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ウクライナ保安庁が小児病院の破壊痕からロシア軍Kh-101巡航ミサイルのエンジン部品などを新たに回収

JSF軍事/生き物ライター
ウクライナ保安庁より小児病院から回収されたKh-101巡航ミサイルのエンジン部品

 7月8日にロシア軍のミサイル攻撃を受けたウクライナ首都キーウの小児病院「オフマトディト(Охматдит)」での戦争犯罪証拠品の回収は続いており、ウクライナ保安庁(SBU)は新たに発見されたロシア軍のKh-101巡航ミサイルの破片を公表しました。

СБУ отримала нові докази, які підтверджують, що росія ударила по «Охматдиту» ракетою Х-101

ウクライナ保安庁より小児病院から回収されたKh-101巡航ミサイルのエンジン破片
ウクライナ保安庁より小児病院から回収されたKh-101巡航ミサイルのエンジン破片

УЛАМОК ДВИГУНА РАКЕТИ Х-101 「Kh-101ミサイルのエンジン破片」

ウクライナ保安庁より小児病院から回収されたKh-101巡航ミサイルのエンジン部品
ウクライナ保安庁より小児病院から回収されたKh-101巡航ミサイルのエンジン部品

ДЕТАЛЬ ДВИГУНА РАКЕТИ Х-101 「Kh-101ミサイルのエンジン部品」

 ロシア軍のKh-101(Х-101)巡航ミサイルのジェットエンジンの一部が発見されています。ジェットエンジンという時点で巡航ミサイルであることは確定します。地対空ミサイルは固体燃料ロケットモーターで推進するため、このような部品を持ちません。

※エンジン部品以外で発見された他のミサイルの破片

  • Kh-101の主翼展開機構の一部。
  • Kh-101の妨害装置の破片。 ※筆者注:L-504チャフ/フレア・ディスペンサー
  • Kh-101の胴体の中央部分(写真の瓦礫の下)。
  • Kh-101の尾部区画のフェアリングと油圧ブロックの破片。
  • Kh-101のエンジンケーシングの破片。在庫(内側)とシリアル番号(外側)が表示されており、その写真は昨日公開済み(2024年7月8日)。

※ウクライナ保安庁(SBU)の解説要約

  1. Kh-101の弾頭(400kg)の典型的な破壊痕(病院の2階建ての建物は完全に破壊され、周囲の建物も重大な損傷を受けた)。この破壊は、弾頭の威力が約20分の1と低いNASAMS防空システムによるものではありえない。(※筆者注:NASAMSで使用するAIM-120対空ミサイルの弾頭重量は20kgで内蔵炸薬は7.3kg)
  2. 公開されている動画に写っているミサイルの比率(筆者注:直径と全長の比率の意味)、形状、大きさは、Kh-101巡航ミサイルと完全に一致しており、逆にNASAMSを含む地対空ミサイルの特徴はない。ロシアの宣伝担当者が、数百メートル離れた病院に命中した動画のミサイルと、手前の建物の大きさを比較しようとするのは、シニカルで無意味な工作である。
  3. ミサイルの飛行経路は、Kh-101の特性(目標を攻撃する前に上昇してから降下し、約60度の角度で攻撃)と完全に一致している。(※筆者注:低空侵入して目標突入直前に一旦上昇してから急降下を行う「ホップアップ」攻撃のこと。亜音速巡航ミサイルの典型的な攻撃機動)
  4. オフマトディト小児病院を標的としたKh-101空中発射巡航ミサイルは我が方のレーダーによって記録されている(※筆者注:原文にあるКРとはКрилата ракета(有翼ミサイル)の略語で、意味は巡航ミサイル)。

 ロシア側のプロパガンダ宣伝では「Kh-101巡航ミサイルの弾頭威力では病院は粉々になっている筈だ(だから威力の低いNASAMS防空システムのAIM-120対空ミサイルだ)」という主張ですが、ウクライナ側の説明では「Kh-101巡航ミサイルの弾頭だから病院の2階建ての棟は粉砕された(だから威力の低いNASAMSのAIM-120は有り得ない)」と真っ向から主張が食い違っています。

ウクライナ保安庁よりミサイル攻撃で破壊された小児病院の2階建ての棟(2024年7月8日発表)
ウクライナ保安庁よりミサイル攻撃で破壊された小児病院の2階建ての棟(2024年7月8日発表)

 筆者が見る限り明らかにウクライナ側の言い分が正しいように思えます。NASAMS防空システムのAIM-120対空ミサイルの弾頭重量20kg(内蔵炸薬7.3kg)の破壊痕にしては損傷が過大で、実際の爆発威力はもっと大きかった筈です。Kh-101巡航ミサイルは弾頭重量400kg(内蔵炸薬は推定150~200kg)なので、こちらが爆発したと考える方が妥当でしょう。

 そもそもジェットエンジンの残骸の破片が発見済みの上に、着弾時にジェットエンジン音まで聞こえているのですから、地対空ミサイルは有り得ません。突入速度も「遅く」、亜音速巡航ミサイルの特徴と合致しています。地対空ミサイルは超音速で突入して来るので、映像では目で追うのは困難な筈なのです。

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軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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