ドイツ最底賃金法導入で得をした人、損をした人
2015年1月より最低賃金1時間8.50ユーロ(約1200円)がドイツ国内全労働者と全産業で導入された。貧富の差を改善すべく開始された最低賃金法だが、ここに来て数々の問題が浮上している。(特記以外の画像は筆者撮影)
得をした人・370万人
「得をした人、損をした人」というと不評を買いそうだが、 まずは最低賃金法導入で誰が恩恵を受けたのだろうか。
昨年、連邦労働者社会省(BMAS)は同法導入により、370万人の労働者がその恩恵を受けると試算した。だが、現時点では予想どおりすべての労働者が恩恵を受けたのかどうか報告されていない。
ドイツ連邦統計局は、5月の消費者物価指数が前年同月比0.7%上昇したと発表した。これで 4カ月連続のプラスとなった。(6月1日付け)
ガブリエル経済・エネルギー相(SPD)は、昨年のインタビューで「最低賃金法導入により個人消費が活性化する」と言及した。現段階では同氏の予想が的中したかのように見える。
だが、順調な滑り出しをしたとは言い切れない。最低賃金導入法に対し、得をした人の声はあまり聞かれず、損をした人の不満ばかりが噴出しているのだ。
損をした人・約24万人
この5月中旬、ヴェルト紙は約24万人のミニジョブ労働者が最低賃金導入で職を失ったと報告した。(ミニジョブの説明は後ほど)
最低賃金導入による失職者の全国平均は3.5%。一方、ザクセン・アンハルト州約8%、チューリンゲン州約7%と、東部ドイツの労働者に失職者率が高い。(今年1月から3月までの統計)
なかでも、ホテル、レストラン業界、美容院、農作物に携わる労働者の失職が深刻だ。雇用者の多くは1時間8.50ユーロを支払うためにはやむ終えないと言う。
そればかりでなく、商品やサービス料の値上げも続いている。
例えば、ドイツ西南部バーデン・ヴュルテンベルク州では、最低賃金導入によりタクシー料金を1キロ20セント値上げした。昨年、労働者を解雇したタクシー会社もあるという。
美容院を経営する女性Bさんは、10%の値上げを強いられたと語る。
「値上げ後、顧客の足が遠のいてしまった。これまで4週間に一度美容院を訪れた客が、6週間にというようなサイクルになった。生き残りには値上げは必要だった。客の気持ちも理解できるが複雑な心境」と不服を訴える。
レストラン業界にしてもしかり。ミニジョブ労働者を解雇したうえ、値上げも続いた。
「最低賃金導入で職を失った犠牲者は、生活費の足しにと働く高齢者や生活費を稼ぐ学生が多い」という専門家の声も上がっているが、職業安定所に言わせると、「最低賃金法導入による悪影響はない。失業者は相変わらず6.5%前後と低い」とのことだ。
ただし、これから秋にかけて農作物収穫従事者が急増するため、労働市場に大きな変化が見られるだろうといい、失業者の増加を暗示する。
損をした人その2・雇用者の抱える問題、そしてしわ寄せは消費者にも
雇用者側から見た問題は、最低賃金導入により、膨大な書類整理が増えたことだ。例えば、農作物に携わる季節労働者やミニジョブ労働者を抱える雇用者。今年から毎日何時間仕事をしたのかを記録する義務が発生した。その記録は2年間保存が義務付けされた。
さらに、これまではひとシーズンいくらという契約をしていた季節労働者にも最低賃金法が適応される。これら労働者に対し、雇用者は従来のように収穫最盛期に仕事が終わるまで手伝ってもらうという訳にはいかなくなった。経費がかかりすぎてしまうからだ。
また農作物栽培や収穫には家族の手助けも必須だ。しかし、今年からは最低賃金法により、家族にも報酬を支払わねばならない羽目になった。妻や成人(18歳以上)の子供が家業を手伝った場合、一般労働者と同じく支払いが発生する。加えて、その時間管理や書類作成などの申請手続きが増え、雇用者のフラストレーションは高まるばかりだ。
雇用者のCさんは「最低賃金は労働現場に見合った法ではない」と嘆く。
今、ドイツは白アスパラガスの最盛期。白アスパラガスを求めて、消費者は行列待ちで買いに出かける。「白アスパラガスは季節限定商品(6月24日まで販売)」という言葉に魅せられて、節約家のドイツ人もこの時ばかりは財布のひもを緩める。
今年は天候が不順でアスパラガスの値が高くなっている。。。と思いきや、ここでも最低賃金導入のあおりを受け値上がりが。昨年の最盛期、1キロ8ユーロだった1級品は今年10ユーロ。アスパラガス畑で作業する労働者を横目に見ながら、複雑な気持ちで帰路についた。