減らない発熱外来患者 「療養証明書」を求めて受診 My HER-SYS(マイハーシス)とは
新型コロナ第7波は、過去最多の感染者を記録しており、もはや正確な感染者数を把握できない状況に陥りつつあります。軽症者の発熱外来受診を避けるよう自治体から通達されていますが、なかなか減りません。この理由の1つである「療養証明書」について解説します。
発熱外来に求められるのは「診断」
どこの病院でも、連日発熱者が行列を作っている状況です。重症化リスク因子のない軽症者であっても、とにかく受診する風潮はなかなか消えません。
発熱者が多いことも理由の1つですが、もう1つの理由に学校・企業・生命保険会社などが「医療」ではなく「診断」を求めているためです。
職場に復帰するため、新型コロナの「療養証明書」が必要だと言われて受診する人は少なくありません。これは、保健所に発生届が提出されることで発行されます。「療養証明書」を手に入れるため、多くの発熱者が重症度を問わず、発熱外来を受診し、医療機関や保健所の業務を圧迫するにいたりました。
生命保険会社にいたっては、「療養証明書」の提出だけでなく、症状の経過まで詳細に記載を求めてくることもあります。
生命保険協会によると、加盟42社が2022年6月に支払った入院給付金の件数は72万件で、支払額が640億3300万円と過去最高を記録しました。感染者数が多かった7月~8月はさらにこの記録を更新することになるでしょう。
療養証明期間
審査を甘くすると保険会社の支払いが急増するわけですから、ある程度感染の根拠が求められます。そのため、行政が発行する「療養証明書」が主に使われます。証明書に記載された療養期間(診断日から登校・復職可能となる日の前日まで)が、入院給付金の対象になります(図1)。
就業先のルールや自己判断で自宅療養していた期間や、濃厚接触の自宅待機期間、発症日から陽性判明までの期間、解除基準を満たした後に自己判断で待機した場合の自宅待機期間、については証明対象外です。
こうした根拠になることから、「療養証明書」の発行を求める人が多く、発熱外来の逼迫がおさまらないのです。
「療養証明書」の発行が遅延
医療逼迫を軽減するため、また迅速に「療養証明書」が発行できないことから、厚生労働省からの指示により「My HER-SYS(マイハーシス)」を使ってスマホに表示して電子証明書として代用できるよう改善されました(1-3)(図2)。
しかし、この利用率はまだ高くなく、雇用する企業側がこれを認識すらしていないということもあります。スマホが利用できない高齢者では、自治体に「療養証明書」の郵送をお願いする形になります。
療養期間が終わると、「療養証明書を表示する」というボタンをタップすれば、名前、生年月日、新型コロナ診断日、管轄保健所名などが記載された「療養証明書」が表示されます。
今後の「療養証明書」の運用は
自宅療養でも「みなし入院」として給付金を受け取れるといった特別扱いは、感染拡大や法律の見直しによってなくなる可能性があります。
さらに、発熱外来や保健所業務が逼迫した地域では、緊急避難措置として、自治体の判断で新型コロナの届出範囲を高齢者や重症化リスクが高く投薬や入院が必要な人に限定することを可能とし、実質的に「全数把握」がダウングレードされていく見込みです。
「療養証明書」がほしくて発熱外来に来ている軽症者が多いわけですから、この緊急避難措置を適用してしまうと、もう「療養証明書」が発行できなくなるのか、など別の問題が出てきそうです。
それによって医療機関に診断書を求める人が増えて、本末転倒な結果にならないよう、現場にとって運用しやすい形にしていただきたいと思います。
(参考資料)
(1) My HER-SYS - 療養中の健康状態を記録します (URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000934400.pdf)
(2) My HER-SYSで療養証明書を表示する場合の方法 (URL:https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000934331.pdf)
(3) 新型コロナウイルス感染者等情報把握・管理支援システム(HER-SYS) (URL:https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000121431_00129.html)