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石破茂×古谷経衡 ロング対談「“日本国のために自民党は何をすべきか”を語れ」(前)

古谷経衡作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長
石破茂議員と筆者(衆議院議員会館にて)

1.この対談は、TOKYO FM『TIME LINE』で取材・放送したものに加筆・編集を加えたものです。

2.上記の放送内容の抜粋は、2018年7月10日にTOKYO FM『TIME LINE』にて放送したものをまとめていますのでこちらをご覧下さい。

3.禁無断転載、括弧内*印は筆者の注です

4.今回の対談の細目(前編)/変質した自民党/「軍事オタクの左翼」と言われている/黄昏の帝国をどう再興するか/「さらば宇宙戦艦ヤマト」を100回観る。クールジャパンと日本の宿痾/「どうせこれを言ったって分かんないよ」では世の中は変わらない

5.対談の後編はこちらをご覧下さい。

・変質した自民党

古谷:忌憚(きたん)ないご意見を頂戴したいと思いまして、いろいろご質問させていただきます。今の自民党を見ていますと、非常に異質になってきたなと思うところがあります。

 それは、例えば基本的人権ですとか、そういった天賦人権をあたかも無いものにしている、あるいは軽視しているような自民党の議員の方が、もともと自民党ではない方ですが、ちょっと非常に目立つなと。そういう方がマスメディアの耳目を浴びて、国際的にも非難を浴びたりしている。その方が自民党籍として、参議院とか衆議院で一応、党員になってらっしゃると。この現状は、ちと由々しき事態ではないかと思うんですが、この点はいかがでしょうか。

石破:野党をわれわれは3年3カ月(*2009年~2012年)やったんです。あのときは本当に、自民党って何なんだ、というものを徹底的に見つめ直した期間だったと思っています。あのときに憲法改正草案というものをつくったんです。憲法の前文。イントロダクション。

 あそこに国民主権と平和主義、いいか悪いかは別として書いてあるんだけれども、日本国憲法三大原理の基本的人権とは書いてなかった。やっぱりそれはちゃんと入れようよ。政府がちゃんと国民に説明をするというのは、きちんと国民の権利、義務の章に書こうよとか、そういう議論を徹底的にやったんだけれども、野党を経験してない議員さんが半分以上になっちゃった。

古谷:現在はそうなっているんですね。

石破:あのときに、本当に中心的役割を果たした谷垣総裁は引退されちゃったし、大島幹事長は議長という高い立場に立ったし、私は思うところがあって、党内野党みたいなことをやっているんだけれども、やっぱりそういう下野時代の原体験を持たない人が増えちゃったなという感じがしますよね。

古谷:そうですね。自民党というと大衆政党であるということで、人権とか、本当に基本的な国民の権利とか、あるいは基本的な歴史感ですね、そういうものを唾棄をする、そして、あるいはその中の一部がネット世論に迎合していくような人たちがいる。確かにおっしゃったように、野党経験のない、新しく例えば旧次世代の党とかを経由して入ってきたような方が多いとは思いますけれども、そういう方というのは、やっぱり野党の下積み時代がなかった原因ですか。

石破:なかったし、自民党に追い風100メートルみたいな状況で当選してきているから、何が本当で、何がそうじゃないのかなという、頭の中で考える作業を行うことなく、自民党って素晴らしいんだという、そういう中で育ってきた人が多いんじゃないだろうか。基本的人権なぞという思想は間違いだ、とか。

古谷:そうですね。言っていますね。

石破:ルソーの考え方は間違っているとか。

古谷:確かにいますね。

石破:それもいいんです。思想としなくていいんだけれども、あるいは、太平洋戦争というものはアジアを解放する聖戦だったのだとか。

古谷:いわゆる遊就館思想ですね。

石破:だからそれも一面だ。だけど、物事には何でも光と影があって、歴史をきちんと先入観なしに、自分と反対の意見でも、きちんと勉強しようねという、そういうような行動がすごく失せちゃったような気がしますよね。

・「軍事オタクの左翼」と言われている

古谷:それは、例えば石破さんのような、すごい当選回数の多い議員の方が教導するような形にはならないんでしょうか。

石破:そうすると、後ろから鉄砲を撃つんじゃない、この馬鹿もん!みたいな話になるわけですよね。いいや、いいやと。

 批判がなければ進歩がないのだ。なにも全否定しているわけじゃない。こっちのほうが、もっと良くなるんじゃないか、こんな考え方もあるんじゃないか、なぜならば―という理屈を展開すると、理屈をすっ飛ばして後ろから鉄砲を撃つな、この馬鹿者という話になって、一種の言論封鎖みたいな感じが行われている。でも、それでも選挙に勝ち続ける。何が悪いんだと、こういう論理でしょうな。

