Q&A 大麻取締法の基礎知識
大麻取締法について、誤った理解や不正確な情報があるようですので、Q&A形式で大麻取締法の基礎知識をランダムにまとめてみました。
■大麻は麻薬ですか?
これは、大麻は覚せい剤ですか、という質問と同じで、大麻と麻薬は別物です。
時代によって法令上「麻薬」と呼ぶ物の内容は異なっていますが、あへん法や麻薬及び向精神薬取締法で取締りの対象となっているのが広い意味での「麻薬」(あへん、けし、モルヒネ、ヘロインなど)であり、大麻取締法で規制対象とされている、「大麻草(カンナビス・サティバ・エル)及びその製品」(大麻取締法第1条)が「大麻」です。ただし、大麻草の成熟した茎およびその製品(樹脂を除く)、それに種子(発芽能力は関係なし)は含まれません。
■大麻の成分の何が問題なのですか?
大麻には、樹脂、ロウ、製油などが含まれていますが、テトラヒドロカンナビノール(THC)と呼ばれる物質が幻覚作用をもたらす本体だと言われています。THCの含有量は、樹脂、花、葉の順に少なくなり、茎、根、種子にはほとんど含まれていません。
大麻草の産地によってもTHCの含有量は異なり(1~12%)、日本産の大麻では1%程度だと言われています。日本ではTHCを含まない大麻草も栽培されているようです。
なお、大麻草は、日本では古くから茎は繊維として、種子は製油原料、香辛料(七味唐辛子)などに利用されてきました。
■「カンナビス・サティバ・エル」とは、どういう意味ですか?
これは、大麻の学名(Cannnabis sativa Linne)です。「カンナビス」が属名で、「サティバ」が種名、「エル」は、生物分類学で有名なリンネの頭文字です。
大麻草は、植物学界では〈一属一種の植物〉だとされていて、カンナビス属に属する植物をすべて「大麻」として規制するというのが法の趣旨です。つまり、カンナビス属には複数の種があることを前提にして、その中でも特に「サティバ・エル種」のみを選別して規制するということではありません(最高裁昭和57年9月17日判決)。
日本産か外国産かの区別もありません。したがって、大麻取締法にいう「大麻草」には、日本で古くから普通に栽培されてきた麻(あさ)も当然に含まれます。
■幻覚作用をもたらすTHCの含有量によって規制は異なるのでしょうか?
大麻取締法は、大麻草にTHCが含まれていることを規制の根拠としていますが、所持や栽培している大麻に現にTHCが含まれていることは規制の要件とはしていません。あえて言えば、大麻取締法は、THCを規制する法律ではなく、大麻草を規制する法律なのです。
つまり、(この点は大事な点なのですが)違反行為の対象となった個々の物件が「大麻」である限り、THCが含まれていようがいまいが、大麻取締法の適用を受けるのです。たまたま自分がもっていた大麻にTHCが含まれていなかったとしても、大麻取締法違反となります。
現在は、THCは化学的に合成することが可能ですし、また、日本ではTHCを含まない大麻も栽培されているようですから、THCを含まない大麻草がカンナビス属の新たな種として固定されるようになれば、この種の大麻草を規制から外すことを検討せざるをえなくなると思います。現在でもTHCの含有量にかかわらず、一切の大麻草を規制することに合理性があるのかは疑問の余地があります。
■大麻規制は、戦後になってアメリカが強制したのですか?
一部で誤解があるようですが、実は、日本では戦前から大麻規制が行われていました。
昭和5年に「(旧)麻薬取締規則」が実施され、大麻草とその樹脂が〈麻薬〉として規制されました。ただし、このときは陶酔感の比較的強いいわゆる「インド大麻」に関するものであり、日本で古くから栽培されてきた大麻草は規制の対象外でした。
戦後(昭和22年)、GHQ(連合軍最高司令官総司令部)の意向で、「大麻取締規則」が制定されました。ここで初めて規制対象が「大麻(印度大麻を含む)」とされて、大麻草一般に広がりました。昭和23年には、大麻取締法が制定され、繊維または種子の採取を目的として大麻の栽培をする者、そういう大麻を使用する者は、いずれも、都道府県知事の免許を受けなければならないことになり、また、大麻から製造された薬品を施用することも、その施用を受けることも制限されることになりました。
その後、平和条約発効後(昭和27年)、占領時の法制度を見直す中で、国産大麻の毒性の少なさから、大麻取締法の廃止も真剣に検討されたようですが、結局廃止にはいたりませんでした。
■GHQが大麻規制を強化したのは、なぜでしょうか?
これはよく分かりませんが、内閣法制局長官であった林修三氏が、「時の法令」という小冊子で次のように書かれていることが参考になると思います。
■大麻の使用(吸引)じたいは犯罪ではないというのは本当ですか?
これはその通りです。
大麻に関する一般的な罰則は、次のようになっています。
第24条大麻を、みだりに、栽培し、本邦若しくは外国に輸入し、又は本邦若しくは外国から輸出した者は、7年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、10年以下の懲役に処し、又は情状により10年以下の懲役及び300万円以下の罰金に処する。
3 前2項の未遂罪は、罰する。
第24条の2大麻を、みだりに、所持し、譲り受け、又は譲り渡した者は、5年以下の懲役に処する。
2 営利の目的で前項の罪を犯した者は、7年以下の懲役に処し、又は情状により7年以下の懲役及び200万円以下の罰金に処する。
3 前2項の未遂罪は、罰する。
このように、大麻取締法には、大麻を吸引する行為(使用)についての処罰規定はありません。その理由はよく分かりませんが、吸引については所持を伴うことが多いので、所持罪で対処する趣旨だと思われます。なお、所持とは、大麻を単に持ったり、大麻に触れたりすることではなく、大麻を管理し実力支配に置くことですから、たとえば偶然大麻パーティ参加してしまい、たまたま大麻を吸ってしまったという場合には、所持罪の成立も難しいと思います。
大麻取締法に使用罪がないことの理由として、最近の国会で次のような政府答弁がなされていて、参考になると思います(要するに、それほどの身体的害悪はないということでしょうか?)。
大麻取締法は、大麻が持っている薬理作用によって人の健康ひいては社会に危害が及ぶとの前提で、大麻の流通過程に規制が加えられているわけですが、現実にこのような危害が生じたことやその具体的な危険が生じたことは要件とされていません。大麻の乱用が社会秩序を乱し、保健衛生上の危害を生じさせる抽象的な危険があるということが処罰の理由ではないかと思われます。その意味では、健全な性秩序を守るために必要だとされている、刑法175条のポルノ規制と同じような問題があるように思います。大麻規制は、現代社会における価値観の多様性に揺れる法規制ではないでしょうか。(了)
【参考】無数の文献がありますが、特に次の2点をあげておきたいと思います。
- 植村立朗「大麻取締法」(『注解特別刑法第5ーII巻』〔医事・薬事編(2)[第2版]〕、青林書院、1992年5月)
- 武田邦彦『大麻ヒステリー』(光文社、2009年6月)