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需給安定化への自信と不安、米国産トウモロコシのリベンジ戦

小菅努マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

アメリカの穀倉地帯では、まもなく2013/14年度産穀物の作付け作業が本格化する。

それに先立つ3月28日には米農務省(USDA)が「作付意向面積調査」の結果を発表しているが、そこでは小麦が5,644万エーカー(前年度は5,574万エーカー)、トウモロコシが9,728万エーカー(同9,716万エーカー)、大豆が7,713万エーカー(同7,720万エーカー)との面積見通しが示された。小麦にやや面積増加圧力が強まるも、3穀物合計の作付面積は2億3,129万エーカーの予測であり、前年度の2億3,010万エーカーからは僅か0.5%の増加に留まることになる。事実上の据え置き状態と言っても良いだろう。

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この「作付意向面積調査」は、あくまでも農家への聞き取り調査に基づくものであり、実際の作付面積は今後の相場動向や気象環境などによって変動する可能性がある。例えば、作付けが先行するトウモロコシの作付け時期に降雨や土壌水分不足に見舞われれば、消去法的に大豆生産に切り替えるといった動きは珍しいものではない。逆に理想的な天候・土壌環境でトウモロコシの作付けが急ピッチに進めば、天候リスクを回避するために大豆ではなくトウモロコシの作付面積を増やすといった動きも過去には報告されている。

ただ今回の調査結果を見る限り、現時点では作付面積そのものが大きく増減するリスクは限定されていることは明らかである。昨年にシカゴのトウモロコシと大豆相場は過去最高値を更新したが、作付面積拡大の必要性は認められていないのだ。

■今年は作付面積拡大が必要ない?

穀物需給の逼迫度を計る指標としては、マーケットでは「在庫率」が注目されることが多い。これは、「在庫率=期末在庫÷総需要」で定義されており、要するに需要規模と比較して在庫規模が適正か否かを判断する指標である。かつては15~20%が適正水準とも言われたが、トウモロコシの場合だと09年度の13.1%を最後に10%台を割り込み、10年度8.6%、11年度7.9%、12年度5.6%と、4年連続で低下中である。ちなみに、在庫率5.6%とは95/96年度以来の低水準であり、18年ぶりの需給逼迫状況というのが、在庫率をベースにしたトウモロコシ需給の数値的・統計的な評価になる。

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米国産トウモロコシは09年こそ理想的な天候に恵まれて豊作を実現したが、その後は10年、11年と2年連続の不作となり、在庫の取り崩しで辛うじて需給バランスを維持してきたのが現状である。

この状況を打破するために、12年は過去最高の9,720万エーカーという作付面積を確保して在庫の積み増しを目指すことになった。正確には、低在庫を背景としたトウモロコシ価格の高騰(=トウモロコシ収益環境の改善)が農家の作付け意欲を強めた結果であるが、「面積拡大→増産→在庫積み増し」のフローが想定されていた。しかし、実際には半世紀ぶりとも言われる干ばつ被害に見舞われた結果、イールド(単位面積当たりの収穫量)は11年度の147.2Bu/エーカーから123.4Buまで急激に落ち込み、作付面積が前年度から6%増加したにもかかわらず、生産高は逆に13%も落ち込む最悪の展開になったのである。

ただ、米農家はあくまでも昨年の気象環境が「異常」だったと評価している模様であり、今年度は大幅な面積拡大の必要性は認めていない。すなわち、例年並みの作付面積さえ確保しておけば、トウモロコシ需給バランスを維持することは可能と考えている可能性が高い。それが、今回発表された「作付意向面積」が前年度並みの水準に留まった背景である。

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■食品価格高騰対策は、好天が一番の特効薬

もう少し詳細な数値も紹介しておくと、USDAは2月21~22日にアウトルック・フォーラム(展望会議)を開催し、そこで13年度のトウモロコシ需給に関する最新予測値を発表している。これによると、作付け面積は意向面積を更に下回る9,650万エーカーとされていたにもかかわらず、在庫率は前年度の5.6%から16.7%まで急伸するとの見通しが示されている。

イールドの163.6Bu/エーカーは09年度以来、過去2番目の高水準であり、こうした楽観的なイールド見通しが妥当なのかは議論のある所である。昨年の干ばつの影響が残る米穀倉地帯では現在も土壌水分量が不足がちであり、「記録的な不作」が「記録的な豊作」に180度転換するためのハードルは決して低くない。

しかし、過去最大の作付面積というのは、イールドさえ正常化すれば大幅な在庫積み増しを促すだけの潜在的なエネルギーを有していることも事実である。計算上は、イールドが過去5年平均の148Buまで改善するだけで、前年度から23%もの大規模増産が可能な状況にある。近年は、異常気象が「異常」ではなく「正常」と言った方が適切かと思われるような気象環境が続いているが、改めて過去最大の作付面積を有効活用できるのかが試されることになる。昨年とほぼ同様の面積環境で作付け期を迎えるが、半世紀ぶりの干ばつ被害で失敗した大規模増産のリベンジ戦がこれからまさに展開されようとしているのだ。

今回取り上げたのはトウモロコシが中心だったが、これは大豆にも共通するテーマである。4月1日から「日清オイリオグループ」と「J-オイルミルズ」は家庭用食用油を1キロ当たり30円以上値上げする方針を示しているが、円安以前の問題としてドル建ての穀物相場は過去最高値水準を維持している。「アベノミクス」による食品物価の上昇圧力の影響を限定できるか否かという視点でも、作付け期を迎えた米穀倉地帯の気象環境からは目が離せそうにない。

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【2013/04/02 08:00追記】 最終段落に「CBOTトウモロコシ先物相場(中心限月)」のグラフを加えました。

マーケットエッジ株式会社代表取締役/商品アナリスト

1976年千葉県生まれ。筑波大学社会学類卒。商品先物会社の営業本部、ニューヨーク事務所駐在、調査部門責任者を経て、2016年にマーケットエッジ株式会社を設立、代表に就任。金融機関、商社、事業法人、メディア向けのレポート配信、講演、執筆などを行う。商品アナリスト。コモディティレポートの配信、寄稿、講演等のお問合せは、下記Official Siteより。

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