囲碁界の大転換期になるか 井山裕太四冠試練の年末
20歳(当時最年少)で名人を獲得してから10年。七大タイトル独占を2度も達成した囲碁界の絶対王者・井山裕太四冠がふたつのタイトル戦でカド番(あと1敗で失冠)に追い込まれている。挑戦者は20歳の芝野虎丸名人(王座戦)と21歳の許家元八段(天元戦)のふたり。ここで井山裕太一強時代が終わり群雄割拠の時代に突入するのか。井山一強時代が続くのか。運命の年末を迎えている。
七大タイトル、挑戦手合の年間スケジュール
年明けに棋聖戦が開幕し、3、4月が十段戦。5月から本因坊戦が始まり、7、8月が碁聖戦。8月末から名人戦と、ここまではほとんど重なることがないのだが、名人戦の終盤、10月末から天元戦と王座戦がダブルで始まる。
天元戦、王座戦の両方に出場するとスケジュールがきつくなるのは必至だ。
また、名人戦七番勝負が6、7局までもつれると、天元戦、王座戦とのトリプルで戦うことになり、疲労度はさらに増す。
この状況を長年、井山四冠は戦い続けてきているのだ。
2014年、前人未到の六冠を達成し、井山四冠は七冠を目指していた。
ところが、12月末に天元戦、王座戦をたった数日の間に立て続けに失い、四冠まで後退してしまったのだ。井山四冠にとって、悪夢の数日だったことだろう。
しかし25歳だった井山四冠は翌年から復調する。タイトルを次々奪還し、2016年4月に、最後に残ったタイトル「十段」を獲得し七冠保持の大記録を達成したのだった。
井山四冠は不調ではない
2018年に碁聖を許家元八段に、名人を張栩九段に奪われ、五冠に後退していたところ、2019年春には村川大介九段に十段も獲られ、さらに、奪われた碁聖、名人でも挑戦者にもなれず現在、井山裕太は四冠となっている。
今年は名人戦挑戦手合に出場していないので、スケジュール的にはまだましなのだが、以前とは大きく違うことがある。
30歳を迎えた井山裕太四冠にとって、10歳ほど年下の挑戦者とダブルで戦っていることだ。
10月にあった「女流棋士フォトブック大感謝祭」で、たまたま見に立ち寄った芝野名人、許家元八段が壇上に上がって挨拶する嬉しいハプニングがあった。
「虎丸先生に頑張ってもらい、協力して頑張りたい」と許家元八段がいうと、芝野名人も「許家元先生と協力して、井山先生に疲れてもらって……」と茶目っ気たっぷりにスピーチし、会場の笑いを誘った。
そのセリフが、現在、現実のものになりそうになっているのだ。
碁聖戦も名人戦も挑戦者になれず、不調がささやかれていた井山四冠。名人戦挑戦手合の最中はインターネットで中国や韓国の世界ランカーと次々対戦し、連勝するなど調子を上げている。
さらに、挑戦手合の合間の11月26日に韓国に飛び、国別対抗勝ち抜き戦で日本の大将で出場。7人抜きをしていた中国の楊鼎新九段を完勝で破った。
調子は決して悪くない。
芝野名人との王座戦も、AIの判定でも両者互角が終盤まで続く接戦が続いている。
運命の王座戦第4局は11月29日。井山四冠が勝てば12月12日の最終局にもつれる。
また、天元戦第4局は12月9日、第5局は12月18日に予定されている。
年末、囲碁界の勢力図がどうなっているだろうか。