古谷:なるほど。例えばですけれども、現下の安倍政権でも村山―河野談話見直しの機運はありましたけれども、結局、戦後70周年談話でそれを踏襲したということは、やはりあの戦争は、「誤った国策」であって、アジアにしろ、ある程度の被害を与えて、これは申し訳ないというのが基本的には党の立場だと思うんです。

 けれども、その歴史感とあまりにも違う方が、閣僚になられたりしている。例えば(*元防衛大臣の)稲田朋美さんとか、そういう方は、何となく自民党としてはどうなのかなと、私なんかは思っちゃうんですけれども。

石破:私も29歳で国会議員になりました。自分でなろうと思ったわけじゃなくて、いわゆる2代目ですよね。親が死んで、田中角栄さんから「なれ」と言われて。有権者のおかげで何とかなることができた。そのときの考え方って、かなり偏っていたものだったかもしれない。

 やっぱり太平洋戦争に対する肯定感って強かったし、東京裁判史観というものは間違いであるとか、集団的自衛権だって? そんな剣呑なものは・・・という。だけどずっとやっているうちに、自分の考え方って随分、変わってきた。

 やっぱり自分と違う立場の人のものをちゃんと読むことによって、自分の考え方って、ここを変えなきゃいけないんだ。集団的自衛権というものを正面から認めないと、国連の一員であること自体、それはおかしなことなのだ。そしてぴったりするもんじゃないけれども、そうでない限り、国連の本質である集団安全保障って参加できないんだということになるでしょ? それで国連中心主義でございますって、なんか変じゃない?ユナイテッドネーションズは戦勝国連合なんですから。

古谷:おっしゃるとおりです。

石破:インターナショナルガバメントでも何でもないわけよね。だから中華人民共和国では、そのものずばり連合国と訳している。

古谷:そうですよね。本当に「聯合国」と書いてありますよね。

石破:聯合国と書いてありますでしょ? いろいろ中国のこと悪く言う人もいます。だけど中国は国連の何たるかというものを、よく理解した上で外交をやっているわけですよね。そうすると、自分の考え方って、こう直さなきゃいけないという作業を決して怠ってはいけないんだと、日に日に、そう思っていますけれどもね。

古谷:なるほど。さっき、後ろから鉄砲を撃つな、という話もありましたけれども、例えば石破さんが憲法9条の2項について、安倍さんよりも、より深く踏み込んだ考え―つまり憲法9条2項そのものの修正等―、を一時出されたと思うんです。

 そうすると僕は、石破さんというのはすごく強い改憲論者だなと。集団的自衛権のご本(*『日本人のための「集団的自衛権」入門』新潮社)の中で、座席と切符の例え(*”集団的自衛権”という指定席切符は持っているのに、実際は座ることが出来ない)が非常に分かりやすかったんです。

 が、安倍さんとちょっと距離があるというだけで、安倍さんよりもより9条改憲が強いタカ派にもかかわらず、こいつはとんでもないと言うような人が実際にいるんですよね。

石破:いるでしょう。

古谷:なぜ、こんな自民党というか、こんな世論になってしまったんでしょう。自分で「保守です」などと言っていて、あるいは「右派です」と言っているんだけれども、石破さんは「左翼である」、言うに事欠いて「パヨクだ」と言う人もいるんですけれども、どうしてなんだろうという疑問です。これは自民党に限らず世論の変質なのかもしれないんですけれども、これはどう思っていますか。

石破:座標軸が動いたんでしょう。右にいると真ん中も左に見えるし、左にいると真ん中も右に見える。ですから、私が今から16年前、小泉内閣で防衛庁長官になったときに、「あの右翼が、あのタカ派が、あの軍事オタクが、自衛隊をおもちゃにして」と散々、言われたものです。

古谷:そうですか。

石破:それはすごかったです。いま私って、「軍事オタクの左翼」なんですって。

古谷:というふうに、言われていますよね。

石破:だから座標軸が大きく動いたんです。私の言っていることって、20年前も10年前も今も、何にも変わってない。

古谷:そうですよね。

石破:評価が変わるって、そういうことでしょ。

古谷:しかし、その座標軸の動き方というものは、あまりにも急で、あまりにもちょっとおかしな方向だなというふうには思うんですけれども、その座標軸がガーッと動いていった直接的な理由、いろいろあると思うんです。これはなぜだと思いますか。

