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令和の時代の昭和路線。いすみ鉄道のキハ52がきれいになりました。

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長
新塗装できれいになったキハ52(右) 撮影:吉田智和氏

いすみ鉄道で活躍する国鉄形ディーゼルカーのキハ52がクラウドファンディングで集まった資金を基にお色直しを行ない、ご支援いただきました方限定のお披露目会が昨日15日行なわれました。

大多喜の車庫の中で塗装作業中のキハ52
大多喜の車庫の中で塗装作業中のキハ52
塗装作業が終了したキハ52(2枚とも撮影:鈴木和之氏)
塗装作業が終了したキハ52(2枚とも撮影:鈴木和之氏)
50年以上前の「準急」ヘッドマークを取り付けてイベント撮影。キハ28(左)とキハ52(右) (撮影:吉田智和氏)
50年以上前の「準急」ヘッドマークを取り付けてイベント撮影。キハ28(左)とキハ52(右) (撮影:吉田智和氏)

このキハ52という車両は全国の非電化路線で活躍した国鉄一般形と呼ばれるグループの車両の1両で、いすみ鉄道に残るキハ52-125は昭和40(1965)年に製造されたもの。

山陰や北陸地域で活躍し、2010年にJR西日本の大糸線を最後に引退した3両のうちの1両をいすみ鉄道が譲り受け、2011年春から千葉県の房総半島で観光列車として人々の夢を乗せて走っているものです。

稲穂の中を走るキハ52(撮影:渡辺新悟氏)
稲穂の中を走るキハ52(撮影:渡辺新悟氏)

このキハ52は今まで国鉄首都圏色と呼ばれる朱色一色の塗装で走っていましたが、塗装の劣化が激しく、かといって再塗装の費用もねん出できないことから、筆者が呼び掛けてクラウドファンディングを実施し、集まった費用で塗装変更を実施したもので、昨日はその支援者の方々をお招きしてお披露目の撮影会となりました。あいにくのお天気でしたが、お集まりいただきました皆様方にはふだんは見られない車庫内での姿などをお楽しみいただくことができました。

国鉄首都圏色とは

塗装変更前までのキハ52は、国鉄首都圏色と呼ばれる朱色一色の塗装でした。

この一色塗装は通称「タラコ色」と呼ばれ、昭和50(1975)年頃から、それまでのオレンジ色と肌色のツートンカラー(今回塗装変更した国鉄一般色)を朱色一色に塗装変更したもので、1980年代半ばごろの国鉄末期には全国各地にこのタラコ色のディーゼルカーが活躍する姿が見られました。

菜の花の中を走る首都圏色キハ52。後ろはレストラン車両のキハ28(撮影:渡辺新悟氏)
菜の花の中を走る首都圏色キハ52。後ろはレストラン車両のキハ28(撮影:渡辺新悟氏)

ところが、この首都圏色はそのきっかけとなったのは国鉄の赤字で、2色で塗るよりも1色の方がコストが安くなるという理由で一色塗りに変更された経緯がありますから、長年の鉄道ファンの皆様方にとっては「国鉄の手抜き色」として、あまり良いイメージがなかったという事実があります。特に筆者のように蒸気機関車がまだ現役だった当時から鉄道を知っている人間にとっては、凋落していく国鉄のイメージと重なりますから印象としてはよくない色です。

その後、昭和53(1978)年から製造されたキハ40系ディーゼルカーは、最初からこの首都圏色で登場しましたので、筆者の年代よりも若い世代、蒸気機関車の現役時代を知らない世代の方々にとってみたら、この首都圏色が国鉄時代の大切な思い出のディーゼルカーの色になりますから、そういう皆様方、特に40代以下のファンの皆様方に親しんでいただこうと、いすみ鉄道ではしばらく朱色の首都圏色で走らせてきたのです。

国鉄時代は全国均一で、塗装も決まっていた。

国鉄時代は全国共通のサービスが当たり前でしたが、列車の塗色も全国共通で、ディーゼルカーの場合、特急色、急行色、そして普通列車用の一般色と車両の用途に応じて塗装が決められていました。いすみ鉄道のキハ52は主として普通列車に使用する車両でしたので、今回の塗装変更は昭和40年にキハ52が誕生した時の本来の塗色である一般色に戻したものですが、これはクラウドファンディングを募集した際に支援者の皆様方にご意見をお伺いして決めたものです。

やはり、本来の姿が一番魅力的ということなのでしょうか。

国鉄特急色 キハ181系特急ディーゼルカー(筆者撮影)
国鉄特急色 キハ181系特急ディーゼルカー(筆者撮影)
国鉄急行色 キハ58系急行用ディーゼルカー(筆者撮影)
国鉄急行色 キハ58系急行用ディーゼルカー(筆者撮影)
いすみ鉄道で再現される国鉄時代のローカル編成(撮影:松本圭史氏)
いすみ鉄道で再現される国鉄時代のローカル編成(撮影:松本圭史氏)

当時は特急用車両は特急専用編成として使用されていましたが、急行用の車両は一般形と混成で普通列車や快速列車でも活躍していましたので、今回の塗装変更で、いすみ鉄道では国鉄時代の昭和40年代から50年代にかけての走行シーンが再現されることになります。

急行形車両のキハ28を連結した2両編成で走る姿は、沿線に広がる田園風景とマッチして昭和の汽車旅がお楽しみいただける貴重な列車となります。

令和の時代も昭和が続く

いすみ鉄道ではこの塗装変更に合わせて記念乗車券を発売しています。

こちらも懐かしい硬券切符のセット。

そして、今回の塗装変更を記念して、9月末日までの期間限定で1日フリー乗車券を1000円(通常平日1200円、土休日1500円)に割引して販売しています。

ぜひ、皆様、令和の時代も昭和の旅が楽しめるいすみ鉄道で楽しい思い出を作ってみてはいかがでしょうか。

親子で出かけると、子供の目から見てお父さんが輝いて見える。

それが昭和の旅の効果です。

北陸新幹線の糸魚川駅で記念館に保存されているキハ52(筆者撮影)
北陸新幹線の糸魚川駅で記念館に保存されているキハ52(筆者撮影)

2010年にJR大糸線(糸魚川-南小谷)で最後まで活躍して引退したキハ52は3両いましたが、そのうちの1両は地元糸魚川市で記念館を作っていただききれいな姿で保存されています。もう1両は岡山県の津山駅構内の津山まなびの鉄道館で、やはり鉄道近代化の代表的ディーゼル車両として大切に保存されています。いすみ鉄道で現役で走るキハ52は、相方のキハ28(昭和39年製、現役最後の国鉄急行形の1両)とともに博物館的価値がある車両です。

今回のクラウドファンディングは、そういうものの価値のわかる皆様方からの全国的ご支援をいただいて実施したものです。

もう1両、国吉駅構内で保存されているキハ30形の塗装作業は7月中旬から開始する予定です。

ご支援をいただきました皆様、本当にありがとうございました。

なお、記念乗車券、1日フリー乗車券の割引、列車の運行についてはいすみ鉄道のホームページにてご確認ください。

いすみ鉄道株式会社ホームページ

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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