桜を見る会で問題になっている公選法における〈寄附の禁止〉について
■はじめに
民主政治を支えるのは、多数決の原理です。より多くの国民の意見を代弁する代表者を選挙で選び、その代表者が政策を議論し、決定することによって政治の安定化が図られます。選挙は、民意を政治に反映させて国や地方の安定化を図り、国を発展させるための重要な制度です。したがって、政治家(候補者、立候補予定者、公職にある者)やその後援団体、関係する会社などが、有権者に金銭や物品を提供すること(寄附)は、有権者の投票行動に重大な悪影響を与える行為であり、公職選挙法(公選法)が厳に禁止しています。
公選法における寄附の禁止は、投票行動に対する影響の違いから、だれが、いつ(平常時か選挙前か)寄附を行うかによって細かく区別されています。しかし、政治家が行う寄附は社会的に見て許容される場合もありますので、そこにはグレーゾーンも生じ、分かりにくい構造にもなっています。そこで、改めて公選法が禁じる寄附について、政治家と後援団体の寄附を中心に整理しておきたいと思います。
なお、寄附とは、(借金の返済など債務の履行としてなされるもの以外で)金銭や食事、中元や歳暮、物品などの供与またはその約束のことです。
■1 政治家による寄附の禁止
(1) 平常時の寄附
公選法は、投票行動への影響という観点から、寄附がいつ行われるのかについて、平常時に行われる寄附と一定期間に行われる寄附の区別を設けています(後援団体も同じ)。
平常時とは、(2)の一定期間(選挙期間中)以外のことですが、この場合は、政治家による選挙区内の者に対するすべての寄附が禁止されます(違反した場合は、1年以下の禁錮又は30万円以下の罰金)。ただし、本人が出席する冠婚葬祭の祝儀・不祝儀については、通常一般の社交の程度を超えない程度であれば罰則の対象となる可能性は低いですが、その額が常識の範囲を超すと寄附と判断されることがあります。
なお、次の寄附は、社会的な許容範囲内にあるものとして、例外的に許されています。
- 政党や政治団体、親族への寄附
- 政治教育集会に関する(食事やその代金以外の)必要やむをえない実費の補償
「必要やむをえない実費」というのは、会場費やとくに地方などでは有権者が集会に参加するための交通手段が限られている場合がありますので、有権者を集めるためのバスのチャーター代などが考えられます。
また、政治教育集会といっても、(a)参加者に供応接待が行われるもの、(b)選挙区外で行われるものは、「政治教育集会」ではありません。「供応接待」とは、一般に酒食を供してもてなすことを言いますが、乾杯程度の酒の提供は許容範囲かと思います。
(2) 一定期間内(選挙前など)の寄附
国会議員や地方議会議員および首長の場合は、原則として任期満了前90日(あるいは解散の日の翌日)から選挙の期日までを「一定期間」として、この一定期間内の寄附については、上記の〔例外〕のうち2についても禁止されています。
■2 後援団体の寄附の禁止
(1) 後援団体とは
「後援団体」とは、政党その他の団体またはその支部で、政治家の政治上の主義主張や政策を支持し、その者を推薦したり応援することがその主な政治活動であるものをいいます。特定の政治家の後援会がその典型ですが、日頃は文化的活動や経済的活動を行っていても、付随的な活動として政治活動を行っており、その政治活動のうちでは特定の政治家を支持、推薦することが主な活動となっている場合も、それは「後援団体」に当たります。
(2) 平常時の寄附
次の例外を除き、選挙区内にある者に対する、すべての寄附が禁止されます(その後援団体の役職員又は構成員として違反行為をした者は、50万円以下の罰金)。
〔禁止の例外〕
- 政党その他の政治団体またはその支部に対する寄附
- 当該後援団体が推薦または支持する公職の候補者等に対する寄附
- 当該後援団体の「設立目的により行う行事又は事業」に関してなされる寄附(花輪、供花、香典、祝儀その他これらに類するものとしてなされる寄附を除く)
「設立目的により行う行事又は事業」とは、その団体の設立目的(たとえば、特定の政治家の支持、応援など)の範囲内で行う、団体の総会や勉強会などの集会、見学、旅行その他の行事や印刷、出版などの事業のことです。
(3) 一定期間内(選挙前など)の寄附
上記の〔禁止の例外〕のうち、3についても禁止されます。
また、後援団体の総会その他の集会、後援団体が行う見学、旅行その他の行事において、当該選挙区内にある者に対する供応接待(通常用いられる程度の食事の提供を除く。)、金銭、記念品その他の物品の供与は禁止されています(50万円以下の罰金)。
■まとめ
ホテル・ニューオータニで行われた「桜を見る会」前夜祭について、(ホテルのホームページによると)本来ならば1人1万1000円かかるところを5000円の会費で行われたことから、差額については公選法が禁止する後援団体の寄附に当たるのではないかが指摘されています。もちろん、現時点では、実際に値引きがあったかどうかは明らかにはなっていませんし、当日の料理の中身が5000円に見合うものならば寄附は問題にならないのですが、値引きも行っておらず、差額分を後援団体が補填していたとなると、前夜祭は上記の禁止の例外に当たるものではないので、公選法違反という可能性が強くなってきます。
ところで先日、ある地方都市の首長の後援団体が行った行事について、「桜を見る会」前夜祭とまったく同じ問題のあることが指摘されました。
京都新聞:支援者飲み食い139万円負担 市長後援団体「弁護士と相談、適正」 京都・福知山(2020年2月12日)
これは、京都府福知山市の大橋市長の後援団体が、2016~18年にかけて市内の支援者が出席した「世話人総集会」で、参加費の一部(1人当たり2000円~2500円)を負担していたというものです。記事によると、会では市長が市政報告を行い、その後、酒食が提供されたということです。代理人弁護士によると、同会は公選法で認められている「『設立目的により行う行事または事業に関する場合』に当たり、法的に問題はない」と主張しているとのことです。
しかし、第一に、酒食が提供されている点で禁止される「供応接待」に当たるのではないか、第二に、1人当たり2000円~2500円の補填ということはもはや常識の範囲を超えているのではないかという疑問が残ります。
このようなケースは全国にあるのではないかと想像されますが、福知山市のケースについて、同市の選挙管理委員会はどのように判断するのでしょうか。桜を見る会の問題にも大きく影響するところだと思います。(了)