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中国CCTV:米大統領選_「札束」の力と「銭」のルール

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
2024米大統領選で勝利宣言をするドナルド・トランプ氏(写真:ロイター/アフロ)

 11月3日、中国中央テレビ局CCTVは「央視新聞客戸端(CCTV新聞顧客端末)」で、<米国選挙_「札束」の力と「銭」のルール>という見出しで、「金」で決まる米大統領選のからくりを詳細に報道している。そこから、なぜトランプ氏が激戦州の一つペンシルベニア州で勝利したかが見えてくるのは興味深い。

 本稿ではCCTV報道の概要をご紹介する。

◆「アメリカを救うため」の価格 10ドルか29ドルか

 投票日が近づくにつれ、携帯電話をスクロールしているアメリカ人は、2人の大統領候補の広告を目にする機会がますます多くなっただろう。

 その内の一人は、グレーのスーツを着て、誠実な口調で「10ドル…10ドル…10ドル…民主主義を守るには、たった10ドルで十分です」と、くり返した民主党大統領候補ハリス氏だった。

 もう一人は、すでに裕福になっている共和党大統領候補トランプ氏が有権者に「29ドル。たったの29ドルだよ! 29ドルで米国は強くなれる!」と叫ぶ姿だ。

 両候補者の「誠実な」演説の後に、スクリーンには「寄付をお願いします」という巨大な文字が表示される。両候補の言葉を借りれば、数ドルを寄付することは「民主主義を守る」ことに匹敵するという。

 これを見た有権者は、「私の財布は本当に重要なのだろう?」と尋ねずにはいられないだろう。そして「それで民主主義が守られるの?」と首をかしげたにちがいない。

◆選挙キャンペーン広告費は常に「史上最高値」を継続している

 2024年の米国選挙の支出総額は少なくとも159億ドルに達すると予想されており、2020年の大統領選挙で支出された151億ドルに次いで、再び史上最も高額な選挙となった。

 米国選挙では「焼銭(札束を燃やすように選挙のためにお金を使いまくる)」大型プロジェクトにおける寄付と資金の役割は、あまりに大規模で尋常ではない。キャンペーンチームの構築、キャンペーンの準備、データ分析、広告の掲載…には、すべて莫大な費用がかかる。

 たとえば、今年の主な激戦州の一つであるネバダ州では、ハリス氏のチームがラスベガスのランドマークビルの幅160メートル、高さ111メートルの外壁に巨大な広告を設置し、1日で45万ドルを「燃やし尽くした」。

 もう一つの大きな激戦州であるペンシルベニア州をターゲットに、ハリス氏とトランプ氏はNFL(ナショナル・フットボール・リーグの2つのプロチームの試合中に高価なゴールデンタイムを利用して公告を行った。民主党はまた、6つの激戦州が参加するNFLの4試合でハリス氏を支持する横断幕を掲げ、莫大な報酬を支払った。

 これらの費用は、広告とキャンペーンに対する両当事者の合計支出と比較すると、取るに足らないものだ。今年9月、ハリス氏は選挙資金として2億7,000万ドルを支出したが、その大半は選挙広告に使った。トランプ氏の9月の選挙活動支出も7,800万ドルに達した。

 図表1に示すのは、年々増加する米大統領選における選挙費用の、2000年から2024年までの推移である。

図表1:米大統領選における選挙資金の推移

CCTVのグラフを基に筆者が和訳アレンジ
CCTVのグラフを基に筆者が和訳アレンジ

◆お金はどこから来るのか

 それなら、そのお金はどこから来るのだろうか?

 2020 年の米大統領選に関連したデータによると、バイデン陣営が集めた約 10 億ドルのうち 60% が多額の寄付によるものだった。さらにバイデン氏は「外部団体」から6億ドル近い資金を集めている。同年のトランプ陣営は7.7億ドル、「外部団体」から3億ドルを集めた。

 大まかに言って、米大統領選の資金調達には実は「ハードマネー」と「ソフトマネー」の 2 つの方法がある。その違いは、選挙資金が連邦選挙財務法に従っているか否かだ。

 米国の連邦法では、企業や労働組合が候補者の選挙運動に直接寄付することは認められておらず、企業、労働組合、活動家団体が主催する集会である「政治行動委員会(PAC、Political Action Committee)」(以後、PAC)にのみ寄付できると規定されており、候補者が寄付できる金額にも制限がある。

 さらに、米国の法律は長いこと、個人の政治献金に明確な制限を設けてきた。たとえば、2023年から2024年の連邦選挙では、候補者委員会への個人の寄付は選挙ごとに3,300ドルに制限され、複数の候補者を支援するPACから候補者委員会への寄付は選挙ごとに5,000ドルに制限されていた。

◆「スーパーPAC」を発明

 しかし、それでは不便なので、アメリカの政治家は新たな「会計ツール」として「スーパーPAC」なるものを発明した。

 2010年、米国最高裁判所は選挙支援のPACへの個人や企業からの寄付の上限を撤廃したため、上限を設けない「スーパーPAC」が発足したのである。

 寄付金に制限があり、実名による認証が必要なPACとは異なり、「スーパーPAC」は候補者に直接寄付したり、選挙活動を調整したりすることはできないが、制限なく候補者の広告やバナー掲載を支援するために直接資金を支出することができる。米国の両政党の資金提供者は、好みの政治候補者を支援するために好きなだけ資金を投資できるようになったのである。

