Yahoo!ニュース

朝ドラ〈カムカムエヴリバディ〉が深すぎる 制作者に聞いた裏テーマ

木俣冬フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人
『カムカムエヴリバディ』第3週より  写真提供:NHK

“朝ドラ”こと連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』(NHK)第3週は前半、やきもきしたが週末に安子(上白石萌音)と稔(松村北斗)がついに結婚して心から笑顔になれた。

制作統括の堀之内礼二郎チーフプロデューサーは「前半複雑な思いにさいなまれますが、金曜、みんなで拍手して祝福できればいいなと願っていました」と語る。

安子と稔の仲を雉真家全員反対だったが、まず千吉(段田安則)、それから勇(村上虹郎)、そして最大の難関、美都里(YOU)までなんとか折れた。それもこれも安子の純粋さゆえである。

幸せの中に寂しさも少しあった。橘家の杵太郎(大和田伸也)が亡くなったのだ(第14回)。杵太郎のためにひさ(鷲尾真知子)が用意した新しい足袋は雉真の製品で、金太(甲本雅裕)と千吉が橘家と雉真家を代表する父と父として互いの家の「原点」について語らう。家族の原点を子どもたちが繋いでいく。第3週を振り返り堀之内CPにインタビューした。

「はじまり」そして「積み重ね」

――父ふたりのシーンの撮影はいかがでしたか。

堀之内 町の名士の雉真家と平凡な橘家の関係が、ふたりが並んで座ることで、子を思う父同士として対等になる。そのタイミングや声の掛け方を大事にするため、段田さんも甲本さんも、演出家と丹念に話し合いながら撮影に臨まれていました。お二人とも名優同士で、芝居を軽く合わせた瞬間からほぼほぼ完璧に雰囲気ができあがっていました。

――「原点」という言葉が印象に残りました。原点に対して何か思いはありますか。

堀之内 今、問われるまで考えていなかったですが、この物語はラジオ放送がはじまった日からはじまっています。いわば放送の原点です。脚本家の藤本有紀さんは生まれる瞬間を大事にしているように感じます。「たちばな」の味はひさと杵太郎がはじめた味。江戸時代から続くような老舗の和菓子屋という設定にもできたと思いますが、杵太郎が初代であることは大事なことなんだと思います。雉真繊維も千吉がはじめた会社です。はじまりの物語になっています。ヒロインが生まれる瞬間も安子の時だけでなくこれからも印象的に描く予定です。色々な物事の“はじまりの瞬間”を。見届けた上で、その後をずっと見守っていくというのがこの物語の醍醐味の一つなのかもしれないと思いました。

また、僕は『カムカムエヴリバディ』の裏テーマは“積み重ね”だと思っています。朝ドラの「1日15分」というペースは、語学学習にもぴったりなんです。それは藤本さんが英語講座の話をドラマにしようと考えたことのきっかけにもなったそうです。ラジオ放送がはじまった日に生まれた安子が、英語講座を聞きながら必死に学びを積み重ねていきます。……そんな小さな1日1日の積み重なりが最終的に今に繋がっていくことがドラマの中で描かれていきます。

――はじまりと繋がりがあれば、そこに死もあって……。最近の朝ドラに限らずドラマでは死の瞬間を描かないことも増えました。ナレ死など省略することが多いです。『カムカム』第14回は、杵太郎の死を送るひさや安子が描かれしみじみいいシーンでした。『カムカム』では終わりの瞬間もしっかり描きますか。

堀之内 少なくとも第3週はしっかり描く必要がありました。第14回では、杵太郎の死が千吉と金太を引き合わせ、の原点の話を通じて互いを理解し合うという作劇になっています。また大好きなおじいちゃんを亡くして辛い時でも安子が見ず知らずのお客さん(千吉)を思いやることができるような優しい人柄の持ち主であることも表現できます。

ドラマ全体として、「死を逃げずに描きましょう」とチームで話し合ったことはないですが、必要があれば丁寧に描いていくと思います。僕らにはどうにもできないような大きな力で、今まで当たり前にあったことが壊されて、絶望してしまうことはあると思います。でも、そんな時でも必ず希望はある。そんな状況でも立ち上がる人々人間の力強さを描ければ、と考えています。

悲しいことの描き方をどうするか、いろんな考え方があると思います。あえて描かない方法もあります。僕が以前携わった朝ドラの『まんぷく』では、第2週で内田有紀さん演じるヒロインの姉が亡くなったものの、そこから誰も亡くなりませんでした。最後に松坂慶子さん演じるヒロインの母が亡くなるエピソードを描くかどうかみんなで悩みましたが、最後まで明るくいくことが『まんぷく』の物語にはふさわしいんじゃないかと考えてこうと生前葬にした、ということもありました。

「明日の放送を見たいからがんばれるという方もいるんですよ

堀之内 何かをどう描くかは物語のトーンやテーマによって変わります。ただ僕が朝ドラを作る時、いつも頭に浮かべるのは、病院で見ていらっしゃる方のことです。以前、取材で病院を訪れた時、ほとんどの病室では毎朝、朝ドラを見てくださっていると看護師さんから伺いました。「明日の放送を見たいからがんばれるという方もいるんですよ」と聞いて、そういう存在である朝ドラってすてきだなと思いました。毎回、明日や来週の放送が楽しみになるようなドラマになるようにと願いながら制作に臨んでいます。

〜取材を終えて〜

はじまりがあれば終わりもあるもの。けれど、心を繋いでいく人がいればけっして終わりではなく続いていく。『カムカムエヴリバディ』はそうやって人と人を繋いでいく100年の物語だと感じた。

『カムカムエヴリバディ』第3週より  写真提供:NHK
『カムカムエヴリバディ』第3週より  写真提供:NHK

連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』

毎週月曜~土曜 NHK総合 午前8時~(土曜は1週間の振り返り)

制作統括:堀之内礼二郎 櫻井賢

作:藤本有紀

プロデューサー:葛西勇也 橋本果奈 斎藤明日香

演出:安達もじり 橋爪紳一朗 深川貴志 松岡一史

音楽:金子隆博

主演:上白石萌音 深津絵里 川栄李奈

語り:城田優

主題歌:AI「アルデバラン」

フリーライター/インタビュアー/ノベライズ職人

角川書店(現KADOKAWA)で書籍編集、TBSドラマのウェブディレクター、映画や演劇のパンフレット編集などの経験を生かし、ドラマ、映画、演劇、アニメ、漫画など文化、芸術、娯楽に関する原稿、ノベライズなどを手がける。日本ペンクラブ会員。 著書『ネットと朝ドラ』『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズ・ルポルタージュ』、ノベライズ『連続テレビ小説 なつぞら』『小説嵐電』『ちょっと思い出しただけ』『大河ドラマ どうする家康』ほか、『堤幸彦  堤っ』『庵野秀明のフタリシバイ』『蜷川幸雄 身体的物語論』の企画構成、『宮村優子 アスカライソジ」構成などがある

木俣冬の最近の記事