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胡錦濤に命乞いをしていた令計画――胡錦濤、一蹴し習近平に協力

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

胡錦濤に命乞いをしていた令計画――胡錦濤、一蹴し習近平に協力

12月22日に落馬した令計画が、2014年7月、胡錦濤に命乞いをしていたことが分かった。しかし胡錦濤はそれを拒否し、習近平の「虎退治」に協力したとのこと。12月25日付の中国政府のウェブサイト「中国監督網」が伝えた。 

◆「人民監督網」とは

中国政府は反腐敗運動を進めるために、胡錦濤政権時代の2006年6月に「人民監督網」というウェブサイト(網)を立ち上げ、一般民衆からの訴えを扱っている。

「反腐敗運動」は何も習近平政権に入ってから始まったわけではなく、胡錦濤政権時代も必死になって闘ってはいた。しかし、なにせチャイナ・ナイン(胡錦濤時代の中共中央政治局常務委員9名)の構成メンバーは圧倒的に江沢民派が多く、胡錦濤の反腐敗運動は大きくは進んでいない。

しかし習近平政権に入ってからは、チャイナ・セブン(中共中央政治局常務委員7名)のうち6名が元江沢民派であり、かつそのうち5名は、習近平自身か習近平の父母と深く関わり合いを持った布陣となっている。抵抗勢力がいない。圧倒的多数で、多数決議決がすべて通ってしまう。そのため反腐敗運動が展開しやすくなり、「虎退治」が容易になったわけだ。

結果、「人民監督網」の活動も非常に活発になっており、胡錦濤前国家主席の秘書だった令計画が落馬してからは、令計画に関する報道が急増している。

◆胡錦濤元国家主席に跪(ひざまず)いて命乞いした令計画

12月25日付の「人民監督網」によれば、令計画の兄である令政策(山西省政治協商会議元副主席)の取り調べが始まったことが公表された6月19日、令計画は「次は自分の番だ」と直感し、7月に胡錦濤の家を訪問したという。

そして胡錦濤の前で、文字通り跪き、「どうか習近平や王岐山に会って、自分を逮捕しないようにお願いしてほしい」と懇願したそうだ。

令計画は、

「自分はこれまで中共中央弁公室で長年にわたって仕事をしてきたために、恨みを買うことが多かった。だからきっと誰かが自分を陥れようとしているのだ。兄の家で、何か腐敗問題があったとしても、私は関係ないので事情を何も知らない。私は無関係だ。私は紀律違反などしていない」

と自己弁明した。

というのも、令政策の取り調べが公表されると、中国政府の通信社「新華社」が「一族に誰かがいても、おかしくない」という趣旨のことを伝えていたからだ。これは令計画に対する警告と、このとき誰もが直感していた。

しかし2012年11月に開催された第18回党大会で胡錦濤は中共中央総書記辞任と同時に、軍事委員会主席まで辞任している。江沢民の場合は総書記の任期が終わっても、なお軍事委員会主席の座だけは譲らず、綿々と権威にしがみついていたので、人民の間での評判が悪かった。 胡錦濤のこの「すべての座から退くこと」を、中国では「裸退」と呼んでいるが、「裸退」をした胡錦濤は同時に「引退した者は新政権に口出しをしない」ということを宣言している。

それを理由に、胡錦濤は令計画の命乞いを一蹴したとのことだ。「保護傘(悪いことをした人を庇護すること)」にはならないと断った。そして習近平の「令計画取り調べ決定」に協力したという。

こういったことが、なぜ外部に漏れるのか、不思議に思われるだろうが、この場合には現場にいた使用人の目撃などの情報によることが考えられる。

この情報を最初にリークしたのは『亜州周刊』だと、Daily Appleが報道していると、「人民監督網」にはある。直接の投稿ではなく、三次情報になるが、信頼性は高いと考えていいだろう。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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