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英国でも買いだめの兆候 -モノ不足の背後にある国民の不安感

小林恭子ジャーナリスト
英商工会議所の年次会議の入り口付近で。殺菌スプレーが見える。右端がハンコック大臣(写真:ロイター/アフロ)

 新型コロナウィルスの感染が拡大している。日本ではトイレットペーパーなど紙製品が品薄になるというデマが流れ、「なかなか買えない」という状況が生じた。

 筆者が住む英国で、同様の事態は発生するだろうか?

 マスク姿の人々の画像は、世界中で新型コロナウィルスが広がっていることを示す象徴として使われてきたが、英国では、感染予防としてマスクをつける人はほとんどいない。普段から、マスクをつけるのは医療関係者ぐらい。今回も、筆者は実際にマスクをかけた人を見ていない。

 しかし、英政府統計によると、5日午前9時時点で感染者が115人に達し(検査を受けた人は1万8083人、1万7968人が陰性)、英国内での死者も初めて出たことから、緊迫感が高まってきた。

 5日夕方、買い物のために外に出ると、近所の中国人の母親がトイレットペーパーが入った大きな袋を抱えて歩いていた。私の顔を見ると、「トイレットペーパーも、除菌ジェルやスプレーも買えなくなっているわよ」と教えてくれた。

 彼女はいったん家に戻って、除菌スプレー、手拭きティッシュなどが入った袋を持ってきて、私に手渡した。「余分に買っておいたから」、と。

 そこで私は、薬局をのぞいてみた。まず、チェーン店の「Boots」に入ってみた。いったいどこに除菌関係の品物を置いているのかわからないので、店内をうろうろした。ほかにも、何かを探しているような買い物客がいた。

 「除菌ティッシュ、ありますか?」と店員に聞いてみると、数個のウェットティッシュのパッケージを出された。「これしか残っていません」。ウェットティッシュ12枚入りで1ポンド(150円)。ひとまず、1つ、買った。

 別の薬局では、いつもは除菌ジェルを置いていたところに「品切れ」の貼り紙があった。

 3番目の薬局では、ドアに「除菌ジェルもマスクもありません」という貼り紙があった。

 なんだか、深刻なことになっているのかもしれない、と筆者は思い始めた。

スーパーの棚がすかすか

 スーパーの1つ、「セインズベリーズ」に行ってみた。

 ここで私は衝撃を受けた。トイレットペーパーの棚には何も残っていなかったのである。

トイレットペーパーの棚はガラガラ(撮影筆者)
トイレットペーパーの棚はガラガラ(撮影筆者)
おむつの棚の様子(撮影筆者)
おむつの棚の様子(撮影筆者)
赤ちゃん用ミルクの棚(撮影筆者)
赤ちゃん用ミルクの棚(撮影筆者)

 ほかの棚も見てみると、ティッシュ類、おむつ、ピザなどの棚にかなりの空きがあった。店内をぐるっと回ると、どの棚もいつもよりは隙間が多い。生鮮食品を除き、どの商品もよく買われているようだった。石鹸類、除菌ジェル類、トイレットペーパーなどが特に売れていた。

 マット・ハンコック保健大臣は「食物が不足することはない」と語っている。

 2日ほど前に、セインズベリーズの元CEOジャスティン・キング氏も、BBCラジオのインタビューで「品切れになることはないと思う。在庫調整で対応可能だ」と話していた。

 一般消費者がやや多めに商品を買っても、確かに調整はできるのだろうが、隙間が多い棚を見ていると、「物がなくなるかもしれない」、「売り切れてしまうかもしれない」という不安感が伝わってきた。

 実際に自分や家族、あるいは知人が新型コロナウィルスに感染する可能性、あるいは死に至るほど重大となる可能性が低くても、漠とした不安感は募るばかりのこの頃だ。

 英政府は、「封じ込め」「遅延」「研究」「鎮静」の4段階の行動計画を発表している。現在は、第2段階の「感染流行を遅らせる」段階に移行している。具体策はまだ決まっていないが、集会などの禁止、学校の休校措置、公共交通機関の利用を控えるよう呼びかけることなどが想定されている。

ジャーナリスト

英国を中心に欧州各国の社会・経済・政治事情を執筆。最新刊『なぜBBCだけが伝えられるのか 民意、戦争、王室からジャニーズまで』(光文社新書)、既刊中公新書ラクレ『英国公文書の世界史 -一次資料の宝石箱』。本連載「英国メディアを読み解く」(「英国ニュースダイジェスト」)、「欧州事情」(「メディア展望」)、「最新メディア事情」(「GALAC])ほか多数。著書『フィナンシャル・タイムズの実力』(洋泉社)、『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス』(洋泉社)、共訳書『チャーチル・ファクター』(プレジデント社)。

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