石破:それは、いろんな理由はあるんですけれども、一つは、あの民主党政権の、あのひどさというものに、みんなもう辟易してトラウマみたいになっていて、とにかくあれに比べりゃマシだよねという考え方。そして、今でもアンダークラスといわれるバブル崩壊後の、あの就職氷河期。その頃、非正規で、今も非正規の人が・・・。

古谷:いますね。

石破:40代、50代で、そのままいますよね。

古谷:そうですね。僕の、10個上ぐらいです。

石破:でしょ? それを超えて団塊の世代がドーンとリタイアしたから、就職に困んないじゃないですか。

古谷:確かに。

石破:その上の世代を見ていると、就職できたもんね、政治は素晴らしいもんねという、そういう肯定感があるんだと思うのね。あとは、GDPトータルでは中国に抜かれるわ、一人当たりのGDPだと。

古谷:20何位ですよね。

石破:もう20何位まで落ちたわということになると、なんかで自分を納得させなきゃいけないというところがあるでしょ。今の日本は素晴らしいんだ、世界が分かんないだけなんだというような、そういう自己肯定的な考え方もあると思うし、何しろ活字を読まなくなったよね。

古谷:おっしゃるとおりです。

石破:活字を読まないで、自分に都合のいいというか、耳に心地良いというか、そういう情報がずーっと入るようになってきた。私は、インターネットとかは全然、否定しません。逆の使い方もあるから。あるいは、全く違う考え方もダーッと出てくるから。だけど都合のいい情報だけ取ろうと思うと簡単なわけで、それで自分を納得させているという。そういういろんなものが相乗的に作用しているんじゃないかしら。

・黄昏の帝国をどう再興するか

古谷:なるほど。10年前ぐらいまでは、そういう傾向はネットの中にだけに限局されていたような気がするんです。それがここ5年、6年、7年ぐらいで、大メディアも、そのネットではやっているものをニュースに取り上げてきた。

 だからマイノリティーの意見かもしれないけれども、それがあたかもマスに乗ってしまったので、ちょっと空気が変わったなという気もするんですけれども、どうでしょうか。そうすると、自己肯定感とか日本礼賛とかという本とかが多いですけれども、そうなってくると、果ては無残な下り坂の中でひたすら陶酔感だけに酔いしれる、国家の典型的な衰退の形になっていくのではないかと、私は非常に慄然と肌に粟を感じるんですけれども、どうでしょうか。

石破:だから、それを止めるために政治ってあるんでしょうよ。

古谷:そうですよね。

石破:こういう現象は今日、ただ今、始まったかというと、実はそうでもなくて、太平洋戦争に突入する頃、米内内閣だったかな。あのときに斎藤隆夫(*1870年~1949年)という代議士がいて、有名な反軍演説というものを1時間半にわたって衆議院でやるわけです。

 別に軍部をおとしめたわけでも何でもない。今の精神論でやっていて本当にいいのかと。きちんと現実を見ろ、数字を見ろ。それを精神論で糊塗(こと)して、どんどん進んでいくのは誤りだという、1時間半にわたる大演説で、衆議院本会議場は拍手の渦に包まれたんですって。

 でもその後、斎藤はどうなったか。軍を侮辱するとは許せないということで、彼は結局、除名になるわけですよね。衆議院議員で反対した者は7人しかいなかった。メディアもそれに乗った。そして結果として、あの太平洋戦争に突っ込んでいったわけですよね。ですから、そういう言論空間って、結局、国を誤ることになるんじゃないのというのが多いです。別に、今に始まったことじゃないと思います。

古谷:なるほど。例えば僕も海外に行くと、まったく日本のデフレ停滞というものがすさまじくて、どんどん諸外国は最低でも2%~3%くらいずつ成長していきますから、本当に日本は貧乏になったなというふうに思うんですけれども。とはいえ、日本に帰ってくると、日本は素晴らしいというふうな風潮が、まだ残っているばかりか、ますます隆盛している。自慢できるのはゴミ拾いとか、ありもしない道徳や伝統墨守とか、そんな些細なことばかりで、明らかに衰退国家です。

 これは、でも一人の力では当然、止められませんですし、いったいどうしたらいいんでしょうか。端的に、僕は移民受け入れしかないんじゃないかなという気もするんですけれども、石破さんのお考えはどうでしょうか。

