父と兄に振り回されながら一家を支えるヒロインを演じて。アイドル時代を経て、今は女優の道を
社会にうまく適応できない兄の心平と、もう人生を半ばあきらめかけている父の一平、家族を捨てた母親に代わって二人の面倒をみざるをえないでここまできた妹のいちご。
2022年公開の「ダラダラ」で長編映画監督デビューを果たした山城達郎監督の新作映画「心平、」は、こんな名もなき三人家族の物語だ。
原発事故の傷跡がまだ生々しく残る2014年、福島。家や仕事を失い、原発事故の影響で多くの人々が去った地にとどまり、社会の片隅で懸命に生きる彼らの肖像と声にならない声が丹念に描かれる。
心平と一平、いちごの大村家の関係は決してうまくいっているとはいえない。
軽度の知的障がい者である心平はなかなか仕事先が見つからず、近隣をうろつく毎日。
原発事故により家業の農業ができなくなった父親の一平は、心平の将来には匙を投げ気味で、自身は生きる希望をほぼ見失い、酒に溺れ、連日酔いつぶれている。
このバラバラになりそうな父と息子をギリギリつなぎとめながら、支える妹のいちごは本作におけるキーパーソン。
父と兄は大切な存在ではある。でも、自分が二人にしばられて家から離れられないことはどうにももどかしい。
そんなジレンマを抱えながら、家族を見捨てない、自分の生き方も否定はしない。
複雑な心情の表現が求められるいちごを演じたのは、「ダラダラ」でヒロイン役を務めた芦原優愛。
気高さとしなやかさ、たくましさと健気さを備えたヒロインを等身大で演じ切り、深い印象を残す彼女に訊く。全七回／第七回
女優の道を目指したきっかけはテレビドラマ
前回（第六回はこちら）に続く今回は最終回。最後は少し作品から離れてプロフィール的な話を。
いつぐらいから女優を目指すようになったのだろうか？
「小学生のときにみたテレビドラマがきっかけです。
『探偵学園Q』なんですけど、神木隆之介さんや志田未来さんなど、出演者が自分と同い歳。
当時の時点で、みなさん大活躍されていてキラキラして見えた。
それで自分も『やってみたい』と思ったのが、この道に進むことになるきっかけでした。
そこからオーディションを受けて事務所に所属して、時間がとびますけど現在に至ります」
アイドルの時代には、アイドルでなければ
絶対にできないであろう経験もいっぱいすることができた
一時期、アイドルとして活動していたが、やはりメインとしては演じ手としてやっていきたい意識があったのだろうか？
「そうですね。
もちろんアイドルとして活動していたときはアイドルに全力投球していました。
アイドルでなければ絶対にできないであろう経験もいっぱいすることができて、そこはやってよかったなと思っています。
ただ、先を見据えたときにやはり自分はお芝居の方に進みたいと思って、24歳のときにアイドルを卒業することにしました」
フィールドを選ばずに、いろいろな作品でいろいろな役を演じたい
いま、今回の「心平、」のように映画やドラマ、CMなど映像作品から、演劇の舞台作品へも出演している。いつかいずれかに軸足を置きたい気持ちはあるのだろうか？
「いや、ないですね。
舞台でも、映画でも、ドラマでも、とにかくいろいろな作品に携わっていろいろな役を演じたいです。フィールドを選ばずに。
そういうと、『こだわりがない』とか『自分がない』と言われちゃうかもしれないんですけど、でも、自分としてはあらゆるところで演じられる演じ手になりたいんです。
だから、映画、テレビドラマ、舞台とあまり区分けして考えたくない。唯一、少しだけ意識の違いがあるとすれば、やはりテレビドラマに出たくてこの道に進んだので、テレビドラマに対しては思い入れが少し強いところがあるぐらいです（笑）」
ほかの仕事では、ここまでいろいろな体験をすることってあまりないと思う
演じる喜びをこう明かす。
「よく役者さんが言われることだと思いますけど、役を通して経験できないことがめちゃくちゃ経験できる。
いろいろな職業のことを知ることができますし、自分にはない感情を知ることもある。
疑似ではあるけれど、ほかの仕事では、ここまでいろいろな体験をすることってあまりないと思うんですよね。
いろいろな人間になれることが楽しくて、まだまだ続けていけたらと思っています」
30代に入ってきてなにか心境の変化は？
年齢としては30代に入ってきた、なにか心境の変化はあったりするのだろうか？
「いや、それがまったくないんですよ（笑）。
みなさんからもよく聞かれるんです。『20代と30代とではやはり違いますか』とか。
でも、これがまったく変わない。
自分としても『なんかあるのかな？』と思って、29歳から30歳になるあたり少し意識していたんですけど、いいか悪いかわからないですけど、特に変わったことはない。
ただ、子どもっぽいことは控えるよう心掛けるようになりました。
20代だったら若気の至りで許されるかもしれないけど、30代では許されないだろうということには気をつけるようにしています。
それなりに大人の対応ができるよう心掛けています。そこは30代に入って意識が変わった点かもしれません。それ以外はあまり変わっていないです。
とにかくこれからも今を大切に楽しみながら、いろいろな役にチャレンジしていけたらと思っています」
（※本編インタビュー終了）
「心平、」
監督：山城達郎
脚本：竹浪春花
プロデューサー：田尻裕司、坂本礼、いまおかしんじ
出演：奥野瑛太、芦原優愛、下元史朗、河屋秀俊、小林リュージュ、
川瀬陽太、影山祐子ほか
公式サイト：https://shinpei.jp/
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