なぜMLBと選手会はロックアウトを回避できなかったのか?昨年から何一つ合意できない完全な敵対関係
【MLBが31年ぶりのロックアウト実施へ】
日本時間の12月2日午後2時29分に、MLBと選手会が2016年に合意していた労使協約の期限が切れ失効した。現時点で両者の間で新しい労使協約が合意されておらず、2022年以降のシーズン運営が宙に浮いた状態になった。
米メディアが報じたところによると、期限切れを迎える前にオーナー達は全員一致でロックアウトを承認した模様で、期限切れと同時にロブ・マンフレッド・コミッショナーは声明を発表し、即座のロックアウト実施を正式表明している。
またMLB公式サイトに掲載されたQ&Aによれば、ロックアウトが適用された時点で各チームはFA選手を含めたすべての契約交渉が禁止されるため、まだ未契約の鈴木誠也選手と菊池雄星投手はロックアウトが解除されるまで交渉を再開できなくなった。
労使交渉のもつれからMLBが活動停止に追い込まれるのは1994年に選手会が実施したストライキ以来で、MLBがロックアウトを実施するのは1990年以来となる。
【今回のロックアウトは史上最長になる?】
すでに本欄で報告しているように、過去にMLBが労使交渉のもつれから活動停止になったのは8度あり、その内訳はストライキが5回、ロックアウトが3回となっている。
過去3回のロックアウトに関しては最長でも32日間に止まっていたのだが、マンフレッド・コミッショナーが発表した声明からも明らかなように、MLBと選手会は歩み寄る姿勢を全く見せず平行線の状態が続いており、今回は史上最長のロックアウトになるとの見方が強い。
とりあえず前回の記事で使用した表を再掲載しておくので、参考にしてほしい。
【最大の争点はぜいたく税制度の見直し】
マンフレッド・コミッショナーが発表した声明文を読むと、やはり最大の争点になっているのは、ぜいたく税制度の見直しだ。
選手会の姿勢は、以前から明確だ。今回失効した労働協約で採用されていた3段階に設定されたぜいたく税制度が完全にFA市場を停滞させてしまったので、FA市場を正常化させるために、ぜいたく税制度の見直しを求めている。
たしかに前労働協約下では大物FA選手の契約交渉がなかなか進まず、それに伴い、他のFA選手も悪影響を受けるようになっていた。
その典型的な例が2018年オフだった。当時FA市場で2大大物選手といわれていたマニー・マチャド選手とブライス・ハーパー選手ともに契約交渉が難航し、両者が契約合意できたのはスプリングトレーニング開幕後だった。
また前回のぜいたく税制度の影響で、各チームは年俸総額を押さえる傾向にあり、年俸額上位125人の平均年俸で決まるクォリファイングオファーが、今年は史上初めて前年を下回る結果になった。
もちろん昨年の新型コロナウィルスの影響もあるだろうが、選手会にとっては由々しき問題だ。
【昨年から続くMLBと選手会の敵対関係】
だからといってMLBは、選手会の要求を100%受け入れるわけにはいかない。むしろMLBは選手会とは真逆の立場で、むしろぜいたく税制度の限度額を下げたい意向が強い。
そのためマンフレッド・コミッショナーが声明でも明らかにしているように、史上初めての最低年俸総額の設定やFA制度の見直し、ユニバーサルDH制の導入などの妥協案を提示したようだが、ぜいたく税制度の根本的な部分で意見が割れている選手会を納得させることはできなかったようだ。
いずれにせよMLBと選手会の関係は、今回の労使交渉前から完全に冷め切っていた。
昨年新型コロナウィルスの影響で活動休止に追い込まれ、活動再開及びシーズンの実施について話し合った際も、試合数を含め何一つ合意できないまま交渉期限を迎え、結局MLBの案通りのシーズン実施に追い込まれている。
今シーズンに関しても、開幕前に新型コロナウィルスの対策プロトコルを含めたシーズン実施要項について協議していたが、やはり両者が合意することなくシーズンが開幕している。
そんな冷え切った関係のまま労使協約の交渉を続けていたのでは、建設的な話し合いなど難しいのは自明の理だった。
【本当に早期合意は可能なのか?】
コミッショナーの声明によると、ロックアウトの即刻実施は、お互いに労働協約の早期合意の重要性を再認識させるとともに、スプリングトレーニングの遅延など来シーズンへの影響を抑えるためだとしている。
果たしてマンフレッド・コミッショナーが希望するように、ロックアウト実施により新労使協約の早期合意は可能なのだろか。今となっては両者の話し合いに委ねるしかない。