石破:日本の伝統的な価値観って、いい物をより安くという、これが日本の文化だった。人口が増えているときって、いい物を安く作れば、みんな同じものが欲しいんだし、どんどん売れるし、経済は成長するし、だけどこれから先の人口の減り方って、ただごとじゃない。今後80年で半分になるんだから。

古谷:とんでもないですね。

石破:いい物をより安くと言っている限り、決して経済は良くならない。いいものをより良く、ふさわしい価値で、というふうに変えていかなきゃいけないし、今、雇用のシフトが起こっているんで、男性から女性の非正規、製造業からサービス業、生産年齢人口層から高齢層、それがみんな所得が低いじゃないですか。そこをどうやって上げていくんだということなんですよね。労働者が少なくなってもAIがあるじゃん、と言う人がいるけれども。

古谷:よくいます。

石破:AIは税金を払わないし、AIは消費しないし。

古谷:全くそのとおりです。

石破:それは、限界はあるわけですよね。労働者が減っていくわけだから、だとしたら、付加価値を上げるしかないでしょ。労働者を少しでも減りを止めるためには、だってスポーツの世界とか芸能の世界って、外国の人で持っているとは言わないけれども。

古谷:そうですよね。

石破:それが支えている部分があるじゃないですか。

古谷:厳密的には、その通りです。

石破:実力の世界って、そうじゃないですか。外国人が移民で入ってくると、やれ治安が悪くなるだの、日本の伝統が破壊されるだのと言うけれども。

古谷:言いますけれどもね。

石破:だったら日本の、この小難しい日本語。日本の責任で、きちんと習得してもらったらいいじゃないですか。ミャンマー語で日本語を教える、ベトナム語で日本語を教える、そんなことを努力してきましたか。

古谷:僕の知る限りしてないですね。

石破:日本の、この社会の仕組みと理解してもらうために努力してきましたか。それをやらないで外国人を迎え入れて、「やれ犯罪が起こる、けしからん」。それって日本の責任じゃないですか。そういう狭量さから脱していかないと駄目だと私は思います。

古谷:現実的に、外国人の多い所で有意に犯罪発生率が高いかというと、現状、そうでもないですし。

石破:そんなことない。

古谷:アジアの中で、多民族国家で平和な国ってたくさんあるわけで。西欧キリスト教国家だけを見て言っているような気も僕はするんですけれども、日本型の移民政策というものは、あってしかるべきかなと思うんですけれども。

石破:当然です。

・「さらば宇宙戦艦ヤマト」を100回観る。クールジャパンと日本の宿痾

古谷:僕のちょっと興味から質問をさせていただきたいんですけれども、石破さんは『宇宙戦艦ヤマト』とかお好きでいらっしゃって、僕も大好きなんですけれども、目下のクールジャパン戦略についてお伺いしたのです。

 僕は、稲田さんがクールジャパン戦略の担当になって、全部、議事録とかも読ませていただいたんです。もともと僕はクールジャパン戦略というものが、日本のアニメ、漫画を基底とした、いわゆるジャパニメーションという、ご存じのとおり、大友克洋さんとか押井守さんとかが世界で評価されて、それにいろいろジョセフ・ナイとかの理論をくっつけて、民主党政権時代から来たのが今の流れだと思うんです。

 しかしどうも今の総理も、それから担当の方も、経済産業省の方も、そのアニメとか漫画を知らないで、それはもう、ぶっちゃけ麻生太郎さんもそうなんですけれども、どうも日本酒とか日本食とか、彼らでも分かるようなところでしかやっていないような気がする。

 実際、海外のクールジャパン戦略の現場に行っても、あれ?日本のジブリが無い、『宇宙戦艦ヤマト』、松本零士先生もいない、ガンダムも無い、士郎正宗もいない。つげ義春もいなければ、辰巳ヨシヒロも当然いなければ、唯一手塚先生だけアリバイのようにちょっとだけ置いてある。なんじゃこれはと。

 今のクールジャパン戦略というものが、本当の意味での日本の、いわゆるオタク層の、オタクというか、ポップカルチャーの輸出に資しているとは全く思えないんですけれども、いかがですか。

石破:感性に訴えるものでないと受けないです。日本が素晴らしいと思うものを世界が素晴らしいと思うかという、そうじゃないんで。何が本当に世界のニーズに合うかとやって、この日本の良さが分かんないのかという、高飛車に言うと、それが広がるはずはないんですよね。どうやったらば世界に受けるか。私、『宇宙戦艦ヤマト』の大ファンなんです。2作目の『さらば宇宙戦艦ヤマト~愛の戦士たち』(*1978年公開)って。

古谷:劇場版ですね。

石破:不朽の名作だと思っていて。

古谷:そうです。

石破:私、100回以上、見たんです。

古谷:すごいですね!

