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暑い夏の夜、熱中症になりやすい子どもがぐっすり眠るには

西多昌規早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

子どもは暑さに弱いのか?

 子どもは、高齢者と同じように暑さに弱いと思われている。2017年度の東京消防庁による熱中症の救急搬送者は計3167人のうち、約半数(48.4%)は65歳以上の高齢者であった。一方で、6〜12歳は3.3%、13〜15歳は4.0%である。人口構成を考慮しても、高齢者よりは熱中症の頻度は少なく、成人とほぼ同じレベルと考えられる。

 子どもが暑さに強いのか、弱いのか、はっきりした答えは、意外なことに出ていない。32〜35℃程度では、子どもの体温調節機能はおとなと変わらないという報告もあるが、臓器への影響などはわかっていない(1)。

 子どもは身長も体重も小さいとはいえ、体重当たりの体表面の面積(体表面積)は、おとなに比べて15%程度大きい。体重当たりの体表面積が大きければ、外の環境からの影響を受けやすくなる。暑さによる外部の熱が、おとなに比べて体内に向かいやすくなるため、高体温の危険性が高まる。

 こう考えると、高齢者ほど弱くはないにせよ、おとなよりは暑さに弱いと考えるのが妥当かつ安全である(2)。子どもが暑さに弱い理由を、体温調節にとって欠かせない血流や発汗の点からみてみる。

親の眠りにも影響を与える発汗と寝相

 子どもは、皮膚血流量がおとなに比べて大きい。子どもは、おとなに比べて、皮膚の血管をより収縮・拡張させて、多くの血液をからだの深部から表面に再分布させて体温を調節していることになる。

 一方、子どもの発汗機能はまだ発達しておらず、発汗量はおとなに比べて劣っている(3)。子どもはよく汗をかくように見えるが、これはおとなよりも体表面積が小さいため、汗腺の密度が高くなるからである。

 実際に夏の夜、子どもが眠っているのを見ると、汗をたくさんかき、寝相が悪いイメージが強い。寝ているときの子どもの発汗量は、年齢や温度・湿度によっても異なるが、夏は一晩で0.5〜1リットル近くまで増えると考えられている。そうすると、寝具内の温度も湿度が上がり、蒸れてしまう。より寝やすい環境を整えようと、無意識に寝返りを打ってふとんの中の温度・湿度を変えようする。したがって、ふとんをはねのけるなど、寝相が悪くなるわけだ。

 添い寝していれば、子どもの寝相の悪さは、親の不眠にもつながってくる。寝相をよくするための環境調整は、子どものためだけでなく、親の健康のためにも重要だ。

パジャマの着せすぎ、エアコンの効きすぎを察知するには

 血流や発汗など自律的な体温調節を述べてきたが、もう一つ、重要な体温調節の方法がある。寒いときにふるえる、体を丸くする、布団を掛けたり衣類を着たりなど、行動による体温調節である。

 子どもは自分で衣服の調節をしたり、エアコンのリモコンを操作したりして温度を変えることは難しい。乳幼児においては、そもそも、温度に関して自分の欲求を他人に伝えることも難しい。からだの動きなどを観察し、温度環境を調整することは非常に重要である。

 部屋の温度が高すぎる、ふとんや寝衣の着せすぎは、夜泣きの原因となりやすい(4)。逆にエアコンの設定温度が低すぎて寒いとき、送風が直接当たってしまうときなどには、ふるえや体を丸めるなどの行動が見られる。子どもがこういった行動をしていないか、注意する必要がある。

子どもにとって夏の快適な睡眠環境とは

 暑い夏の夜は、おとなにとっても温度調整が難しい。乳幼児の場合は親といっしょに寝るので、親と合わせた温度調整が必要である。熱帯夜のように夜間も高い温度が続くときは、おとなと同じように、エアコン設定温度は27〜28℃と高めに設定して、一晩つけておくのがベターではないかと考える。

 ただし、子どもが布団を深く被ろうとしたり、体をまるめたり、ふるえたりなど体温を上げる行動が見られるならば、温度をやや上げる、エアコンをタイマーで切れるようにする、寝具をかけてあげるなどの調整が必要だろう。

 手足を出したままの悪い寝相については、まったく問題ない。これまで述べてきたように、皮膚血流を増加させ、汗を蒸発させやすくするためには、合理的な寝姿だ。また子どもは基礎代謝量が高いので、ふとんから飛び出して寝ていても簡単に風邪をひくことはない。ただ腹部が冷えると腸の動きが活発になり過ぎ、下痢を起こしやすい。体幹部の冷えを防ぐもの、たとえば腹巻きは推奨されるアイテムである。

 やはり重要なのは、汗対策だ。具体的には、部屋の除湿、寝具やパジャマの吸水・吸湿性に気をつけたい。寝ているときの子どもの発汗量は、温度・湿度やふとんなどによっても異なるが、夏のほうが圧倒的に多い。

 炎天下で運動しているときなどに比べれば、安静にしている睡眠中は血流に過度な負荷がかかっていないため、熱中症のリスクは高くない。しかし、あまりに蒸し暑い環境、あるいは汗でべちゃべちゃの寝衣では、ただでさえおとなに比べて劣る発汗による体温調節の働きが落ちてしまう。寝相も、悪くなる一方だ。

 部屋の温度だけでなく適度な湿度を保つためにも、エアコンを活用しよう。衣類を着せすぎず、吸湿性のいい寝具、パジャマ(具体的な製品紹介は避けるが)を選んであげることがなにより大切だ。

1. Delamarche P1, Bittel J, Lacour JR, et al. Thermoregulation at rest and during exercise in prepubertal boys. Eur J Appl Physiol Occup Physiol. 1990;60(6):436-40.

2. Sawka MN, Wenger CB, and Pandolf KB. Thermoregulatory responses to acute exercise-heat stress and heat acclimation. In: Fregly MJ and Blatteis CM (eds) Handbook of Physiology, Section 4, Environmental Physiology. Oxford University Press, New York, Section 4, 1996, pp. 157-185.

3. Wagner JA, Robinson S, Tzankoff SP, et al. Heat tolerance and acclimatization to work in the heat in relation to age. J Appl Physiol. 1972;33(5):616-22.

4. Wailoo MP, Petersen SA, Whitaker H. Disturbed nights and 3-4 month old infants: the effects of feeding and thermal environment. Arch Dis Child. 1990;65(5):499-501.

早稲田大学教授 / 精神科専門医 / 睡眠医療総合専門医

早稲田大学スポーツ科学学術院・教授 早稲田大学睡眠研究所・所長。東京医科歯科大学医学部卒業。自治医科大学講師、ハーバード大学、スタンフォード大学の客員講師などを経て、現職。日本精神神経学会精神科専門医、日本睡眠学会総合専門医など。専門は睡眠、アスリートのメンタルケア、睡眠サポート。睡眠障害、発達障害の治療も行う。著書に、「休む技術2」(大和書房)、「眠っている間に人の体で何が起こっているのか」(草思社)など。

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精神科医の西多昌規(にしだ まさき)です。メディアなどで話題となっている、あるいは世間の関心を集めている事件や出来事を、精神医学やメンタルヘルスから読み解き、独自の視点をもとに考察していきます。医療・健康問題だけでなく、政治経済や社会文化、芸能スポーツなども、取り上げていきます。*個人的な診察希望や医療相談は、受け付けておりません。

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