日本のテレビが圧倒的に足りないもの~カンヌレポート1
仏カンヌで開催された国際テレビ見本市MIPCOM(ミプコム)に今年はソニー平井一夫社長や映画監督の庵野秀明氏など特別ゲストが来場し、話題は多かった。一方で、日本がフォーカスされたことで日本のテレビが今足りないものもみえてきた。
24のキーファーサザーランド、グレイズアナトミーの製作総指揮が来場
南仏のリゾート地、カンヌでMIPCOMと呼ばれるテレビ業界内ではよく知られている歴史のある番組見本市が10月15日(土)から20日(木)まで開催された。いわゆるBtoBの番組世界トレードが毎年4月と10月にここで行われる。
世界108か国から、新たな番組や企画を売り込むセラーや、番組を買うテレビ局や動画配信系のバイヤーが参加する数、1万4000人。併設されたキッズ専門イベントMIPJuniorと合わせると今年は過去最高の参加者数になった。見本市会場には2000社が出展し、ディズニーやソニーピクチャーズなど大手コンテンツ企業の巨大テントブースから、チリ、ニュージーランド、モロッコ、フィリピンなど新たなナショナルパビリオン登場にも注目が集まり、勢いのある中国のブースは賑わいをみせた。
土地柄、欧米のビジネススタイルが主流となって、人脈作りに欠かせないパーティーが会場内をはじめカンヌの街中で明け方まで行われるのだが、早朝からもミーティングがあちこちで開かれる。地中海を眺めながらワイン片手に優雅に取引が行われているイメージもあるようだが、決して安くはない入場料や出張費を取り戻そうと、したたかに働くスーツ姿の参加者の方が圧倒的に多い。
もちろん、華やかなPRの場面もある。今回はドラマ『24』のキーファー・サザーランドが新作ドラマ『Designated Survivor』、カイル・マクラクランが復活版『ツインピークス』のプロモーションのために来場し、レッドカーペットを歩いた。
また業界イベントらしく制作者にも光が当たる。恒例の「パーソナリティ・オブ・ザ・イヤー」に選ばれたTVドラマ『グレイズ・アナトミー』の原案、脚本、製作総指揮のションダ・ライムズ氏の講演時は参加者総立ちで彼女を拍手で迎え称えた。
2020年の東京五輪に向けて世界に日本をPR、安倍首相がビデオメッセージ
そんななか、今年は見本市のトップスポンサー扱いとなる「カントリー・オブ・オーナー」を日本が務めることになり、日本のドラマ、アニメ、バラエティー、ドキュメンタリーをフォーカスしたイベントが組まれた。
「カントリー・オブ・オーナー」はこれまでロシア、カナダ、アルゼンチン、メキシコ、トルコが担当しており、今回日本がこれを務めた背景にはいわゆるクールジャパン政策により日本の番組の海外展開が後押しされている流れも大きい。業界見本市初日のプレスカンファレンスには安倍総理大臣がビデオメッセージで登場し、「2020年の東京五輪に向けて世界に日本のコンテンツをPRするチャンス」と強調。全体のテーマに「SPIRIT OF IMAGINATION JAPAN(スピリット・オブ・イマジネーション ジャパン)」を掲げ、メイン会場の外看板や参加者全員に配布されるバックにもそのロゴをプリントし、日本がPRされた。
ソニー平井一夫社長がキーノートのオープニングを飾り、映画監督の庵野秀明氏はドワンゴ×スタジオカラー×NHK×NEP共同制作アニメ『龍の歯医者』、若手俳優の林遣都さんはNHK大河ファンタジー『精霊の守り人』のPRのために来場、先のハリウッド俳優陣と同じレッドカーペットを歩き、話題を提供した。
フジ大多亮氏、日本のドラマの作り方はまだ成熟していない
番組PRのために女優や俳優、著名人が来場し、プレゼンテーションを行うのは、世界中から膨大な数の新作が並ぶなかで、アピールするため。良いコンテンツであっても知ってもらわなければ何も始まらないからだ。それを欧米はじめ中東やアジア各国では当たり前のように行っているなかで、日本は正直なところ出遅れていた。
そういう意味では今回、日本が足りなかった場面を作ることはできた。またこれまでにない規模の業界関係者500人が日本から出席したこともじわじわと影響を与える。日本にいるとなかなか世界の動きを肌で感じることは難しいが、会場ではそれを把握しやすい。
例えば、ここのところ、放送時間が限定される既存の放送局にはなかった「キャリッジディール」と呼ばれる取引が目立っている。勢いのあるNetflixやAmazonなど動画配信プラットフォームが「イッキ見視聴できるコンテンツの数をとにかく揃えたい」と、100時間近くもの番組を一挙に大量買いする動きである。これは新たなビジネスチャンスを匂わせる。
またあるセッションでは、Amazonスタジオと並んだフランスの放送局CANAL+の担当者が「リニア放送(番組表通りに放送すること)するオールドファッションのテレビ局です」と自虐的に自局を紹介していた。力関係が逆転しつつある様子を物語る。
実際に初参加の日本人の経営陣から「ブースを出展する以上のことが見えにくかったが、世界では今、どんなビジネスが注目されているのかなど足を運ばないとわからないことも多い」などという声が聞かれた。
『東京ラブストーリー』などかつて数々のヒットドラマを手掛けた、フジテレビ大多亮常務取締役も初来場していたので感想を伺うと、その言葉から日本のテレビが今、足りないものが追求されていた。
「海外の現場を見れば良いコンテンツが作れるという、そう単純なものではないけれど、ここは日本のドラマの作り方はまだ成熟していないと思わせるような場所だ。1話60分、週一放送のパターンだけしかやってこなかった民放局にとって、こういうマーケットの場を体験することは刺激を受ける。以前は豪速球を投げれば、三振がとれて、お客さんが沸いたが今はそうではない。バッターもピッチャーもやり方が変わっている。自分以外の野球場も知らないといけない。発想を転換すると新しい野球場にもチャンスはあるわけで、そこでホームランを打てたらかっこいいはずだ。」
過去の栄光に囚われがちな日本のテレビ。気づきのその先にある旨みにいつ辿り着くのか。会場でインタビューした言葉からまた探っていきたい。続く。