10月17日のアル・アハリ病院爆発はガザ側のロケット弾の発射失敗:国際人権団体HRWの調査報告
11月26日、国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は、10月17日(現地時間の夜)にガザのアル・アハリ病院で起きた爆発について「ガザ側のパレスチナ武装勢力のロケット弾が発射失敗した事故」という調査結果を報告しました。
HRWは公開されている写真や動画、衛星画像、目撃者5人への聞き取り、他の組織が発表した報告の比較、専門家への分析依頼などで爆発の分析を行ったとしています。
「爆発に先立つロケットモーターの飛翔音、爆発に伴う火球、爆発後のクレーターの大きさ、飛散物の種類、クレーターの周囲に見られる破片の種類と散布パターン、これらは全てロケット弾の着弾と一致している。」
Gaza: Findings on October 17 al-Ahli Hospital Explosion | Human Rights Watch (HRW) | November 26, 2023
- ロケット弾による着弾と全ての特徴が一致している
- ロケットモーター(推進剤)の音が記録されている
- 爆発火球はロケット推進剤および現場の燃料の引火
- クレーターが小さい(長さ約90cm、幅約60cm、深さ約30〜40cm)
- 航空爆弾の特徴が無い(もっと大きなクレーターでなければおかしい)
- 回転砲弾の特徴が無い(ライフル回転する大砲の砲弾の着弾痕ではない)
- 対戦車ミサイルの特徴が無い(ヘルファイアやスパイクの着弾痕ではない)
- 防空ミサイルの特徴が無い(対空用弾頭起爆の調整破片の着弾痕ではない)
- ガザ当局の約500人死亡報告は爆発が小さく無理筋
- ガザ当局は残骸の証拠を回収しながら発表せず隠蔽
- 病院の爆発の直前に目撃された上昇する光は無関係・・・イスラエル軍の迎撃ミサイルの可能性が高いが、距離が遠く病院への攻撃の関連性は無い
- 病院の爆発の直前に目撃された西海上の光は無関係・・・イスラエル軍の戦闘機のフレア(熱囮弾)の可能性が高いが、病院爆発に関連した証拠は無い
「ガザ: 10月17日のアル・アハリ病院爆発に関する調査結果」、2023年11月26日のヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)による報告を要約するとこうなります。
小さな爆発痕から戦闘機用の航空爆弾は全て除外されます。一番小さな航空爆弾であるSDB(小直径爆弾)ですら今回の病院のクレーターよりも遥かに大きな穴を地面に穿ちます。イスラエル戦闘機による爆撃の可能性は真っ先に否定されます。
空中炸裂説も有り得ません。空中炸裂ならばそもそもこのような穴は生じませんし、飛び散った弾殻破片のパターンで直ぐ特定できます。特殊な弾薬のDIME(Dense Inert Metal Explosive、高密度不活性金属爆薬)、FAE(Fuel Air Explosive、燃料気化爆弾)やサーモバリック(Thermobaric、熱圧爆弾)なども全て特徴と合致しません。これらはHRWが最初から検討すらしていないほど可能性が著しく低い説です。
また155mm榴弾砲などのライフル回転する砲弾が低角度 (45度以下) で着弾した場合の特徴が無いと否定されています。砲弾が炸裂した時の弾殻破片の側面散布(lateral spray)パターンが見られず、信管溝(fuze furrow)の着弾痕も見られないと報告されています。
※1「fuze furrow」の和訳が「信管溝」でよいかは不明。同じものを「fuze crater」とも呼ぶ。砲弾の先端に付いている信管が炸裂時に前方に飛ばされる際に、信管が地面に直線の溝を掘る。
※2「lateral spray」は「side spray」でも同じで、砲弾の炸裂時の弾殻破片の側面散布パターン。砲弾自身が前方に進んでいるため、炸裂時に側面に飛ぶ弾殻破片が主に飛ぶ方向はやや前方寄りの角度が付いた「逆ハの字」型になり、地面を削る。
※1と※2を合わせて砲弾の飛来方向が推定できる。
そして小さな炸裂弾頭のみの爆発では着弾時の大きな火球を説明できず、ロケット弾の弾頭とロケットモーター(固体燃料推進剤)が一緒に落ちて来て、弾頭の爆発と推進剤の燃焼と周囲の可燃物への引火が同時に起きたのだろうと推定されています。この点でも大砲の砲弾は否定されます。また推進剤が多く残っている状態で発射に失敗して落ちて来た以上、ごく近い距離から発射されたことになります。
攻撃ヘリコプターに搭載する、ヘルファイアやスパイクといった対戦車ミサイルの弾頭の着弾痕とも一致しないと報告されています。また攻撃ヘリコプターが周囲を飛んでいたならその当時に近辺で報告がある筈ですが(ローター騒音は大きい)、そういった報告事例もありません。
防空ミサイルは対空目標用の調整破片弾頭や連続ロッド弾頭なので特徴的にも判別がつけやすい筈です。なお病院に一番近い場所のイスラエル側に配備されていたアイアンドーム防空システムは射程の短い短距離地対空ミサイルなので、位置的にも能力的にも病院の爆発と関係が無かったと分析されています。
そしてHRWはガザ保健省の「471人が死亡、342人が負傷」という報告を「異常に高い数字」、現場の爆発痕跡と見比べても「不釣り合い」と全く信用していません。
またガザ内務省が現場にあった残骸の証拠を全て持ち去り、ハマスの幹部がこの残骸は 「間もなく世界に公開される」と述べたにも拘らず、病院爆発事件から1カ月以上経っても実現していないことを指摘しています。そして10月22日にハマス政治部門の上級幹部であるガジ・ハマド氏は「ミサイルは水の中の塩のように溶けてしまった。何も残っていない」と言い放ちました。
しかしHRWはそのようなことは有り得ないと述べています。攻撃に使用した兵器の残骸は必ず現場に残ります。ガザ当局とハマスは都合の悪い証拠を隠蔽したと疑われても仕方がありません。
なおHRWとは別個にフランス軍事偵察局DRMが、アル・アハリ病院の駐車場のクレーターの大きさから「最も可能性の高い仮説は約5kgの炸薬が爆発したパレスチナ武装勢力のロケット弾」と分析して10月20日に報道(franceinfo)されています。これはガザでよくハマスやPIJ(パレスチナ・イスラム聖戦)が使う一般的な、直径122mm級のBM-21グラド相当のロケット弾の弾頭(約20kg)に内蔵された炸薬(約5kg)に合致します。