Yahoo!ニュース

藤井聡太八冠世代の躍進とベテランが放つ光 ー第82期順位戦B級1組~C級2組中間展望ー

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 第82期順位戦は、各クラス残り3戦となっています。

 B級1組以下では、各クラスで藤井聡太八冠(21)と同世代の若手棋士が躍進しています。
 一方で、谷川浩司十七世名人(61)ら、好成績を収め存在感を示すベテラン棋士も健在です。

 ここから、B級1組からC級2組に焦点を当て、現状と今後の展望について解説していきます。

 A級については、下記リンク先より解説記事をYahoo!ニュースにてご覧いただけます。

藤井聡太名人への挑戦権争いは豊島将之九段が一歩リード-第82期順位戦A級中間展望-

B級1組 2番手争いが混戦

昇級は2名。4敗が6名いて混戦模様だ
昇級は2名。4敗が6名いて混戦模様だ

 藤井八冠と何度も名勝負を繰り広げている増田康宏七段(26)が、A級昇級まであと一歩に迫っています。
 抜け番があり、残り2戦の増田七段は1勝すれば昇級が決まります。期待の大器がA級入りを果たすでしょうか。

 2番手につけているのは千田翔太七段(29)です。10回戦では、兄弟子でもある糸谷哲郎八段(35)との上位対決を制して浮上してきました。
 その千田七段と次戦で直接対決を控えるのが羽生善治九段(53)です。羽生九段は糸谷八段との直接対決もあり、この2戦を連勝すると一気に昇級圏内へ浮上するかもしれません。

 3敗の千田七段は前期成績に基づく順位が低いため、4敗勢との差はわずかです。その4敗勢は6名もいますが、千田七段より順位が上の山崎隆之八段(42)までが昇級圏内と言えそうです。

 なお、木村一基九段(50)と横山泰明七段(43)の降級が決まっており、残留はあと1枠を争う展開です。

B級2組 ベテランの奮起

このクラスから昇級は3名。2敗勢までが昇級圏内か
このクラスから昇級は3名。2敗勢までが昇級圏内か

 ベテランの深浦康市九段(51)と中堅の年齢に差し掛かった大石直嗣七段(34)が1敗で並走しています。
 二人とも好調をキープしていますが、順位が低いうえに残り3戦に難敵が待ち構えているため、昇級に向けて険しい道のりが続きます。

 5勝2敗は5名います。特に目を引くのは谷川十七世名人の名前でしょう。現在、順位戦参加棋士で2番目に年長の谷川十七世名人は、昇級すると歴代最年長記録を更新します。谷川十七世名人は深浦九段と大石七段より順位が上なので、差はわずかです。
 2敗勢には、未来のA級入りを期待されている20代後半~30代前半の棋士が名前を連ねています。近年のB級2組は8勝2敗が昇級ラインなので、残り3戦を全勝すれば昇級に手が届く可能性が高いです。

C級1組 20代前半の若手が躍進

2敗勢は5名。1敗勢より順位が上なので、十分にチャンスがある
2敗勢は5名。1敗勢より順位が上なので、十分にチャンスがある

 1~3位に名前を連ねているのは、前期C級2組から昇級した3名です。これは非常に珍しい現象で、若手の勢いを感じさせられます。
 中でも全勝の服部慎一郎六段(24)は残り3戦で2勝すれば昇級が決まる有利な位置につけています。最終戦に2敗の出口若武六段(28)との対戦を残しているため、そこまでに決めてしまいたいでしょう。

 2敗勢の順位最上位に、藤井八冠とタイトル戦で対戦を重ねている伊藤匠七段(21)の名前があります。
 前期最終戦で昇級を逃した反動か、1・4回戦で昇級争いのライバルに敗戦を喫しましたが、そこから星を重ねて4番手まで浮上してきました。

 4位までのメンバーは全員20代前半と、非常に若いです。実力+若さの勢いを持った4名は、高いレベルでの昇級争いを繰り広げると予想します。

C級2組 藤井八冠の同世代が躍進

1敗は5名。順位上位の2敗勢も多くいる
1敗は5名。順位上位の2敗勢も多くいる

 高田明浩四段(21)、藤本渚四段(18)という藤井八冠の同世代棋士が1敗で上位につけています。二人とも順位戦以外でも好調で、特に藤本四段は年度最高勝率の更新にも期待がかかっています。
 最年少棋士でもある藤本四段の次戦は、最年長棋士の青野照市九段(70)です。青野九段はこの一戦に敗れると降級が決まります。そして、60歳以上の棋士はC級2組から降級すると引退となります。昇級と引退をかけた52歳差対決には注目が集まるでしょう。

 佐藤慎一五段(41)は降級点を2つ持ち、毎期のように降級のピンチにさらされていました(3つ目の降級点がつくと降級となる)。しかし、今期は別人のような勝ちっぷりを見せています。筆者は初戦で佐藤五段と対戦して逆転負けを喫し、波に乗せたようです。残り3戦で若手実力者との対戦が続きますが、崖っぷちからの昇級はあるでしょうか。

 2023年に2つのタイトル戦に登場した佐々木大地七段(28)は、ここまで5勝2敗です。2敗勢の中では順位が一番上ですが、1敗勢が5名いるため昇級に向けてかなり厳しい状況に立たされています。佐々木七段でも簡単に昇級できないことが、このクラス、そして順位戦全体の競争の厳しさを物語っています。

 順位戦では、プレッシャーのかかる残り3戦で星を伸ばした者が昇級をつかむと言われています。どのクラスも競り合いが続いており、負けると脱落のサバイバルレースです。
 本日(9日)のC級1組一斉対局を皮切りに、順位戦が再開されます。今後もYahoo!ニュースで順位戦の動向をお伝えしていきます。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

遠山雄亮の最近の記事