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ポーランド ワクチン反対デモでアウシュビッツ「労働は自由への道」に例えて炎上「ワクチンは自由への道」

佐藤仁学術研究員・著述家
(gromota提供)

「ワクチンは自由への道」

2021年12月にポーランドで新型コロナの感染拡大防止のfワクチン接種に反対するデモが行われていた。そのデモの中でポーランドの極右派の政治家らがアウシュビッツ絶滅収容所に掲げられている「労働は自由への道(ドイツ語でArbeit Macht Frei)」を模した内容で「ワクチンは自由への道(Szczepienie czyni wolnym)」とポーランド語で書かれたスローガンを掲げてデモを行っておりネットが炎上していた。

欧米ではワクチン接種を希望している人も多いが、政府からワクチン接種を強制されること、企業による従業員へのワクチン接種の義務化やレストランなどに入る際にワクチンパスポートの提示の義務化に反対している人も多い。欧米では「ロックダウンで外出が制限されたり、マスクの着用を義務付けられたり、ワクチン接種を強要されるといった、不自由な生活=ホロコースト時代のユダヤ人がゲットーに閉じ込められて迫害された不自由な生活」、「政府による強制的なロックダウンやマスク着用、ワクチン接種=ナチスドイツの全体主義」というイメージを持つ人が多い。

そして、このようにワクチン接種に反対してホロコーストに例えたデモは欧米ではよく見かける。そして、そのデモで、ワクチン接種の義務化に反対する人たちがナチスドイツの支配下のユダヤ人らが収容されて殺害された強制収容所の囚人服を模した服を着てデモに参加していることもよく見かける。そしてデモには多くの参加者がスマホを持参して動画をその場でネットにアップするので、デモのたびにネットは炎上している。

収容所のスローガン『労働は自由への道』

『ARBEIT MACHT FREI』とはナチスドイツ時代にユダヤ人やロマ、政治犯を強制収容していた収容所のゲートに掲げられていたドイツ語のスローガンで「労働は自由への道」という意味。強制収容所で働けば、自由になれるというナチスドイツの幻想的なスローガンだった。ナチスドイツの収容所は刑罰を受ける者を収容すること、必要な労働力を供給すること、絶滅・殺害の3つの大きな目的があった。つまり「労働によるユダヤ民族の絶滅」が政策の主軸であり、実際にはどれだけ働いても自由にはなれなかった。無料で使えるユダヤ人らに強制労働を強いてドイツ軍の必需品や生活用品などを作らせていた。映画「シンドラーのリスト」などでもユダヤ人の労働シーンは登場している。また労働に不適格とされた子供や老人は収容所に到着直後に、ガス室で殺害されていった。衛生環境も栄養も不足しており、多くのユダヤ人が病気でも死んでいった。ホロコーストでは約600万人のユダヤ人やロマらが殺害され、アウシュビッツ絶滅収容所では110万人が殺害された。

写真にある『ARBEIT MACHT FREI』のBの文字は上と下が反対になっているが、これはナチスに抵抗した囚人が逆にしたと言われている(実際にそのような意図があったのかどうかの真意は不明)。強制収容所内には、「労働は自由への道」だけでなく「正直は一生の宝」「雄弁は銀、沈黙は金」といったスローガンや、「おとなしく行動せよ」「バラック内では帽子を脱ぐこと」といった注意書きがあちこちに掲げられていた。

写真:ロイター/アフロ

炎上しやすく拡散されやすい『労働は自由への道』

欧米やイスラエルでは学校でホロコースト教育が導入されているところが多いので『ARBEIT MACHT FREI』の意味は欧米人なら多くの人が知っており訴求力も高い。特にポーランドはナチスの絶滅収容所が集中的に建設された地域である。

また、このような欧米人にとってインパクトある用語を使えば拡散されやすいので、ワクチン接種に反対するデモによく使われる。だがホロコーストやナチスについては今でも欧米では反ユダヤ思想が根強く、民族憎悪やヘイトと結びついているので、非常にセンシティブな問題で炎上の要因になりやすい。

そして欧米では新型コロナウィルスのパンデミックの不自由な状況やマスク着用の義務化、ワクチン接種の強制をホロコーストに例えるたび、当時のユダヤ人の悲惨な境遇や生活とは異なると、「ホロコーストに例えることは犠牲になったユダヤ人に失礼だ」「迫害されていたユダヤ人とは状況が違う」などと言われていつもネットで炎上している。今回もニュースにもなっており炎上している。

ワクチン接種やコロナ対策の政策をホロコーストと比較すると、必ずネットで炎上するし、ユダヤ団体が反対するコメントをして、テレビやニュースなどで報じられる。そのため、ワクチン接種に反対する人たちは、炎上して目立つことを目的に、わざわざ強制収容所の囚人服や黄色い星を着用して、デモの写真をSNSに掲載したり、メディアに出たりすることによって、自分たちの主張をアピールしている人も多い。

今回のポーランドでのワクチン接種反対デモでホロコーストに例えられていたことについても、イスラエルのポーランド大使館のタル・ベン・アリ・ヤーロン氏は「私の父の家族の多くがアウシュビッツ絶滅収容所で殺害されました。他の100万人以上の犠牲者と一緒に。このようなスローガンを掲げることは犠牲者と家族のホロコーストの記憶に対して大変失礼です」とツイッターで訴えていた。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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