「過小評価されてきた」オリ・金子の「記憶に残る」ノーヒッター・ニアミス
オリックスの金子千尋のノーヒットノーランはならなかった。しかし、「最も過小評価されている選手」が今後ファンの記憶に残るには、記録を達成する以上に効果的なドラマだった。
5月31日のオリックス対巨人戦。金子は9回を無安打無失点。しかし、味方打線も無得点で、9回裏には1死二塁で代打を送られた。後は自軍のサヨナラ勝ちを祈るも、2死満塁からエステバン・ヘルマンの打球は右飛。試合は12回までもつれ込み、巨人が亀井義行のソロ本塁打で5時間1分の熱戦を制した。
話を金子に戻すと、9回裏に代打を送った森脇浩司監督の判断は無理からぬところだ。サヨナラの好機だったし、すでに金子は144球を投げていた。しかし、降板の直接的な理由が代打を送られるという自責ではないことであるのは間違いないし、交流戦のパ・リーグ主催試合でDH制が採用されないという今季からの試みが影響を及ぼしたのも事実で、因果を感じる。
金子は間違いなく「最も過小評価されている選手」だと以前より感じていたが、ある意味では彼らしいドラマだったと思う。
大記録が達成できなかったのは残念だが、ものは考えようだ。過去78人がノーヒットノーランを達成しているが、2000年以降に絞ってみても11人全ての達成者を諳んじれるファンはまれだと思う。2005年8月に、9回まで完全試合ながら10回に安打を許した西口文也(西武)ではないが、自らの制御外の要因で快挙達成ならなかったことは、むしろ今後永きに亘りファンの人口に膾炙する可能性が高いだろう。メジャーでも2010年に9回2死から「世紀の誤審」で完全試合を逃したアーマンド・ガララーラ(当時タイガース)の悲劇は、同年のダラス・ブレイデン(アスレチックス)の完全試合よりも強く我々の脳裏に焼き付いている。
個人的には、ノーヒッター絡みのニアミスでは非常に印象深い思い出がある。2007年のことだ。当時、私は衛星放送のMLB中継の解説を仰せつかっていたのだが、その年のインディアンスの地元開幕戦となるマリナーズ戦で、インディアンスの先発ポール・バードは好投を続けていた。ところが降雪の中で行われたこの試合は、あまりに雪が激しくなったために5回表2死の段階で、主審は「降雪による中止」を宣言した。この段階でバードは無安打無失点。参考記録ながらあと1人でノーヒッターのところだった。逆に言えば、それでも異論が出てこないくらいの大雪だった。
ちなみに、この珍事を記録に残そうと帰宅後に再放送を録画しようとしたら、「試合未成立のため放送なし」だった。