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逃げても戦ってもどちらでもいい。スズ子と愛子、それぞれの勝負の局面で示された考え方「ブギウギ」

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
食卓で語らうスズ子(趣里)たち 写真提供:NHK

「逃げたらそのことは一生忘れられない」なのか、それとも「逃げるが勝ち」なのか

世代交代がテーマになった、朝ドラこと連続テレビ小説「ブギウギ」(NHK)の第25週「ズキズキするわ」。スズ子(趣里)は大和礼子(蒼井優)の忘れ形見・水城アユミ(吉柳咲良)の出現に揺れる。

後輩のある種の宣戦布告に、負けるかもしれないと怯むスズ子。一方、娘の愛子(このか)も、自信のあった徒競走で、転校生の出現によって一等の座が危うくなって……。

このとき、スズ子は愛子に「逃げたらそのことは一生忘れられない」と語りかける。

だが、「逃げて逃げてここまで来た」と「逃げるが勝ち」というタケシ(三浦獠太)のような考え方もある。

これ!とひとつの方向性に決めず、どちらでもいいというのは令和のドラマ作りの配慮なのだろうか。制作統括の福岡利武チーフプロデューサーに聞いた。

『歯を食いしばって勝ってこい』と鼓舞する時代に対して

「今の世の中でもまだ『歯を食いしばって勝ってこい』という人はいっぱいいるでしょうけれど、僕は逃げてもいいと思うんですよね。『ブギウギ』の時代はそれこそ『歯を食いしばって勝ってこい』と鼓舞する時代です。足立紳さんは、愛子に『努力してぶつかって勝ってこい』というようなことをスズ子に言わせたくないと仰っていて。それを聞いて僕はすごくいいなと思ったんですよ。逃げてもいいし勝負してもいい。とりわけ、スズ子の『逃げてもいいし立ち向かってもいい。どっちにしろ人生は大変な道のりや』というセリフが僕はすごくいいなと思っていまして。僕自身もここまで生きてきた経験からも、若い人たちに『歯を食いしばって』とは言えないです。逃げても良いし頑張ってもいい。自分の感じたことでいいんじゃないかと思います。その点はすごく足立さんに共感したところで、このドラマではそういう提示をしてみました」

母は歌、娘は徒競走、それぞれの戦いがある 写真提供:NHK
母は歌、娘は徒競走、それぞれの戦いがある 写真提供:NHK

逃げても挑んでいい。どっちでも良くて、どっちも大事。ということで、第120回では沼袋(中村倫也)が『この業界には悪いやつが必要なんだ』とも言っている。

悪さの度合いもあるだろうが、沼袋程度の悪さは必要悪。挑戦も逃げも勝ちも負けも善も悪も、どんなことでもどちらか一方に偏らない、「ブギウギ」ではそんな描き方をしながら、スズ子はアユミと歌合戦することを楽しもうと考えるに至る。さて、第121回(3月22日放送)はどんな歌合戦になるだろう。

連続テレビ小説「ブギウギ」
総合【毎週月曜~土曜】午前8時~8時15分 *土曜は一週間の振り返り
NHKBS【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
NHKBSプレミアム4K【毎週月曜~金曜】午前7時30分~7時45分
【作】足立紳 櫻井剛 <オリジナル作品>
【音楽】服部隆之
【主題歌】「ハッピー☆ブギ」中納良恵 さかいゆう 趣里
【語り】高瀬耕造(NHK大阪放送局アナウンサー)
【出演】趣里 水上恒司 / 草彅剛  菊地凛子 小雪 生瀬勝久 水川あさみ 柳葉敏郎 ほか
【概要】大阪の下町の小さな銭湯の看板娘・福来スズ子(趣里)は歌や踊りが大好きで、道頓堀に新しくできた歌劇団に入団し活躍後、上京。そこで、人気作曲家・羽鳥善一(草彅剛)と出会い、歌手の道を歩みだす。“ブギの女王”と呼ばれた人気歌手・笠置シヅ子をモデルにした、大スター歌手への階段を駆け上がる物語。

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

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