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犠牲者はトランプ氏の左後方の位置にいた。映像から見えた直後の現場

安部かすみニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者
(写真:ロイター/アフロ)

13日にトランプ氏が銃撃された現場で死亡したのは、同州在住で消防活動をする、コリー・コンペラトーレ(Corey Comperatore)さん(50)だった。

CNNによると、コンペラトーレさんはトランプ氏の熱心な支持者で、事件当日はトランプ氏の演説に参加できることをとても楽しみにしていたという。

コンペラトーレさんと同じように観客席にいた救急医の男性の証言では、銃声が聞こえた後、撃たれた人がいるというので近づくと、頭部を負傷した男性(コンペラトーレさん)が倒れていたという。

右耳の上を弾がかすり負傷したトランプ氏が演壇でうずくまりシークレットサービスに介抱されていたまさにそのとき、トランプ氏の演壇に向かって左奥(左後方)の観客席では、一人の命が奪われた。

観客が撮影されたとされる当時の銃撃直後の混乱した様子を伝える動画もいくつか残されており(「ストーリーフルニュース」など)、アメリカでは話題になっている。その映像を見ると、銃撃直後はその左奥一帯もカオスと化していたことがわかる。

コンペラトーレさんは当時、家族と一緒に観客席(階段のシート)の上から数段下の左寄りにいたと見られている。

発砲音がしたということで観客席では多くの人が身を屈めた状態だったが、数人が立ち上がり、銃撃されたコンペラトーレさんを指差しながら、「頭を撃たれた人がいるぞ!」と護衛隊(シークレットサービスや地元警察)に助けを求めている。「撃たれただと?」という声も聞こえる。

倒れたコンペラトーレさんの近くには星条旗のデザインのキャップをかぶった女性が声をあげて泣き叫んでいる。

その後は、護衛隊が数人やって来て、その場にいる大勢の人々に「MOVE」と言い、ここから立ち去るように促す。

警官に混じってUSAというロゴ入りの白いTシャツに赤いキャップの男性(前述の医師)がおり、コンペラトーレさんに心肺蘇生法をしている。星条旗のデザインのキャップの女性は目頭を押さえて泣きじゃくり、ピンクのキャップの女性もその場でうずくまり、どうして良いかわからない様子。時々グレーのTシャツの男性と3人で抱き合っている。

その後警官が「ほかに撃たれた人はいないか」「みんな大丈夫か?」と確認。そして群衆に向かって「EVERYBODY, DOWN」という声。両手を使い大きなリアクションで人々に身を屈めるよう叫ぶ。

心肺蘇生を試みていた男性は、警官に手を止め離れるように促される。

銃撃事件後の会場。コンペラトーレさんはこのような階段のベンチシートで演説を聞いていた時、突然銃で撃たれた。
銃撃事件後の会場。コンペラトーレさんはこのような階段のベンチシートで演説を聞いていた時、突然銃で撃たれた。写真:ロイター/アフロ

そしてその後すぐに警官3、4人がコンペラトーレさんを抱え、観客席から後ろのテントへ運び出す。家族らしきキャップの女性2人とグレーのTシャツを着た男性も続いて退場した。

心肺蘇生をしていた男性のために別の男性が「水はないか?」と周囲に尋ねると、10本以上のペットボトルが次々に集まった。男性は水を頭からかぶり、手や脚についた血を洗い流していた。

コンペラトーレさんは自身が支持するトランプ氏がやって来て、彼の政策を直接聞くことができるとあり、週末に家族と共に楽しみに出かけた場所で起こってしまった思いもよらぬ悲劇だった。

この出来事は、いつどこで銃暴力の犠牲になるかわからないという、銃社会アメリカの恐ろしさを伝える事件だったと思う。

また、現場にたまたまいた男性医師はおそらく蘇生は難しいとわかりながら、混乱の中でも何か自分にできることはないかと、心肺蘇生を行なったのではないだろうか。そしてあの時点ではまだ単独犯によるものとは誰もわかっていなかったからさらに銃弾が飛んでくる恐れもあった中、Let me help(手助けしましょう)と申し出て、最後の望みにかけた。この男性医師の勇気ある行動に心を動かされた人も多かっただろう。

亡くなったコンペラトーレさんのご冥福をお祈りいたします。

  • REVISED Version:オリジナル原稿より一部加筆・修正をしました。

(Text by Kasumi Abe)無断転載禁止

ニューヨーク在住ジャーナリスト、編集者

米国務省外国記者組織所属のジャーナリスト。雑誌、ラジオ、テレビ、オンラインメディアを通し、米最新事情やトレンドを「現地発」で届けている。日本の出版社で雑誌編集者、有名アーティストのインタビュアー、ガイドブック編集長を経て、2002年活動拠点をN.Y.に移す。N.Y.の出版社でシニアエディターとして街ネタ、トレンド、環境・社会問題を取材。日米で計13年半の正社員編集者・記者経験を経て、2014年アメリカで独立。著書「NYのクリエイティブ地区ブルックリンへ」イカロス出版。福岡県生まれ

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