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発売から30年、聴き手からも制作側からも愛され続ける「ゲワイ」の先進性と普遍性  

田中久勝音楽&エンタメアナリスト
『Get Wild』(完全生産限定盤/4月12日発売)

ニュースにもなった「ゲワイ」

先日、Yahoo!ニューストピックスのトップに、“TM NETWORK 全曲「Get Wild」アルバムに不備 同バージョンを重複収録」という見出しが躍り、「Get Wild」が思わぬところで注目を集める事になった。

TM NETWORKが1987年に発売した名曲「Get Wild」は、発売から30年の時を経て今また「ゲワイ」として親しまれている。4月8日にオンエアされた『バナナ♪ゼロミュージック』(NHK)では、同曲を愛してやまないバナナマン・日村勇紀が、番組オリジナルの「Get Wild」を制作し、この作品の作者・小室哲哉と共演を果たした。

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また、エイベックスと共にソニー・ミュージックダイレクトからも、「ゲワイ」のアニバーサリーアイテムが発売されていて、2004年に発売された、TM NETWORKデビュー20周年集大成BOX『WORLD HERITAGE~DOUBLE DECADE COMPLETE BOX~』が、2017年リニューアル版として3月21日に13年ぶりに再リリースされた。ここに収録されているディスク「GROOVE GEAR」では、ファンにはおなじみの小室哲哉による「Get Wild」のデモ音源「Get Wild(Ver.0)」を聴くことができるが、この完成度の高さには、改めて驚かされる。常にテンポ(BPM)と伝達量(言葉数)を意識して作品作りをしていたTKサウンド、メロディの秘密を垣間見ることができ、「ラララ」という小室による仮歌に使われている言葉も、しっかりリズムを持ち、詞はこの時点ではできていないが、“入るべき言葉が持つリズム”をデモで表現している。

TM NETWORKというアーティストは、当時の流行りの音楽の、何歩も先に行く先進的な音楽をどんどん提示していた。例えばこれはファンにはおなじみの逸話だが、「ゲワイ」は、スネアドラムなしでリズムを作っており、当時ドラムでスネアを使わなという選択肢はなかった。これについては4月8日に、音楽サイト「OTONANO」上で配信された、木根尚登(TM NETWORK)がパーソナリティを務めたネットラジオ特番「ゲワイハンター~名曲に隠された謎を解明せよ!」の中で、TM NETWORKには欠かすことができないアーティスト・浅倉大介が語っている。「(個人的な見解ですが、)スネアの音色にはその時代時代の音がある。だからこの音を抜いた事が、「ゲワイ」が時代を感じさせず、時代を超えて愛される曲になった秘密だと思う」(浅倉)。

また『WORLD HERITAGE~』の担当ディレクターで、エピックレコード時代に、長年TM NETWORKに関わり、1990年から3年間小室哲哉ソロのアーティスト担当だった福田良昭氏(ソニー・ミュージックダイレクト ストラテジック制作グループ・制作1部部長)は「TM NETWORKは、小室さんが新しいものを取り入れたり、斬新なトライアルを繰り返した10年間だった。小室さんには先見性というか、データに裏付けられた勘があったと思う。「Get Wild」のオリジナルにスネアを入れないというのも、当時はそれを許容するのは難しかったはず。でも新しい発見だった。その後のダンスミュージックの先駆けだったのかもしれない」と「ゲワイ」が持つ先進性と普遍性の秘密を語っている。

「ゲワイ」の幻のオリジナルアナログテープを、28年ぶりに使用したアナログ盤に集まる注目

『Get Wild』(12インチアナログレコード)
『Get Wild』(12インチアナログレコード)

「ゲワイ」はアナログレコードの魅力が再評価され、ブームとなっている今、4月12日に初の12インチアナログレコードとして発売される。これは代表的な4バージョンを収録した12インチアナログレコードで、中でも「Get Wild ‘89」は、今回の制作過程で発見されたオリジナルアナログテープ(リミックスを担当した“PWL”のロゴが入ったテープ)の音源を、オリジナル盤以来28年ぶりに使用した、ファンにとっては垂涎ものの貴重な作品。「オリジナルをトラックダウンしたままの、いわゆる1stジェネレーションからコピーした、2ndジェネレーションといわれるアナログテープから、オリジナル以降はコピー、マスタリングを施して商品化していたようです。それで今回、1stジェネレーションのオリジナルアナログテープを聴いてみて、「Get Wild’89」の音と波長を合わせてみたところ、同じだという事が証明されたので、使用しました」(福田氏)。“元の元”の音が28年ぶりに甦り、しかも情報量が豊富で、再現性が高いアナログ盤という事で、当時の“最先端のデジタルの生々しい音”を楽しむことができる。ちなみにこのアナログ盤の発売日には、「Get Wild」のオリジナルバージョンが初めてハイレゾで配信される。アナログ盤と聴き比べてみるのも面白そうだ。

聴き手からも制作側からも長年愛され続ける「ゲワイ」

TM NETWORK
TM NETWORK

「Get Wild」は当時、人気アニメ「シティハンター」のエンディングテーマとして起用され、TM NETWORKというアーティストとその音楽性とが幅広い層まで広がった。カットが多用され次々と変わっていく「シティハンター」のエンディングシーンと、「Get Wild」が持つメロディの良さ、スピード感と転調とキメの多さによるインパクトとが完全にシンクロし、一度観、聴くと忘れられない衝撃を与えてくれる。音楽と映像の融合をテーマにしていたTM NETWORKの、ひとつの理想の形がこの「Get Wild」×「シティハンター」だったのかもしれない。その「シティーハンター」のイラストを使用したジャケットが、アナログ盤には封入される。ジャケットのイラストは1987年に発売された「Get Wild」のオリジナルシングルや、1989年にリリースされたサウンドトラック『CITY HUNTER Dramatic Master』のブックレットに使用されたもので、改めてポジフィルムから再現したデータ3点を、今回のジャケットでは文字を入れずに使用している。また、ライター藤井徹貫氏の手による、この楽曲の誕生秘話、エピソードも必読だ。

今も多くの人から愛され、そして音楽を作る側の人間の創作意欲を刺激し続けている名曲「Get Wild」。30年前のデジタルミュージック黎明期に、30年後も衰える事がない価値を生み出していた小室哲哉、TM NETWORKという才能は偉大であり、「ゲワイ」がその後のアーティスト、音楽シーン、さらにアニメソングに与えた影響の大きさは計り知れない。

「Get Wild」特設サイト

音楽&エンタメアナリスト

オリコン入社後、音楽業界誌編集、雑誌『ORICON STYLE』(オリスタ)、WEBサイト『ORICON STYLE』編集長を歴任し、音楽&エンタテインメントシーンの最前線に立つこと20余年。音楽業界、エンタメ業界の豊富な人脈を駆使して情報収集し、アーティスト、タレントの魅力や、シーンのヒット分析記事も多数執筆。現在は音楽&エンタメエディター/ライターとして多方面で執筆中。

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