「前例なく入学拒否」偏見に満ちた世界を覆した中国初全盲アナウンサーの挑戦 〜心目(しんもく)〜
視覚障害者が約1200万人いる中国では古くから、「視覚障害者はマッサージ師か占い師、もしくは物乞いになるしかない」と言われる。障害者に対する福祉政策は国の発展と共に整ってきた。しかし、社会にはまだ差別意識がはびこり、特に農村では学校にも通えない子がいるという。そのような偏見を覆し、視覚障害者で初めてアナウンサーになった女性がいる。北京に1人で暮らす全盲の女性、ドン・リーナー(35歳)だ。前作の主人公マー・ズーチュンは、リーナーの背中に憧れて、夢を持ち始めた。同じ障害を持つ子供たちに夢を与えるリーナーの姿を追った。
夢を叶えたリーナーも、最初から順調にアナウンサーになれた訳ではなかった。大連に生まれ、多くの視覚障害者と同じく盲学校に通い、マッサージ師となったリーナーは、閉ざされた世界の中で、やりたいことができない、考えることさえはばかられるような環境に苦しんでいた。学ぶことが大好きなリーナー。働きながら学べる場を探したが、あらゆる学習機関に視覚障害を理由に断られた。血眼になって学べる場所を探す中、北京で視覚障害者を支援する非政府組織(NGO)紅丹丹が開いたアナウンスレッスンを見つける。
紅丹丹は視覚障害者の自立を促すため、職業訓練などを行なっている。突如目の前に現れた、新たな人生の選択肢に、リーナーは即座に飛びついた。北京に出てきたリーナーは、紅丹丹でトレーニングを受け、ラジオ局開催の朗読大会で、健常者に混じり2位の好成績を出した。彼女には天賦の才能があったのだ。その後アナウンサーの登竜門と言われる、北京メディア大学のアナウンス科を受験しようと試みたが、またも「視覚障害者は前例がない」と拒絶された。「これまでいくつもの学校に断られてきた。朗読大会での実績も出した今、断られるのは納得がいかない」。応援する弁護士が現れ、メディアにも取り上げられた。世論をバックに大学に初めて視覚障害者の社会人入試を認めさせた。さらに卒業後は、中国人民ラジオ局の特約アナウンサーとして朗読番組も担当した。
リーナーは今、フリーアナウンサーとして音声図書の制作や、朗読劇への出演などの仕事をこなすかたわら、アナウンスレッスンを開催している。視覚障害者の中には、差別を受けた経験から自分に自信が持てず、人前で話すことすらできない子供たちもいる。紅丹丹に出入りする若者や子供達にとって、リーナーは“スター”だ。視覚障害者は、目が見えない代わりに、耳が非常に敏感だという。若い世代には、鋭い聴覚を生かし、ピアノの調律師や、ピアニスト、声優などになりたいと夢見る視覚障害者もいる。自分に憧れる若者たちが新たな道を見つけられるように、リーナーは再び立ち上がった。