サウジの考える居心地の良い原油価格は60ドル?
「原油市場の力学は、依然としてサウジアラビア中心で展開している」 2月25日の原油相場の値動きは、こうした印象を強く抱かせるものになった。
2月入りしてからの国際原油相場は、米国における石油リグ稼動数の急激や減少や石油会社の支出削減計画といった減産の兆候に下値を支えられる一方、実際にはシェールオイルの増産傾向が続き米国内の原油在庫が急増していることに上値を圧迫され、ICEブレント原油先物相場だと1バレル=60ドル前後、NYMEX原油先物相場だと50ドル前後の価格水準で身動きが取りづらい状況が続いていた。それでも最近はやや売り優勢の地合に傾いていたが、サウジアラビアのヌアイミ石油鉱物資源相の発言をきっかけに再び60ドル前後(WTI原油だと50ドル前後)の価格水準に対する居心地の良さが認識され始めている。
とは言っても、ヌアイミ石油鉱物資源相が何か誰もが想定していなかったようなサプライズ的な発言を行った訳ではない。同国ジーザンで開催された会議での演説後に記者からの質問に対して、「現在の(原油)市場は落ち着いている(calm)」、「需要は拡大している」と語っただけである。同相は、「落ち着きが欲しいため、原油に関しては話したくない」、「市場にボラティリティを持たすようなことは望んでいない」として、寧ろ原油相場に対して踏み込んだ発言を行うことを拒否する姿勢さえ示していた。
しかし、マーケットでは「原油安を誘導するような発言がなかった」という不作為が、サプライズと受け止められている。従来、同相は「原油相場が20ドル、40ドル、50ドル、60ドルだろうと重要ではない」として、供給過剰状態の解消を市場原理に委ねる方針を示していた。具体的には、過剰供給状態を解消するために、特に原油安で北米のシェールオイル増産にブレーキを掛け、自らの原油市場に対する影響力の強さを維持する姿勢を鮮明にしていた。
それが今回は見られなかったことが、サウジアラビアは60ドル前後(WTI原油だと50ドル前後)の値位置に居心地の良さを感じているのではないかとの観測を呼び起こしている。
今回の発言だけでは、サウジアラビアの真意までは分からない。石油輸出国機構内(OPEC)内の一部から減産を求める声が強くなっていることを受けて、緊急総会開催の必要性を否定するために「需要は拡大している」との楽観的な発言を政治的文脈で行っただけの可能性もある。
ただ、サウジが本当にこの価格水準に居心地の良さを感じているのであれば、原油相場急落後に収束する価格水準は60ドル前後となる説が有力になる。従来、中東産油国は100ドル前後の価格水準が産油国と消費国、更には石油会社にとって「居心地の良い(comfortable)」価格水準との評価を下していた。それが需要拡大ペースの鈍化と非在来型原油の大規模増産時代を迎える中、新たな均衡価格は60ドルとなる可能性が浮上している訳だ。