石破:いつも同じところで泣くんです。でも、これって外国に分かるだろうかというと、多分、分かんない。

古谷:『宇宙戦艦ヤマト』、残念ながら海外ではそんなに人気はないですね。

石破:あれは、まさしく最後は古代進と森雪が、あの白色彗星に突っ込んで終わるわけ。あれって、かつての戦艦大和そのものですよ。

古谷:まさに西崎義展さん(*1934年~2010年。宇宙戦艦ヤマトのプロデューサーなど)の。

石破:まさしく西崎ワールドです。

古谷:そうです。

石破:それは日本人には分かるけれども、世界には、まず理解されないんだと思うんです。日本の文化って感性だけじゃなくて、例えば能とか、あれって、かなり知識がないと分かんない。私は不勉強で分かんない。

古谷:僕も分かんないです。

石破:この素晴らしいものが分からんのかと言っても、それは供給者目線であって、消費者目線ではないんですよね。多くを財政投融資でやっていると、まあいいかみたいなところがないわけじゃない。私は、むしろ『源氏物語』なんていうものは世界最古の小説だと思う。

古谷:確かに。

石破:あれを読むと、すげえなみたいな。もちろん原典で読むとさっぱり分かんないので、いろんな訳で読まないと分かんないんだけれども、ああいう文化って、もっとやり方があるんじゃないのか。お酒とか食べ物とか、そういう感性に訴えるものは伸びていくわけですよね。だけど、もっとそれがいろんな芸術とか芸能とかという話になると、どうやったら受けるかということだと思うし。

 私、イギリス人と話していて、「石破さん、日本の歴史、伝統、芸能、文化、それってイギリスのほうが上なんだよ。でも、イギリスって寒い国だから、輝く太陽、白い砂、青い海、・・・ここでぼやっとしているのが最高のぜいたくなんだ」と言われた。

古谷:英国人の持つ典型的な憧れの光景っていっぱいありますよね。

石破:多分、ドイツとかフランスもそうだと思うのね。だから「なんでそれ(*英国人の憧れ)を売らないの」と言われたんですよね。だから消費者目線で見ないというところは、やっぱり日本の宿痾(しゅくあ)みたいなところがあって。

古谷:サザンオールスターズとかTUBEとかを売ったほうがいいのかもしれないですね。

石破:サザンって面白いじゃないですか。ノリがいいじゃないですか。

古谷:そうですよね。日本の音楽は海外で、一部を覗き振るわない。世界市場における日本コンテンツの寡占率を見ていくと、音楽ってすごく少なくて、辛うじて良いのはゲームと、せいぜい漫画。あとは、ドラマなんていうものは全然ないに等しいですし、映画もほとんどない、といういびつな状況になっていますよね。

石破:そうですね。ドラマだったら韓国のほうが、よっぽどよいですよ。

古谷:全くです。テレビコンテンツは、もうほとんど世界シェアのゼロコンマ何%というところで、ゲームがまあまあというところ。

石破:まあまあですね。

古谷:漫画もまあまあというところですね。だから非常に、いびつですよね。

石破:そこはやっぱり韓国は韓国で、消費者目線というものに徹しているところがありますよね。日本は、この良さが分からんのは駄目だ、みたいな。それって精神論としてはいいのかもしれないけれども、この国の経済はどうするの。かっこいい日本というものは、日本がかっこいいと思っても、世界がかっこいいと思うかどうかは別なんでね。そこは、工夫の余地はものすごくあると思います。

古谷:『AKIRA』(*1988年―大友克洋監督)とか『攻殻機動隊』(*1995年―押井守監督)が出てきたときに、そのときはクールジャパンなんていう言葉もなかったときに、世界中で受けてジャパニメーションという言葉になり、現在、ハリウッドでリメークされているわけですから。

 この文化を売りに出すという、その戦略自体、根本からどうなのかなとは思ったりもするんですけれども。良い作品は勝手に評価されて海外の玄人に売れていくので。そこはどうですか。やっぱり文化輸出に補助はしないといけないでしょうか。

石破:そこはやっぱりビジネスだからね。補助はもちろんあってしかるべきだが、それが商売というものを頭から外しちゃって、この予算を使うこと自体が自己目的になっちゃうと、伸びるはずがないと思うんです。

