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来日したNBAレジェンドの地道な活動

林壮一ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属
レブロン、ウエイドとの<スリーキングス>でヒート黄金期を築いたボッシュ(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 血栓症を患い、長きにわたって治療を続けていたクリス・ボッシュが引退をアナウンスしたのは、今年の3月下旬であった。マイアミ・ヒートはボッシュの引退と同時に、彼の背番号「1」を永久欠番とした。

 身長211センチで、サウスポーの細身パワーフォワードだったボッシュは、トロント・ラプターズで7年、ヒートでは6シーズンプレー。ヒート在籍時の、2012、2013年にNBAを連覇。北京五輪では金メダルを獲得。オールスターに11回選ばれた男である。

 そのボッシュが、この程日本で催されるラプターズvs.ヒューストン・ロケッツのプレシーズンマッチに合わせて来日し、6日(日)に「NBA ミリタリーキット パッキング プロジェクト」に参加した。

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 これは、キャンプ座間の在日米陸軍メンバーとNBAレジェンドが、日本各地の孤児院の子供たちや米兵のためにスペシャルキットの袋詰めを行うものである。NBAとラスベガスの高級ホテル、MGMがパートナーシップを結び、実現した。

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 ボッシュは、自身と同じようにNBAの顔だったディケンベ・ムトンボ、ショーン・マリオン、そして35名の米軍兵士と共に、丁寧に文房具やシャツなどを袋に詰めた。

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 スーパースターの地道な活動は、米兵士達の胸を打ち、和やかな雰囲気のなかイベントが進んだ。

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 プロジェクト終了後、私はボッシュをインタビューした。

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 引退時、バスケットボールから離れることに恐怖を感じました。でも今は、バスケとは違う夢を追うことを楽しんでいます。いい父親、いい夫でありたいなと思っていますし、子供の将来が良きものとなることを祈りながら生活しています。このように各国を旅しながらバスケットボールを通じて世界中の人々に幸せを届けられたらな、と願っていますよ。

 私にとっては、今回が3度目の来日です。世界のあちらこちらでバスケットボールが行われるなか、このように地域のために働くことは、一見小さな活動かもしれません。が、いつか大きな物に繋がっていくように感じます。また、そう希っています。ファンや兵士のために出来ることをするというのは、私にとって非常に重要なことです。バスケットボールの普及と同じくらい大切なんですよ。

 本日、私が袋詰めをしたパックは、孤児院にも贈られると聞きました。ノート、本、鉛筆などを入れさせてもらいましたが、そういった物を何一つ手にできない、厳しい環境下で生きている子供もいる訳です。私が彼らの傍にいることや、会話をすることは、なかなか難しいですよね。住んでいる場所も離れていますし…でも、今、自分にできることが、このパック詰めなら、全力でやろうと考えました。

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 私は2度NBAチャンピオンになりましたが、「どれだけ真剣に成功を望んだかの気持ちの大きさ」が明暗を分けたと感じています。そういった気持ちが、何かに向かうこと、努力すること、コート内外での立ち居振る舞い、コミュニティーでの活動、その土地を敬う気持ち、周囲の人に与えることに繋がっていくんです。

 

 毎試合、自分の限界までハードにプレーしたつもりですし、同時にバスケを楽しんでいました。とにかく全力で、ネガティブな感情は捨てるように現役時代を過ごしましたね。

 選手生活最高の思い出は、やはり2度、NBA王者になれたことです。哀しかった思い出は、プレーじゃないな…。やっぱり負けたことでしょうか。体を壊してプレーできなかった時期もありました…。

 選手をやっていれば、調子がいい時も悪い時も、壁にぶつかることだって何度もあります。そこで肝心なのは、やはり勝利への意欲、成功に向かうモチベーションです。

撮影:岩尾陵佑(DZ)
撮影:岩尾陵佑(DZ)

 日本にもプロリーグが出来ましたね。バスケファンの子供たちに伝えたいのは、「もし、あなたがバスケを愛しているなら、日々、上達するようにハードに練習してほしい」ということです。日本人のNBA選手も誕生しています。彼らに続くように、そして私に続くように、高いモチベーションを持ち続けて下さい。

 今日より明日、明日より明後日、より良い選手になれるように努力して下さい。それと忘れてならないのは、ハードにプレーするのは勿論なのですが、バスケをとことん楽しむことです。それが、素晴らしいゲームを築くことになりますから。

ノンフィクション作家/ジェイ・ビー・シー(株)広報部所属

1969年生まれ。ジュニアライト級でボクシングのプロテストに合格するも、左肘のケガで挫折。週刊誌記者を経て、ノンフィクションライターに。1996年に渡米し、アメリカの公立高校で教壇に立つなど教育者としても活動。2014年、東京大学大学院情報学環教育部修了。著書に『マイノリティーの拳』『アメリカ下層教育現場』『アメリカ問題児再生教室』(全て光文社電子書籍)『神様のリング』『世の中への扉 進め! サムライブルー』、『ほめて伸ばすコーチング』(全て講談社)などがある。

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