ドイツのバス事情 運転手「低賃金」と「過酷な業務」は日本と同じ?!
1月中旬に起きた軽井沢スキーツワーバスの事故で15人の犠牲者が出た。そのうち13人はすべて大学生と知リ、同年齢の子どもを持つ親として非常に胸が痛んだ。
ドイツのバス会社は、運転時間と休憩/休息時間の法令に基づき、運転手へ運行指示を出す。とはいえ、バス運転手はこの法令に守られて快適な業務についている訳ではなさそうだ。
さらに、このところ格安長距離バス会社の集客競走が激化し、バス運転手の不足も深刻な問題となっている。
ドイツのバス事情を探ってみた。
運転は1日9時間まで、休憩は4時間30分の運転で45分
ここで紹介する「バス運転手の道路交通労働時間法」は、9人乗り以上のバスに焦点をあてて例を挙げた。
1日の運転時間は最長9時間。週に2回だけ1日10時間まで運転が認められている。その場合は他の日の運転時間を短縮し調整する。1週間(月曜日の0時から日曜日の24時まで)の運転時間は最高56時間まで。2週間続く運転は上限90時間まで(運転手1人の場合)。
休憩は、運転時間4時間30分につき45分。1回で45分の休憩が無理ならば、15分を3回、または15分と30分と分けて休憩することが義務付けられている。1日の休息時間は少なくとも11時間。
信号待ちや交通渋滞なども運転時間に加算される。ストライキや大きな事故による渋滞、自車の事故が発生した場合は運転時間に加算しないなど、ここでは紹介しきれないほど法令は多岐にわたる。
バス車内には電子記録装置が搭載されており、運行時間や距離、休憩や休息時間などすべての記録が残る。この記録で、運転手の動向が判明する。この電子記録は帰社後、バス会社に提示する。アウトバーン(高速道路)や一般道路で警察が電子記録を抜き打ちチェックすることもある。
これらの法令を遵守しないと、運転手は免許を失うこともある。同時にバス会社は運行指示が充分でなかったとして罰金が課せられ、最悪の場合営業停止となる。
バス運転手不足の理由
バス運転手不足の大きな理由は、「運転手の低賃金」と「格安運賃で集客するバス会社間の競争激化」といっていいだろう。
まずはバス運転手の低賃金について。
バス運転手の平均月収は税込みで約2,000ユーロ(約26万円)。昨年1月より最低賃金1時間8.50ユーロが導入されたが、賃金の改善は見られないようだ。ドイツの被雇用者平均月収約2,700ユーロ(約35万円)(2014年・連邦統計局)に及ばない。
バス会社は4200社。車数は7万6000台でそのうち9500台が長距離バスとして走行中だ。
バス運転手数は13年には9万1000人。不足する運転手は2000人以上(ドイツバス連盟2015年)という。
バス運転手の業務は、運転の他、客の荷物の受け入れ、車内の清掃(トイレも含む)、水やスナック販売等も兼ねる。バス免許取得費用は1万ユーロ(約130万円)ほどで個人が負担する。
運転手不足のふたつめの理由は、ここ数年間で格安長距離バス会社間の競争が激化したことだ。
バス会社は格安運賃と運行路線の拡大で集客に注力する一方、業務が増えても運転手の補充ができない状態だ。運転手は無理を虐げられ、賃金も低いためなり手がいない。低価格競争についていけず、多くのバス会社も倒産した。
例えば、ミュンヘン・シュトゥットガルト片道運賃は、乗車の時間帯や曜日にもよるが、最安で9ユーロ(国内最大手Meinfernbus参照)。これに対して、国鉄運賃は57ユーロ(特急ICE普通車)で、バスの6倍以上だ。
同区間の長距離バス乗車時間は3時間15分ほどで、国鉄は2時間10分ほど。バスは道路事情により、遅延もよくある。それでも待ち時間を承知で格安運賃のバス旅行を選択する乗客は後を絶たない。
格安長距離バスがブームとなり始めた2013年に比べて、15年は国鉄利用客の4割以上が低運賃のバスに乗り換えた。バス利用客は、若者や時間に余裕のある高齢者、小さな子ども連れの家族が多いという。
現場の本音・安かろう良かろうは成立しない!?
法令に従いバス運転手の業務環境は整っているように見えるが、現場の声を聞くとそうでもなさそうだ。
次の地点で交代するため、走行バスの助手席で待機していたD運転手は、「4時間の車内待機に賃金が支払われない」と漏らす。
「2ヶ月ほどバス運転手を続けたら、過労で体を壊す。そのうち大きな事故につながりかねない」と、雇用主に苦情を申し出たものの、対応してもらえなかった」というA運転手。
車内トイレの水が出ないといわれれば、運転手は客を無視するわけにいかない。休憩時間を削って修理することもある。契約書には時間給とあったが、実際は1区間/1日均一料金で支払いされた。渋滞に巻き込まれて、予定通り運行できなくても経営者は関心を示さないなどと運転手の不満は絶えない。
格安長距離バス会社国内最大手のMeinfernbus によれば、「現在80ほどのバス会社と契約しているが、全国共通の労働協約はない。その会社の所在州により賃金や勤務契約も様々」と言う。
バス会社の元経営者からは、今後の成り行きを心配する懸念の声があがっている。
DeinBus.deの元経営者で格安長距離バスのパイオニアと言われたGさんは、価格競争についていけず倒産を経験した。
同氏によれば、「運賃は、最低でも1キロ当たり客1人8から10セントが妥当な額。この金額が守られていれば、バス経営者も何とか採算がとれる。このまま価格競争が続けば、さらに倒産するバス会社が増える」と言う。(参考運賃・前出ミュンヘン・シュトゥットガルト片道250キロx10セント=25ユーロ。現行の9ユーロでは経営が全く成り立たない)
安かろうは必ずしも良いとはいえないし、企業としても成立しないのは明らかだ。だが、低運賃を求める客がいる限り、格安長距離バス会社の集客競走は続いていくのだろう。