、「早期発見」の時期である幼少期に、一体誰がどこで発達障害に気付き、「発見」をするのでしょうか?

 発達障害は、遺伝子検査や血液検査で生物学的に診断ができる障害ではなく、アメリカ精神医学会の診断統計マニュアル(DSM)や、WHOの国際疾病分類(ICD)という診断基準に基づき、保護者をはじめとする関係者からの問診、発達検査や知能検査、行動観察の結果などから医師が総合的に判断します。一人ひとり特徴の現れ方や程度が異なるため、診断に時間を要する場合や、医師によって診断が異なる場合もあります。診断をするのはもちろん医師ですが、発達障害の診断ができる医師を受診するまでに、実際には幾つもハードルがあるのが現状です。

 筆者が一番よく出会うのは、子どもの保護者が我が子の発達に違和感を感じて、周囲に相談したりインターネットなどで検索して気付き、相談につながるパターンです。子育ての中で、ちょっとした育てにくさや違和感が気付きのきっかけとなります。祖母などが孫の相手をする中で、自身の子育て経験から「少し違うように思う」と気付きのきっかけを与えてくれることもあるようです。保護者や家族がまず気付き、自発的に支援機関を調べたり相談窓口へ訪れるケースは、その後有効な支援に最も結びつきやすいパターンと言えます。その理由は2つあり、相談に訪れる時にはご家族に支援を利用する心構えができていること。それから、ご家族自身で情報収集をされていることが多く、市区町村の窓口や医療機関で紹介される支援機関だけでなく、公営民営にかかわらずどんな支援機関があるか、どんな支援方法があるか、ということについて、視野が広い傾向にあることです。

 他には、自治体の行う乳幼児健康診査も気付きのきっかけになります。読者の皆さんは、乳幼児健康診査をご存知でしょうか。子育て経験のある方なら、自治体から案内が届いて1歳6か月児健診や3歳児健診にお子さんを連れて行った記憶があるのではないでしょうか。日本では、母子保健法を根拠として、市区町村は1歳6か月児及び3歳児に対して健康診査を行う義務があります。厚生労働省「地域保健・健康増進事業報告」(平成29年度)によると、その受診率は1歳6か月児健診96.2%、3歳児健診95.2%と、非常に高い受診率を誇る日本の優れた母子保健のシステムと言えます。

 健診では、身体の発育や栄養状態、身体や皮膚などの疾病、歯と口腔、運動や精神発達、言語の発達、視覚と聴覚、予防接種の実施状況、育児上の問題など様々な項目が診査の対象となります。

 厚労省の勧告などにより、乳幼児健診で発達障害のスクリーニングを行う自治体も増えています。少し古い調査ですが、平成24年に一般社団法人日本臨床心理士会が行った市町村調査(乳幼児健診における発達障害に関する市町村調査)では、約8割の自治体が乳幼児健診において発達障害のスクリーニングを行っていると回答しています。方法はそれぞれで、問診票に発達障害の特徴に関する項目を含んでいるか、行動観察や専用の質問紙を使用する自治体もあります。同調査によると、「発達/行動」の課題で要観察・要精密判定となった幼児は、1歳6か月健診で全体の11%、3歳児健診では10%でした。乳幼児健診では、保護者の希望で、全体の健診の後に個別相談を受けることができ、親子教室や発達相談などフォローアップのサービスにつながることができます。

気付きから相談までのハードル

 しかし、気付きのきっかけを得ても、相談窓口を訪ねたり、支援までたどり着くにはハードルがあるようです。お子さんの発達が気になりだしてから、様々な迷いや葛藤、紆余曲折を経てやっと相談や支援へ辿り着いたという方が少なくありません。家族の中で、「考えすぎではないか」「この子は親に似てマイペースだから」「気長に見守ろう」というような意見が出てきて、外部への相談を一度見送ってしまったという話は非常によく聞きます。やっと発達障害やグレーゾーンといった言葉が広まりつつありますが、今の社会ではまだまだ特別な「相談」や「支援」には近付きづらい空気があります。

 また、乳幼児健診などで気付きがあっても、保護者自身にあまり困り感が無い場合、話半分で具体的な相談や支援には繋がらないというケースもあります。これは、保護者自身が子どもへの対応が自然と上手くできていたり、周囲と比較せずマイペースに子育てができている結果かもしれません。しかし、「子育ては自分で考えて自分らしく行いたい」という保護者自身の価値観や、それまでのちょっとした行き違いによる「行政のことは信じられない」という不信感、「子育ての問題を指摘されたくない」といった緊張感からくる場合もあるかも知れません。あるいは、兄弟などもいて日々の生活に余裕がない場合、わざわざ相談の予約を取って時間を作ることが難しいケースもあるでしょう。

 障害の有無以前に、親子の抱える困り感は誰にもあって当然のものとして、気軽に専門家に相談できる社会になることが望まれます。また、発達について専門ではない保護者や家族にばかり判断の責任がいくよりも、子どもと関わる様々な立場の人が、自然にその子にあった関わりをできたり、相談につなげるサポートができる社会になれば良いなと思います。

