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フランスとドイツの国債の利回り格差が拡大

久保田博幸金融アナリスト
(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 「牛さん熊さんの本日の債券」の朝の部のなかで、ドイツとフランス、イタリア、英国の10年国債の利回りも出している。ただ、ユーロ圏の国債については、ほぼ動きが一緒であり、ドイツとフランス、イタリアを出す必要があるのかと考えていた。

 どうしてユーロ圏の3つの国の10年国債の利回りをいまだにチェックしているのか。それは2010年のユーロの信用不安によるものである。この際にユーロ圏でのベンチマークとなっているドイツと信用不安が強まっていたイタリアの国債利回りなどと大きな格差が生じていた。その信用不安の度合いを確認するためであった。

 しかし、日本でアベノミクスが登場したタイミングでユーロの信用不安は急速に後退していた。それ以降はユーロ圏3か国の10年債利回りを表示する意味合いは薄れていた。

 ところがここにきて再び、ユーロ圏3か国の10年債利回りを表示する意味が生じてきたのである。

 フランスとドイツの10年国債の利回り差(独仏スプレッド)が14日に約77ベーシスポイントと2017年以来、7年ぶりの高水準まで拡大したのである。ユーロ圏の国債のベンチマークとなっているドイツの10年国債の利回りに比べてフランスの10年国債の利回りが大きく上昇(価格は下落)したのである。

 欧州議会選挙の結果を受けて、フランスのマクロン大統領は欧州議会選での極右RNの躍進と与党の劣勢を受けて、国民議会(下院)を解散すると発表した。

 投資家はこのマクロン大統領の突然の解散・総選挙決定に不安を抱いた。もし右政党の国民連合(RN)が勝利すれば、財政政策が放漫になりかねず、赤字を拡大させるリスクがあるとしたのである。いわフランス版のトラス・ショックを警戒したのである。

 2022年9月に大規模な減税を打ち出した英国のトラス政権に対し、市場が危機感をおぼえ英、ポンドが対ドルで過去最安値を記録し、英国債が大きく売られた。これがトラス・ショックと呼ばれた。

 フランス国債の価格下落は日本の投資家にも影響を与えかねない。財務省が公表する2023年末の証券投資残高を見ると、社債なども含むフランスの債券の残高は25兆円と米国の159兆円に次ぐ規模となっているためである。

 極右政党の国民連合(RN)を率いるマリーヌ・ルペン氏が次期国政選挙で勝利した場合、マクロン大統領と協力すると発言した。これを受けてフランス国債への売り圧力はやや後退した。しかし、それでもリスクは残る。

 フランスでは6月30日に第1回投票、7月7日に決選投票を実施する。7月下旬のパリオリンピック開幕を前に総選挙という状況となっている。これがどのような結果となるのか。こちらの動向にも注意する必要がありそうである。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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