Yahoo!ニュース

『24時間テレビ』を救った? 「やす子効果」の絶大さとYOSHIKIによる「紅」の生演奏

田辺ユウキ芸能ライター
(写真:REX/アフロ)

8月31日から9月1日にかけて放送された日本テレビ系のチャリティー番組『24時間テレビ47 愛は地球を救うのか?』。

瞬間最高視聴率となったのは、チャリティーマラソンのランナーをつとめたお笑い芸人・やす子のゴール後で、25.4パーセントを記録。番組全体の平均世帯視聴率は12.5パーセント。2023年の放送では瞬間最高視聴率が24.8パーセント、平均世帯視聴率が11.3パーセントだったことから、今回の放送がいかに注目されていたかが分かる結果に。

また今回は、番組がおこなう従来の募金とは別に「マラソン児童養護施設募金」も設定。この募金は、やす子がかつて過ごした児童養護施設への理解を深めるためにマラソンに挑んだことが由来になっている。こちらの募金額は4億3801万4800円に達した。

2023年の放送では、募金総額は8億4805万9341円だった。ただ同年11月、関係者による寄付金着服問題が明らかになり、同番組への不信感が募った。そのことから、番組を通じた募金は大幅に減額すると予想されていた。従来の募金総額は今後発表される予定だが、結果的にはこれまでと遜色がない額が、番組を通じて集まったのではないだろうか。

そう考えると2024年の『24時間テレビ47』は、「やす子効果」が絶大だったと言える。

ゴール後もとびっきりの笑顔、やす子の明るさが『24時間テレビ』を救った

やす子が走ったチャリティーマラソンは、台風10号の影響で企画内容が大幅に変更された。当初は、都内に設けられたコースを走るはずだったが、安全面を考慮して初日(8月31日)は横浜・日産スタジアムの400メートルトラックを周回することに。そして2日目(9月1日)早朝、スタジアムから公道コースへ出て、ゴール地点の東京・両国国技館を目指した。ただ初日の「周回コース」への変更は、SNSを中心に批判が殺到。やす子への同情も集まった。

なによりやす子自身、チャリティーマラソンの準備を進めるなか、タレントのフワちゃんによる不適切投稿の渦中にも置かれた。しかもなぜか、自身の発言や対応が誹謗中傷の的にもなった。やす子にとって、とてもしんどい数日間だったと思われる。

そういうトラブルもやす子への応援材料の一つになったのではないだろうか。ゴール後は、いつものように優しくてのんびりした口調ととびっきりの笑顔で、チャリティーマラソンを走った感想を話していた。その姿の印象も非常に良く、やす子のそのタレント性は、これからの日本経済にもなんらかの好影響を与えるのではないかと思わせるほどだった。

『24時間テレビ47』のテーマは、これまでの「愛は地球を救う」から「愛は地球を救うのか?」に変更された。その問いかけの答えは、今回ははっきり出なかった。ただ近年、批判が殺到している同番組やチャリティーマラソンの企画を救ったのは、間違いなくやす子だった。

チャリティーマラソンに不釣り合いに思えた「紅」、歌詞を読むと実はぴったりだった?

もう一人、『24時間テレビ』やチャリティーマラソンを救ったのがミュージシャンのYOSHIKIだ。

YOSHIKIは今回、チャリティーマラソンのやす子のラストスパート時に登場し、自身が在籍するロックバンド・X JAPANの人気曲「紅」(1988年/作詞・作曲:YOSHIKI)を高校生のブラスバンドと生演奏した(YOSHIKIはピアノを担当)。

チャリティーマラソンのラストスパート時の定番曲は、ZARDの「負けないで」(1993年/作詞:坂井泉、作曲:織田哲郎)だ。番組出演者がゴール地点の会場のステージで同曲を歌い、ランナーを後押しするのがお決まり。今回も同様の歌唱演出になるかと思われていた。そのため、前触れなしの「紅」への変更にSNSでは驚きの声が多数あがった(ただしお笑いトリオ、パンサーの向井慧が9月2日放送のTBSラジオ『パンサー向井の#ふらっと』で、『24時間テレビ』の放送作家から「時間の都合で『負けないで』を流すことができなかった」と聞いたと証言している)。

「負けないで」はそのタイトルがあらわしているように、「さまざまな困難を跳ね飛ばそう」というメッセージを聴きとることができる。また<ゴールは近づいてる>、<最後まで 走り抜けて>という歌詞も、マラソンにぴったりだ。そういったことから『24時間テレビ』のチャリティーマラソンには欠かせない楽曲となっていた。

では「紅」はどうなのか。X JAPANと言えば過激なライブパフォーマンスでも知られており、「紅」は観客を特に熱狂させるハードな曲調でおなじみだ。しかも「紅」は赤色を指す言葉であり、血を連想させたりもする。楽曲世界は退廃的。一見、『24時間テレビ』やチャリティーマラソンには不釣り合いに感じられる楽曲だ。

だが歌詞をよく見ると、<お前は走り出す 何かに追われるよう>とマラソンに関連付けられる言葉がたしかに出てきている。そのことから、マラソンとはまったく無関係というわけではない。さらに<閉ざされた愛に向かい 叫び続ける>という歌詞も、「まだ広く知られていない児童養護施設のことを伝えたい」というやす子の気持ちに重ねることができる。『24時間テレビ』での生演奏では歌は歌われなかったが、「紅」の歌詞は、いろいろ連想させるのもがあった。

あと「紅」は高校野球などでも応援歌として定着している。つまり、人を鼓舞するための楽曲なのだ。くわえてYOSHIKIは毎回、番組を通して支援を必要とする方へ多額の寄付をおこない、ノーギャラで出演していることも明かしている。『24時間テレビ』の本質を体現しているからこそ、今回のラストスパート時の演奏は適任だったと言える。

パターン化していたチャリティーマラソンに新鮮味

SNSでは、「負けないで」から「紅」へ変更されたことが話題になった。ネット記事では「賛否両論」とあり、SNSの投稿でも「ここは『紅』ではない気がする」といった感想もあった。しかし、意外性のある楽曲のチョイスを楽しむ感想も見られた。パターン化していたチャリティーマラソンに新鮮味を与えたと言って良い。

なにより瞬間最高視聴率を記録した場面が、やす子のゴール後、全国の児童養護施設の子どもたちや出身者たちのメッセージのVTRが流れ、そしてYOSHIKIらがやす子を労ったところだった。つまり瞬間最高視聴率の面でも、やす子、YOSHIKIの番組への貢献度が光った。

なにかと批判が多い『24時間テレビ』とチャリティーマラソン。しかし今回は、やす子の力走とYOSHIKIの「紅」生演奏に救われたのではないだろうか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

田辺ユウキの最近の記事