支援メニューの少なさがハードルに

 またとても重要なこととして、早期発見の問題を扱うとき、必ずセットで考えなければいけないのが、早期支援の充実だと思います。

 先に紹介した臨床心理士会の調査において、乳幼児健診で発達障害の早期発見に取り組んでいる自治体は8割に上りましたが、発達障害の可能性があった場合のフォローとして、発達を促すプログラムを実施していると回答した自治体は25%程度にとどまりました。現在、自治体の相談窓口から発達相談などにかかった場合も、その後紹介されるサポートはあまり充実していません。自治体によりばらつきはありますが、多くの場合、月に2回程度の親子教室や、月に1回〜2か月に1回程度の専門職による個別指導といったメニューが紹介されます。いずれも経過観察の機能がメインで、残念ながらこの頻度で子どもの発達が効果的に促されることは滅多にありません。その機能が問題だと言いたいわけではなく、せっかく様々なハードルを乗り越えて気付きに至り相談に訪れた保護者が、そこからつながった支援の効果の曖昧さに拍子抜けして、支援を求めることから遠ざかってしまうことが大きな問題です。経過観察を続け、子どもの変化を実感できない宙ぶらりんの状態で何か月も過ごすという例が少なくないのが現状です。3歳になりお子さんの障害特性がはっきりしていれば、自治体の療育センターの通園を紹介されることもあります。週5日など、幼稚園の代わりに通って集団活動を行うという内容が多いです。頻度が高いので手厚いと感じるかもしれませんが、あくまで集団活動の機能は、その子の帰属する集団があるという、居場所作りの機能やそこでの日課に慣れることです。もちろん重要な支援の場ではあるのですが、個別の発達を細かく促すことは難しいです。それでも、自治体の通園クラスの枠はいつも一杯で、必ず入れるわけではありません。最近では、福祉制度に則った民間の療育施設を紹介されるケースもありますが、そのような施設の支援内容も、非常にばらつきが多いのが実情です。

 紹介できる支援メニューが充実していて情報提供をする側がその効果を実感していないと、相談の内容も頼りないものにならざるを得ません。早期発見は、早期支援につなげるために重要です。有効な支援につながらない早期発見は、ほとんど意味がないばかりか、保護者を無駄に不安にさせることさえあります。

有効な支援を地域に

 早期発見の取り組みを推進するのと同時に、早期支援の受け皿をもっと充実させ、早期発見に携わる人たちが支援の情報も実感を持って伝えられるようになれば、気付きの意味も変わってくるのではないでしょうか。早期発見と早期支援は、必ず両輪で進められるべき施策です。親子がどこに住んでいても、地域に有効な支援があり、早期発見からスムーズに有効な早期支援につながる社会になることが望まれます。

 そのための一つの試みとして、2020年4月に東京は江戸川区の区立の発達相談・支援センターにて、家庭と連携した個別療育プログラムの提供がスタートします。集団クラスの通園だけでなく、一人ひとりの発達状況を細かくアセスメントした上で必要な発達上の課題を構成し、保護者と丁寧に共有しながら個別に発達を促すプログラムも提供します。

 また、国立研究開発法人科学技術振興機構という国の研究機関の「研究開発成果実装支援プログラム」(通称RISTEX)の研究助成を得て、東京だけでなく、全国各地の機関とネットワークを作り、研究的成果に基づく個別支援のプログラムを地域で提供するプロジェクトが3年間に渡って実施されました。

エビデンスに基づいて保護者とともに取り組む発達障害児の早期療育モデルの実装

 筆者の所属する法人もプロジェクトに参加しており、本プロジェクトを通して、東京だけでなく千葉、神奈川、兵庫、香川、徳島、熊本など各地の事業者と連携して合計344家庭に個別支援を提供することができました。その報告会が、来る12月1日(日)に慶應義塾大学で開催されます。参加費は無料。

公開シンポジウム「実践に基づくエビデンスでつながる発達障害の早期支援エコシステムの構築」

 保護者の方や支援に携わる方だけでなく、本記事で取り上げたような早期「発見」の現場にいらっしゃる方たちにも、是非ご参加いただければと思います。

 早期発見から早期支援へ、大切な気付きが子どもの可能性を広げる支援に直結する社会へ。地域の支援機関や行政、関わる専門職の人たちが、育ちを見守る地域の人たちが、手を取り合って進んでいけることを心から願います。どこにいても、一人一人に合った早期支援が受けられる社会はいずれ実現すると思います。しかし、本当に全国に仕組みが整うまでには、まだ時間がかかりそうです。その間にも、支援の必要なお子さんは生まれてきます。保護者の方も、その周りでお子さんの育ちを見守る立場にある方も、障害があるかないかではなく、その子の困り感や育ちの環境とのミスマッチを感じたら、小さなきっかけでも思い切ってアクションを起こしてみていただきたいです。子どもの可能性を広げられる支援に一人でも多くの親子が出会い、楽しく充実した子育てができることを祈りつつ、一支援者として支援の充実と仕組みづくりにこれからも邁進したいと思います。

特定非営利活動法人ADDS共同代表/臨床心理士/公認心理師

慶應義塾大学文学部心理学専攻卒業、同大学大学院社会学研究科心理学専攻修士課程修了、横浜国立大学大学院学校教育臨床専攻臨床心理学コース修士課程修了。ある自閉症児とその家族との出会いをきっかけに学生セラピストの活動を始め、大学院にて臨床研究を重ねる傍ら、2009年ADDS設立。親子向け療育プログラムや支援者研修プログラム、事業者向けカリキュラム構成システムの開発などに携わる。国立研究開発法人科学技術振興機構社会技術研究開発事業(JST-RISTEX)「SDGsの達成に向けた共創的研究開発プログラム(SOLVE for SDGs)」プログラムアドバイザー。NHK「でこぼこポン!」番組委員。

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