古谷:そうですよね。

石破:例えば映画でも、私、小津安二郎の映画って、すごく好きなんです。

古谷:そうなんですか。

石破:『東京物語』(*1953年)とかね。

古谷:特になにか大きなドラマがあるわけじゃないのに、すごくいい作品ですよね。

石破:すごくいいじゃないですか。

古谷:素晴らしいです。

石破:あれは日本的なんだけれども、常に世界の名作のベストテンかなんかに入っている。

古谷:逆に、小津先生は最近こそ国内で再評価され出しましたが、むしろ海外のほうが有名だったかもしれないですね。

石破:そうだと思います。小津先生の作品が、どうして世界で評価され、日本のテレビドラマが評価されないのかという、そういう一歩、立ち止まってみて、何がいけないんだという反省をする、改善をする、そういう謙虚さって、私、絶対に必要だと思います。

・「どうせこれを言ったって分かんないよ」では世の中は変わらない

古谷:石破さんは、いろいろな方と、例えば僕の世代とも対談とかをされたり、タウンミーティングとかもされたりするとは思うんですけれども。僕は今、35歳なんですが、ちょうどそうですね、平成の前、昭和末期に生まれていますが、実体験としては平成ぐらいしか知らないような世代ですけれども、この世代に、果たして日本を担う、何か一抹の希望というものが見いだされたことはございますか。

石破:それは見いださなきゃ悲しいじゃないですか。

古谷:そうですね(笑)。

石破:そういう人たちと話す機会って、私は好きで、そういうものがあると喜んで行くことにしているんですよね。話すと、分かってくれる人が3割か4割、多い所は5割、いるわけです。

古谷:すごい。

石破:どうせ今の若い人たちは―、とか言って決めてかかっている。自分たちの価値観というものを、そのまま維持をして、若い人たちはけしからん、とね。だけど、世界最古の落書きって、「最近の若いやつは・・・」という話だというぐらいで。

古谷:そうですよね。

石破:昔から、そうなんですよね。

古谷:僕も、基本的には世代が変わっても人間本質は変わんないような気がします。

石破:変わんないと思う。ただ、われわれの側が語り掛けることを放棄しちゃったら、このままいっちゃうわけですよね。

 私は、国民を信じない政治家が、国民に信用してもらおうなんて思っちゃ駄目だと思うんです。どうせこれを言ったって分かんないよ。これを言ったら票が減るからなというので、本質を覆い隠して丸めてものを言うと、確かに、あっちからもこっちからも支持は得られるかもしれない。丸めちゃっているから、すごく批判を受けにくいところがあって、だけど本質は語っていない。それじゃあ政治家は良くても世の中は変わんないわけです。

 本当は、こうなんじゃない?憲法って、こうなんじゃない? 戦争のルールを定めたのが交戦権で、これを認めないって怖くないですか?戦争のルールを認めないと言っているんだよ。

古谷:恐ろしいことです。

石破:こんなに怖いことが、どこにあるんです? 必要最小限度だから戦力じゃない。戦力じゃないから軍隊じゃない。どうやったら必要最小限度なんて分かるんですか。そもそも虚構じゃないですか。

古谷:仰るとおりです。

石破:おかしいと思いませんかと、こっちが真剣に語って、私、日本人が分かんないなんて思わないです。国民を信じない政治家が国民に信用されるはずはなく、物事を丸めて話をすることは、政治のためにはなっても世の中のためにはならない。

次回の対談の細目(後編)/もし「石破総理」なら、日本の国防はどう変わる?/戦争の悲劇からなぜ学ばないのか?/映画『連合艦隊』を観よ/「朝日新聞と中国と韓国をDisっていれば保守」の情けなさ/総裁選への展望

作家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長

1982年北海道札幌市生まれ。作家/文筆家/評論家/一般社団法人 令和政治社会問題研究所所長。一般社団法人 日本ペンクラブ正会員。立命館大学文学部史学科卒。テレビ・ラジオ出演など多数。主な著書に『シニア右翼―日本の中高年はなぜ右傾化するのか』(中央公論新社)、『愛国商売』(小学館)、『日本型リア充の研究』(自由国民社)、『女政治家の通信簿』(小学館)、『日本を蝕む極論の正体』(新潮社)、『意識高い系の研究』(文藝春秋)、『左翼も右翼もウソばかり』(新潮社)、『ネット右翼の終わり』(晶文社)、『欲望のすすめ』(ベスト新書)、『若者は本当に右傾化しているのか』(アスペクト)等多数。

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