 結果、「金と政治」の組み合わせは新たな最高潮に達するに至っている。

 2010年の判決は「闇マネー」グループの誕生にもつながった。特定の非営利団体は、実際の寄付資源を開示しないことを選択でき、寄付者が政治活動に参加しない限り、寄付金の使用を連邦選挙委員会に報告する義務はない。

 マイクロソフトの創設者ビル・ゲイツ氏は今年、この方法を使ってハリス氏に5000万ドルを寄付したが、その資金は暴露されるまで秘密にされ、公表されなかった。

◆「札束レベル」の選挙

 この一連の複雑な仕組みは、「民主主義」や「透明性」のために資金による汚職の発生を防ぐというよりは、「不透明な資金源からの政治献金」を正式に解禁し、富裕層からの資金が公然と選挙活動に流れることを可能にするものに近い。

 Open Secrets(オープン・シークレット、選挙資金や政治献金などの統計を取る非営利団体)が発表したデータによると、2010年に米国最高裁判所が「札束レベル」選挙に対して「裏口」を開いて以来、「スーパーPAC」はますます選挙に大きな影響をもたらし、その資金調達と支出は倍増した。

 「スーパーPAC」メンバーの数は2010年には100未満だったが、2024年には2,000以上に増加し、2012年から8.28億ドルを調達し、現在の選挙までの各期では17.9億ドル、34.28億ドルと推移し、2024年には42.91億ドルに達するという、米国史上最高額を更新した。

 図表2に示すのは、「スーパーPAC」資金の推移である。CCTVの画像を日本語に訳し、日本円に変換した金額も加筆した。

図表2:「スーパーPAC」募集資金の推移

CCTVのグラフを基に、筆者が和訳しアレンジ
CCTVのグラフを基に、筆者が和訳しアレンジ

◆「スーパーPAC」でどちらかの候補者側に立つメリット

 OpenSecretsのデータによると、2024年の米国選挙戦では、200ドル未満の少額寄付者からの資金は全募金のわずか16%しか占めていないとのこと。

 実際は、フォーブス誌の米国億万長者リストに載っている800人のうち、少なくとも144人が今年の米国大統領選に影響を与えるために資金を投資している。選挙資金の大部分は常に裕福な個人や金融グループによって作られているのだ。

 統計によると、今年の米大統領選では83人の億万長者がハリス候補を支持し、52人がトランプ候補を支持した。

 ハリスを支援したのは、ビル・ゲイツ氏のほか、フェイスブック共同創設者のダスティン・モスコウィッツ氏、リンクトイン共同創設者のリード・ホフマン氏、ブルームバーグ創設者のマイケル・ブルームバーグ氏などの大富豪がいる。

 トランプを支持した著名な富裕層には、銀行王ティム・メロン氏、起業家イーロン・マスク氏、ギャンブル王未亡人ミリアム・アデルソン氏などが含まれる。

 その中で、トランプ氏に少なくとも1.1億ドルを寄付したことが明らかになったマスク氏は、7つの「激戦州」の有権者を対象にオンライン宝くじを開催したこともあった。請願書に署名した7州の登録有権者全員から毎日1名が選出され、賞金100万ドルが授与される。最初の3日間の宝くじはペンシルベニア州の有権者に限定されていたが、「ペンシルベニア州は選挙人19人の激戦州でもあること」は注目に値する。(筆者注:トランプ氏は11月6日午後、ペンシルベニア州を制したが、その原因の一つはここにもあるのかもしれない。)

 金融家や大富豪は、決して「アメリカン・ドリーム」の実現を支援する慈善家ではない。異なる富裕層が両陣営に「味方」する理由は明らかだ。

 ゲイツ氏がハリス氏を支持することを選んだのは、医療や気候変動といった伝統的な政策における既得権を維持したかったからだ。巨額の献金の裏で、資本は今後4年間、自社の利益が決して揺るがないように、政権に圧力をかけることができる。

 マスク氏の場合は、衛星、電気自動車、脳にチップを埋め込む事業、人工知能ロボットなど一連のビジネスを抱えているが、これらの事業がスムーズに遂行できるか否かは、連邦政府との契約や規則に大きく依存する。したがってトランプ氏が勝利すればマスク氏は事業を進めやすくなるのだ。(CCTVからの引用は以上)

 日本の自民党の政治と金の問題が注目されているが、米国の選挙に関しては、スケールが違う「金と選挙の結びつき」が存在し、しかも、ある意味、合法化されている。

 本稿をここまで書いた段階で、トランプ氏の当確が決まった。トランプ氏も勝利宣言を行っている。トランプ勝利に関して、中国はどう見ているか、中国のネットがどのような反応をしたかに関しては、追って考察したい。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』(11月1日出版、ビジネス社)、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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